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GAFAの法人税逃れは日本だけの問題ではない

プレジデントオンライン / 2019年8月8日 6時15分

GAFAはデジタル経済を牽引する革新的企業と、複雑な仕組みを活用し極力税金を払わない租税回避者の二つの顔を持っている。 - 写真=ロイター/アフロ

GAFAに代表されるプラットフォーム企業の利益は、どこの国で課税されているのか。中央大学法科大学院の森信茂樹特任教授は「日本だけでなく世界中で法人税逃れをしているという指摘がある。最大では全世界で24兆円もの法人税が失われている。法制度の整備が急務だ」と指摘する――。

※本稿は、森信茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

われわれは、毎日のようにAmazon(アマゾン)で買い物をし、Google(グーグル)で検索し、Apple(アップル)で音楽を聴いています。それらなしでは通常の生活はできないほど、われわれの生活に浸透しています。

しかし彼らは、われわれ日本人を相手にビジネスをして収益を計上しながら、日本にほとんどと言っていいほど、法人税を納めていません。このような現象は日本だけではなく、欧州諸国やインド、中国といった新興国、さらには途上国でも生じています。

2015年にOECD(経済協力開発機構)が公表した試算によると、米国IT企業などが行う、無形資産のタックスヘイブン(租税回避地)への移転による国際的租税回避によって、全世界の法人税は、1000億~2400億ドル(1ドル100円で換算すると10兆~24兆円)も失われています。これは、全世界の法人税収の4~10%にも相当する巨額な金額になります。

■「プラットフォーム」というビジネスモデルが出現

なぜこのようなことが起こっているか。その背景には経済のデジタル化=デジタル経済の存在があります。デジタル経済のもたらす大きな変化を挙げると、次の四つにまとめられます。

第1の変化は、モノからサービスへの転換です。デジタル経済の下では、モノの取引がデジタル財というサービスの取引(役務の提供)となります。例えばこれまで百科事典は、書籍というモノ(ハードウェア)でした。筆者が幼い頃は、多くの家庭に『ブリタニカ』『アメリカーナ』などの百科事典が、応接間に「飾り」としておいてありました。

しかしその後ブリタニカは、訪問販売部門を廃止し、CD-ROM取引になりました。さらに2006年からは、オンラインサービスになっています。知りたい物事を探すのに本を読むのではなく、インターネットで検索サービスを利用するように変化したわけです。これは百科事典という書籍・モノが、デジタルコンテンツ(無形資産・知的財産権)のオンラインサービスに転換したということを意味しています。

音楽の世界でも革命的な変化が生じてきました。これまでレコード盤、CDといったモノ形態で流通してきた音楽ですが、今は音楽コンテンツというデジタル財となり、インターネットでわれわれが入手するサービスになっています。

第2の変化は、「プラットフォーム」というビジネスモデルが出現したことです。プラットフォームというのは「基盤」とか、「場」を意味する言葉ですが、ITの世界では「多くの顧客向けに、さまざまな製品やサービスを展開する環境」というような意味で使われています。GAFA(グーグル、アマゾン、Facebook=フェイスブック、アップル)やネットフリックスを加えたFAANGは、米軍屈指のプラットフォームを運営する企業(プラットフォーマー)の略称です。

GAFAに代表される企業は、さまざまなサービスを、インターネット上のプラットフォームで供給するプラットフォーマーとして、多くの収益を生み出し、国境を越え、新たな経済フロンティアを広げ、世界経済を牽引する存在になっています。

■ビッグデータは現代の「原油」

第3の変化は、企業価値が「無形資産」に転化したことです。デジタル財・コンテンツの本質は、著作権や特許権などの無形資産です。さらにはGAFAが価値を生み出しているビジネスモデル自体無形資産です。つまりデジタル経済の下では、企業価値は無形資産によって成り立ち、集積されるということです。

しかし、無形資産ほどその価値を適正に評価するのが難しいものはありません。会社内部で形成され関連会社間で取引されるので、第三者的な比較対象取引はありません。また、取引時点において、ある無形資産が将来どの程度の所得を生み出すかについての確たる予測は、当事者ですら困難でしょう。価値の評価が難しいということは、課税上大きな問題を生じさせます。

無形資産にはこのような特徴がある上、権利の移転が容易なので、低税率国やタックスヘイブンにある関連会社などに移転することにより、租税が回避できるということにもなります。そこでOECDで長年、無形資産についてはグループ内部の取引であっても、独立企業間で取引する際の価格(独立企業間価格)を適用することを原則とする移転価格税制として議論の積み重ねが行われてきました。しかし未だ、この問題は解決されておらず、今後とも税務当局間、さらに企業との間でさまざまな議論が行われていくと考えられます。

4番目の変更は、ビッグデータの存在です。デジタル経済の下で価値を生み出す無形資産の基礎となるのは「ビッグデータ」です。これまではデータの分析では原因と結果の「因果関係」を求める作業が重要でしたが、今は、一方が変化すれば他方も変化する関係である「相関関係」を求めることが重要になっています。「膨大な電子カルテのデータから、オレンジジュースとアスピリンの組み合わせで癌が治ることが言えるなら、正確な理由はどうあれ、この組み合わせが癌に効くという事実のほうがはるかに重要となる」(マイヤー=ショーンベルガー他『ビッグデータの正体』)のです。

英エコノミスト誌(2017年5月6日号)は、“Data is giving rise to a new economy”という特集の中で、ビッグデータを石油の埋蔵量と同様と表現し、ビッグデータの流入は、新たなインフラであり、新たなビジネスであり、新たな独占であり、新たな政治であり、新たな経済であると評しています。とりわけ、データ解析の質が向上したことから、人々の年齢・性別・所得などがリアルタイムで把握でき、SNSを通じて写真やビデオまで紐付けられ、これから世界は全てセンサーでつながること、さらにはそのような進歩により日々データの価値は上昇し、AIを活用することによりターゲット広告をはじめ、さまざまな認識サービスに活用され、新たな収益源となっていることが述べられています。

ウーバーも電気自動車メーカーのテスラも、企業価値はそのビジネスモデルというより、保有しているビッグデータにあるとも述べています。ビッグデータは今日「新たな富」と呼ぶにふさわしい存在になったと言えるでしょう。

■消費者の住む国の政府に課税されずにビジネスが可能に

経済のデジタル化は、課税、とりわけ国際課税の世界に大きな変化をもたらしています。

第1に、国境を越えてビジネスを行う場合、現地に支店などの物理的な存在を設けなくても、規模拡大することが可能になりました。これまで日本の消費者を相手にモノを販売しようと思えば、日本に支店や事務所を設けてビジネスを行う必要があったので、それらの拠点を通じて日本政府の課税権に取り込むことが可能でした。この拠点のことを税務では恒久的施設(PE=Permanent Establishment)とよびます。

しかし、デジタル経済の下では、企業はサービスを提供する消費者が住む消費国(源泉地国)に、課税権の根拠となるPEを置かなくても、ビジネスをすることが可能になりました。つまり、消費者の住む国の政府に課税されることなく、国境を越えるビジネスで利益を上げることができるようになったということです。アマゾンのように「日本人相手に、日本で仕入れた商品を販売しながら、日本国には法人税を納付しない」というビジネスモデルが可能になったのです。

■どこの国でも課税されない巨大プラットフォーム企業

2番目は、価値の創造された地と納税地の乖離という問題です。この問題は企業価値の無形資産化とも深く関連しています。

デジタル経済における価値は、どこから生まれるのでしょうか。当然、先進的なビジネスモデルやそれを無形資産化した企業から生じているので、現在の国際課税のルールでは、企業の居住地、分かりやすく言えば本社があるところに生じると考えていいでしょう。そして支店や工場(PE)が消費国にあれば、消費国はそこに帰属する利益に対して税金を持つことになります。

デジタル経済の下では、その価値の中核である無形資産を低税率国やタックスヘイブンに移転させ、そこに所得を集中させて租税を回避することが可能になります。無形資産は法的な権利なので、関連企業間での移転は容易で、その結果、無形資産の開発をもたらした場所と、法的所有権の存在する場所とが容易に分離されることになります。こうして価値創造地と納税地の乖離が生じるのです。

■価値創造地と納税地の乖離が生む「二重非課税問題」

一方で、GAFAのビジネスモデルを見ていると、ユーザーが居住する「消費国」から大量のデータを集めることから成り立っています。ユーザーを提供するデータがなければ、ユーザーも新たなサービスを受けることができないという相互依存関係が構築されており、ユーザーもそのビジネスモデルに組み込まれている、何らかの価値創造に貢献しているとも考えられるのです。ユーザーが参加することでシナジー効果を高めているわけで、ネットワーク効果と言われます。

森信 茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社)

つまり企業価値の一部はユーザーが提供するデータなので、その価値がどこに帰属するのかという議論では、ユーザーやその居住する国にも価値の一部が帰属する、と考えられるわけです。この問題はデジタル経済の下で発達したビッグデータの価値は、どこに帰属するのかという、富を巡る新たな争いと表現することができます。それが「税の帰属と税収の配分」という最も厄介な問題を生じさせているのです。

このように、価値創造地と納税地が乖離してまった結果、GAFAに代表されるプラットフォーム企業の利益が、どこの国(税の用語で言えば法人の居住地国と、利益を上げている消費国)でも課税されない、あるいは極めて低い税率でしか課税されないという状況が作り出されています。これが「二重非課税問題」と呼ばれているのです。

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森信 茂樹(もりのぶ・しげき)
東京財団政策研究所研究主幹
法学博士。中央大学法科大学院 特任教授。1950年広島生まれ、73年京都大学法学部卒業、大蔵省入省。英国駐在大蔵省参事、主税局税制第二課長、総務課長、東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、財務省財務総合研究所長を最後に06年退官。大阪大学教授、東京大学客員教授、コロンビアロースクール客員研究員などを歴任。ジャパン・タックス・インスティチュート所長。著書に『デジタル経済と税』『税で日本はよみがえる』(以上、日本経済新聞出版社)など

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(東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹)

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