月額5800円「洋服レンタル」にハマる人の正体
プレジデントオンライン / 2019年8月14日 9時15分
■サブスク乱立時代に生まれた「洋服借り放題」
“サブスク”が百花繚乱だ。サブスクとは、買い切りではなく、定額で一定期間利用できるサブスクリプションサービスのこと。定額制はヘビーユーザーほど割安になり、事業者側も安定的な売り上げが見込めるメリットがある。
音楽配信のスポティファイや動画配信のネットフリックスといったデジタル系サービスをきっかけに注目され始めたが、今年2月にはトヨタが新車を3年間使えるサービス「KINTO」を発表、6月にはキリンがクラフトビールのサブスク「CLUB BTG」を始めるなど、いまやリアルワールドにもサブスク化の波が押し寄せている。
アパレル業界も無縁ではない。「アース ミュージック&エコロジー」といった人気ブランドを抱えるストライプインターナショナルは、2015年9月に、ファッションのサブスクサービス「メチャカリ」を開始。スタート以来、サービスは順調に拡大し、4年目の現在、会員数1万3000人の規模に成長している。
なぜファッションのサブスクを始めたのか。メチャカリ事業を立ち上げた澤田昌紀・メチャカリ部部長は、自社の事情を明かしてくれた。
![澤田 昌紀・メチャカリ部部長](https://president.jp/mwimgs/a/7/670/img_a73b96aee5f57e0fcd9a72e3f9d5d28b229873.jpg)
「わが社は13年にグループ連結で売り上げ1000億円を超えました。ただ、アパレル市場そのものは縮小傾向にあり、既存事業だけでは成長に限界があります。1兆円企業を目指すには、新規事業が必要でした」
■店舗事業との“利益の食い合い”も予想されたが
新規事業のヒントをくれたのは、社長の石川康晴氏だった。
「トヨタは作って売るだけでなく、リースや中古車の買い取りもしている。アパレルも製造販売にとどまらず、川上から川下までもっと広く手掛けられるはずだ、とアドバイスをくれまして。売る以外のビジネスを検討した結果、ファッションのサブスクに行き着きました」
実はメチャカリが事業化される7カ月前に、他社が洋服の定額レンタルサービスを始めている。ただ、自社でデザインし、製造するアパレルメーカーのサブスクはメチャカリが日本初。澤田氏は、メーカーである強みをこう強調する。
「自社で作るので当然、仕入れコストは抑えられる。また、洋服ははやり廃りのあるナマモノ。新品新作をいち早く提供できることも強みです」
ただし、メーカーが行うサブスクにはデメリットも存在する。既存事業とのカニバリゼーションだ。安く借りられるなら、顧客は自社製品を買わなくなるのではないか。そんな不安から、社内で抵抗が起きるケースも珍しくない。
「カニバリは当然、懸念しました。そこでわが社の会員基盤を使って100人を対象に3カ月、テストマーケティングを実施したのです。その結果、多くのユーザーはメチャカリを使いつつ洋服も買っていました。このデータがあったので社内も説得できました」
■利用者は「流行好きな若い女性」ではなかった
メチャカリのベーシックプランは、月額5800円(税別)で3アイテムを借りられる。3アイテムの枠内であれば、何度借り換えてもいい(返却手数料1回380円)。ストライプの主要ブランドの価格帯は4000~7000円前後なので、1~2着を買う料金で3着以上のアイテムを着ることができる。スポーツブランド「プーマ」など他社製品も多く展開しており、いろいろな洋服を着てみたいヘビーユーザーには、魅力的なサービスだ。
![メチャカリのアイテム一覧](https://president.jp/mwimgs/9/f/250/img_9f4f5cfdc625b32b05685d5e1b89e4ee225194.jpg)
澤田氏が当初想定していたターゲットも、「洋服大好きな若い子たち」だった。一般的に若い層ほどファッションに関心が高い一方、経済的には余裕がない。ファッションを安く楽しむことができるサブスクは、その層にとって垂涎のサービスであるはずだ。しかし、実際にサービスを始めると、中心になっていたのは想定外の層だった。
「データを取ると、過去に店舗やECサイトで私たちのブランドを購入した経験のある人は3割しかいませんでした。7割はメチャカリ独自のお客様で、中心は20~30代前半の働く女性やママさん。メチャカリで初めて私たちのブランドを着たという方も多いです」
働く女性やママさんは仕事や子育てに忙しく、ファッションの優先順位は必ずしも高くない。なぜ借り換えるほどお得になるサブスクを利用するのか。澤田氏の分析はこうだ。
「メチャカリはアプリで簡単に借りられて、返却時のクリーニングも不要。衣替えをして、冬のコートを保管しておく必要もありません。その手軽さが、忙しくて洋服選びやメンテナンスに時間をかけられないお客様の生活にフィットしたのでしょう。サブスクのコスト面より、手間がかからないというベネフィットが注目されたようです」
■試着感覚で借り、気に入れば買い取れる
働く女性やママも、洋服に興味がないわけではない。おしゃれはしたいが、他に優先すべきことがあるから後回しになっているだけだ。本当は洋服好きであることは、買い取りサービスの利用者がいることからもうかがえる。
![](https://president.jp/mwimgs/2/2/250/img_22ca41acf025efa6beca0b320c5a00b0197794.jpg)
メチャカリには、借りたアイテムを返却せずに60日間がたつと、そのアイテムをそのままもらえる仕組みがある。それに加えて、2016年8月、借りたアイテムを気に入れば60日待たずとも割引価格で買い取りできるサービスも始めた。割引率は登録しているプランによって異なるが、「ベーシックプラン」(月額5800円)の場合は表示価格より5%オフとなる。
「60日経てば追加料金を払うことなくもらえるのだから、わざわざお金を払って買い取りするニーズはないと考えていました。しかし、お客様の声を参考にして買い取りの仕組みを導入したら、利用される方が想定以上にいらっしゃった」
このことから読み取れるのは、試着代わりのサブスク利用だ。洋服好きの人は、実物を試着してチョイスしたいと考える。しかし、忙しくて店舗に足を運ぶ暇はない。そこでサブスクを使って自宅で試着して、気に入ったものを買うという使い方が現れ始めたのだ。
「試着感覚という意味では、ECサイトで購入して、気に入らなければ返品するというやり方もあります。しかし、日本人は真面目で、一度買ったものを返品するのに抵抗感を持つ人が多い。欧米や中国のECサイト返品率は2~3割ですが、日本は1割以下。そうした国民性に、最初から返却することが前提のサブスクは合っている」
■コーデを代わりに決めてくれる新機能も好調
コスパより、時短につながるベネフィット。顧客が求めるものは当初の想定と違ったが、メチャカリは新たに分かった顧客ニーズに合わせてサービスの改善を続けてきた。
例えば今年6月から、QRコードを利用してファミリーマートやオープン型宅配便ロッカー「PUDOステーション」から返送できるサービスを開始。送り状を書く必要はなく、時間を気にせず返却できるのはありがたい。
![](https://president.jp/mwimgs/5/4/250/img_5455a4177b206907454ab9cba1be5bd9235738.jpg)
18年10月に導入した「パーソナライズスタイリングAIチャットボット」にも注目だ。これはアプリ内の行動履歴を基に、ユーザーに合わせたコーディネートをAIが提案するというもの。「メチャカリのアイテムは1万点以上で、借りたいものがない状況は考えにくい。ただ、忙しい人にとっては、借りたいアイテムが目の届くところにあることが重要。じっくり選ぶ時間がない人も、これならすぐに好きなアイテムを見つけられます」
チャットボットを使っている人の会員継続率は、未使用の人より高いという。これもメチャカリが“ショッピング大好き”派より“時短”派にウケている証左だろう。
■時間と資源のムダを嫌う価値観にフィットした
メチャカリの利用が広がる中で、澤田氏が感じている消費のトレンドがもう一つある。倫理的に正しいことを重視する「エシカル」だ。
「1980~90年代は高級ブランドの時代でした。その反動として2000年代はファストファッションが隆盛して、安く買って使い捨てにする文化が広がりました。その罪悪感から、いまは資源をムダにしないエシカルな価値観が広がり始めており、メチャカリもその文脈で利用されています」
メチャカリで貸し出すのは新品だが、返却後は中古品として二次流通市場に回される。その売り上げはメチャカリ事業に計上され、アイテムの補充やサービス改善に使われる。資源としてもビジネスとしても、エコサイクルができている。
メチャカリが人気を集める背景には、効率的にファッションを楽しみたいニーズと、資源のムダを嫌うエシカルな価値観があった。消費者がサブスクに求めるものは何か。サブスク化に乗り出すなら、それを見誤らないことが重要だ。
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ジャーナリスト
ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。
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(ジャーナリスト 村上 敬)
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