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宇宙飛行士が語る"宇宙の仕事と子育て"両立法

プレジデントオンライン / 2019年8月23日 15時15分

宇宙飛行士の山崎直子氏 - 撮影=原 貴彦

宇宙飛行士は仕事とプライベートのバランスをどうやって取っているのか。働きながら子育てをした宇宙飛行士の山崎直子氏に、イーオンの三宅社長が聞いた――。(第3回)

■仕事とプライベートのバランスは長い目で考える

【三宅義和(イーオン社長)】働き方についてお伺いしたいのですが、仕事とプライベートのバランスをどう取るかという点において、山崎さんはどういったことを意識されていますか?

【山崎直子(宇宙飛行士)】長い目で考えることですね。それは常に意識しています。たとえば私も育児休暇を取らせていただいた時期は、職場に対して申し訳ないという思いや、訓練が遅れてしまうのではないかといった焦りがあったことはたしかです。でも、長い目で考えれば、別にたいしたことはない。やはり人生は長いので、全体でバランスを取れればいいかなと思います。

【三宅】なるほど。常にバランスを取るのも逆に大変ですからね。

【山崎】そう思います。

【三宅】実際に働きながら子育てをするうえでご苦労はありましたか?

【山崎】もちろん一筋縄ではいきません。宇宙飛行士の仕事は、宇宙に行っている間は華やかに見えますが、実際はほとんどの時間を地道な訓練とほかの宇宙飛行士のサポート業務に費やします。私も試験に合格してから宇宙に行くまで11年かかりました。このように非常に長丁場で、かつ変則的ですから、自分の都合と合わないシチュエーションも多々あります。夜勤もあれば、出張もあれば、海外勤務もある。そういう意味で、世の中に存在する働くうえでの課題を凝縮したような形で経験したかなと思います。

【三宅】困ったことに直面したときはどう克服されたのですか?

【山崎】自分一人では何もできないので、家族や保育園の先生など、本当にいろいろな人に助けていただきました。こうしたサポートがなかったら続けられなかったと思います。その点、自分は恵まれていたと思いますし、感謝の気持ちしかありません。

■肩書に「女性」をつけるのは日本だけ

【三宅】そうでしたか。ちなみに山崎さんがメディアで取り上げられるときは「女性宇宙飛行士」という肩書がつくことがほとんどだと思うのですが、それに対して違和感を覚えることはありますか?

【山崎】それはすごく感じます。たしかに女性の宇宙飛行士は世界的にまだ少ないです。全体の1割しかいないのでメジャーになったというわけではないのですが、「女性」という枕をつけたがるのは日本独特かなという印象を持っています。外国ではあまりないですね。もちろんそれは宇宙飛行士に限った話ではなく、議員を取り上げるときも日本ではよく「女性議員」といった表現をしますよね。

【三宅】そもそも「女性の力を活用する」といった表現が少し変ですからね。私どもの会社は女性が非常に多いのですが、やる気も高いし、責任感も強いし、本当に優秀です。女性社員がいないと組織が成り立ちません。女性が活躍するのは当たり前のことですから、そういう風潮も近いうちになくなっていくのでしょうね。

【山崎】そうなってほしいですね。アメリカでも100年ぐらい前は女性参政権がなかったわけで、そういった時期を経て今に至っている。そう考えると、ことさら「女性」を強調する風潮は変革の過渡期ならではの現象なのかもしれません。

■100時間勉強した後、どれだけ粘れるか

【三宅】話が変わりますが、山崎さんはロシア語も相当上手だとお聞きしています。船内のコミュニケーションは英語ではないんですか?

【山崎】基本は英語です。たとえば私が地上にいる日本人と交信する場合でも、ほかのクルーも聞いているので英語で行います。ただ、国際宇宙ステーションの滞在クルーの半分はロシア人で、彼らは英語を話すのですが、地上の管制要員でロシア語しか話さない方がごく稀(まれ)にいらっしゃるんです。

【三宅】え!? そんな方がいらっしゃるんですか(笑)。

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏 - 撮影=原 貴彦

【山崎】はい。だからロシア人だけはロシア語で会話をすることがよくありますし、ロシアのソユーズ宇宙船が国際宇宙ステーションの救命ボートの役割を担っていますので、ロシア語を学ぶことは必須なのです。

【三宅】どうやって勉強されたんですか?

【山崎】日本で訓練を受けていたときは日本語の教科書や日本語の先生から学び、アメリカに移ってからは英語でロシア語を学ぶ形になりました。心構えとして大事だなと思うのは、語学の習得には時間がかかるということです。「最初の2000時間はとにかく辛抱してがんばりなさい」と先生からよく言われました。

【三宅】外国語はどうしても学習カーブが停滞することがありますからね。

【山崎】はい。最初の100時間ぐらいは結構バッと上がるので、それで少し話せるようになってうれしくなるフェーズがある。でも、そこからだんだん成長曲線がなだらかになって、ちょっともどかしいフェーズに入っていく。でもそこで「結果が出ない」とあきらめてはダメだということですね。私たちの1つの基準だと、英語やロシア語の能力を測るときは会話型のテスト形式をとるのですが、そのインターミディエイト・ハイ(Intermediate High)やミディアム(Medium)というレベルを取るには約2000時間が目安だと言われていました。

【三宅】それが語学学習の現実ですね。

■ロシア語は意外とマスターしやすい?

【山崎】そう思います。ただ、ロシア語は英語と比べると音が非常に扱いやすい言語で、日本語のひらがなのように、ひとつのアルファベットがひとつの音に対応しています。ですから文字を見れば読めます。文法はすごく難しいですが、慣れてしまえば逆にマスターしやすい言語だと思いました。英語は、文法は比較的シンプルですが、発音や言い回しが難しいですよね。

【三宅】ではリスニングもロシア語の方が簡単なんですか?

【山崎】はい。聴きやすいし、発音もしやすいです。

【三宅】そうですか。ちなみにロシアの方で何か性格的な特徴のようなものを感じましたか?

【山崎】よりアジア的だと思います。ちょっといかめしいという印象を持つ方もいらっしゃるでしょうが、非常に義理人情に厚い方が多いですね。あと、本音と建て前をしっかり使い分けるのです。アメリカ人は比較的フランクという印象なので、その差は面白いなと思いました。

【三宅】なるほど。ロシアの方が宇宙に行かれて、お酒を飲めないのでストレスが溜(た)まるとか。

【山崎】溜(た)まると思います(笑)。

■これからは日本の良さを発信する段階に

【三宅】最近のグローバル化の中で日本の地位が下がっているとか、あるいは最近の若者に自信がないとかいろいろ言われるわけですが、山崎さんのご経験から日本のこういう点はいいところだという何かおありでしょうか。

【山崎】私自身、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダなど世界を転々としましたが、日本に帰ってくるたびに感動するのは住みやすさですね。子どもが1人で歩いて学校や公園に行くことができますし、移動や買い物も本当に便利です。あとは世界中の情報や文化に触れやすい文化的なインフラが整っていることもすごいと感じます。逆にいうと、いままでは世界から情報や文化を受け入れることを上手に行ってきたので、これからは日本の情報や文化を世界に発信していくフェーズに入っていくといいなと思います。

【三宅】そうですね。

宇宙飛行士の山崎直子氏とイーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
宇宙飛行士の山崎直子氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右) - 撮影=原 貴彦

【山崎】海外に行くと一部の方は日本人以上に日本のことに詳しくて驚かされますが、一般の人をみると日本のイメージはまだステレオタイプです。富士山、桜、京都、侍、アニメなど。でも日本人がもっと世界に進出するなり、日本から情報を発信していく社会になると、日本のイメージもだいぶ変わっていくと思います。

【三宅】私どもの学校でも過去45年間にわたって何千名もの外国人教師を採用しています。日本で1、2年働いていただいてから母国に帰るケースが多いのですが、日本で実際に暮らして、日本人と一緒に仕事をして、日本人の考え方を身をもって体験するわけですから、実はそれ自体が草の根の国際交流になっていると思っています。

【山崎】それはすばらしい貢献ですね。

■宇宙で俳句を詠む

【三宅】日本文化の発信といえば、宇宙に行かれて俳句を詠まれましたね。「瑠璃色の 地球も花も 宇宙の子」。とてもきれいな俳句ですね。

【山崎】ありがとうございます。俳句を詠むことは宇宙に行く前から行おうと決めていました。いまや五・七・五は世界中に広まりましたし、日本の文化と宇宙と地球をつなぐということを考えてもいい方法かなと思いまして。

【三宅】すばらしいですよね。この俳句自体はいつ考えられたんですか?

【山崎】滞在4日目か5日目だったと思うんですが、メインミッションだったロボットアームでの作業が終わり、少し心に余裕ができたときに考えました。

【三宅】どういった思いが込められているんですか?

【山崎】小学校の理科の授業で先生から教わったことがずっと記憶にあったのです。それは「私たちの身体は星のかけらで作られている」ということ。宇宙は人間にとって故郷であり、星も地球も人間も花もみな兄弟であると。

【三宅】素敵(すてき)な先生ですね。

【山崎】はい。だから私が宇宙に行って無重力を体験したときも、どことなく「懐かしい」感じがしたのです。

【三宅】「60兆ある細胞が覚醒した」という表現をされていますね。

【山崎】本当に抽象的ですみません(笑)。もしかしたらそれは水中にいるときによくある「胎内にいたときの感覚」を思い出しているのかもしれませんが、潜在的に「宇宙は帰る場所」と感じたからなのかもしれません。

■異文化を知るための手段として英語を学習する

【三宅】最後に、英語を含む外国語学習者に励ましのメッセージをぜひお願いいたします。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【山崎】やはり英語はグローバルに使われている言語で、英語が使えるようになることで世界が一気に広がるということですね。日本語だけの環境もたしかに充実しているのですが、英語が使えるようになると本当に世界が広がるということを痛感します。

ではどうやって英語を学ぶかですけれども、音楽が好きな人は音楽を通じて英語を学ぶとか、映画が好きな人は映画を通じて学ぶとか、なにか自分の好きなことに掛け合わせて英語に慣れ親しんでいただけたらいいかなと思います。

私自身も好きな歌の歌詞を調べたり、文通という目的のために英語を勉強したりしてきました。要は英語学習自体を目的化しないということですね。そうやって異文化を知るという入り口から入ると、すればするほど親近感が増して、学習がさらに楽しくなると思います。

【三宅】どうもありがとうございました。

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山崎 直子(やまざき・なおこ)
宇宙飛行士
東京大学工学部航空学科卒業、同大学航空宇宙工学専攻修士課程修了。1996年からNASDA(現JAXA)に勤務。99年、宇宙飛行士候補に選ばれる。現在は内閣府の宇宙政策委員会委員などを務める。

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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(宇宙飛行士 山崎 直子、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷 和貴)

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