「明治のクズ野郎」の雑な物語が量産されるワケ
プレジデントオンライン / 2019年8月25日 11時15分
■現代にも通じる、明治のクズ野郎どもの雑な物語
無許可営業の売春宿を遊び回っては、警察に通報するぞと店を脅して金を巻き上げる。そんな本物のクズが主人公の物語が明治時代に存在していたことをご存じだろうか。
「識字率の向上や印刷技術の刷新により読書人口が増え始めた明治20年代後半から40年代、『小説』と呼ぶには粗野すぎる混沌とした物語が、無名の作者たちによって大量に生産されていたのです」。そう語る山下泰平氏は、当時、夏目漱石や森鴎外よりもはるかに高い人気を誇ったそんなジャンルを「明治娯楽物語」と命名して研究している。
「そのときの書き手って物語を考える力に乏しいうえに、生活がかかっているのでその場しのぎで必死に書いているんですよ。だから、表現が雑だったり極端になったりする。困ったらとにかく暴力で解決する、みたいな」
しかし、その荒っぽさに「書き手のリアルな存在を感じて、どきっとする」のだと山下氏は説明する。
大衆受けを追求しすぎた結果、粗く俗っぽい物語が量産される様は、現代のウェブメディアに通ずるところがある。ウェブで「バズる」のは難解な記事ではなく、万人の興味を引く単純で奇抜なストーリーになりがちだからだ。昨今のウェブメディアは、あおり気味のタイトルをつければ多くのPVを獲得できるといった、安直な構造の中で隆盛を極めているようにも見える。
明治娯楽小説は文明開化の混乱の中で生まれたが、スマホの普及でウェブメディアが乱立した今もまさに混沌期といえるだろう。何十年か後、PV合戦のなれの果てともいうべきこのカオスなウェブメディア世界が発見されたとき、未来の人々はその破天荒ぶりに「どきっ」としているかもしれない。
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1977年生まれ、宮崎県出身。明治の娯楽物語や文化を調べて遊んでいる。インターネットでは「kotoriko」名義でも活動。本職は“かたい仕事”をしている。
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(ライター 万亀 すぱえ 撮影=横溝浩孝)
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