「変態バスツアー摘発」風俗警察の驚き捜査網

プレジデントオンライン / 2019年8月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coward_lion

警視庁には、東京都内の歓楽街を中心に風俗営業を取り締まる「風俗警察」がいる。彼らの捜査対象は風俗店やチケット転売、個人のわいせつ行為までさまざまだ。風俗警察が摘発した事件の一部を紹介しよう——。(前編、全2回)

※本稿は、今井良『風俗警察』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■風俗警察の精鋭が集まる「セイトクタイ」

風俗警察には盛り場を監視する機動部隊が存在する。警視庁生活安全部・生活安全特別捜査隊の略称は警視庁内では「セイトクタイ」と呼ばれている。警視庁の執行隊でもある生特隊は、警視庁保安課=風俗警察の機動捜査部隊である。文京区内にある警視庁富坂庁舎に本部拠点を構えている。警視庁幹部が説明する。

「生特隊は元々、ダフ屋行為を取り締まるのが専門の捜査部隊だった。しかし現在は生活安全部の所管業務ならほぼ何でもやる。とりわけ風俗警察である保安課の捜査支援が重要な任務になっている。とにかく間口が広く機動性に優れている。精鋭ぞろいだ」

ちなみに執行隊とは、警視庁本部所属と所轄警察署の中間に位置付けられている。他部署で言えば、刑事部の機動捜査隊、警備部の機動隊、公安部の公安機動捜査隊、組織犯罪対策部の組織犯罪対策特別捜査隊、交通部の交通機動隊、地域部の自動車警ら隊などがある。

特隊は警視である隊長を筆頭に、2人の副隊長(警視級の管理官)が補佐。24の捜査班がある100人態勢の組織だ。

警視庁生特隊の手掛ける事件は実に幅広い。順を追って見ていこう。

■池袋のハプニングバーを摘発

「警察だ! そのまま! 動くなよ!」

薄暗く狭い店内に突如怒号がこだまし、客に扮していた捜査員が一斉に立ち上がる。2006年11月に生特隊は東京都豊島区池袋のハプニングバーを摘発。公然わいせつの現行犯で航空自衛隊入間基地所属の二曹(30歳)ら客の男女7人を、同ほう助の現行犯で経営者の男(63歳)を逮捕した。

ハプニングバーは客同士がわいせつ行為を見せ合うことなどを売り物にした飲食店だ。摘発された店は会員制で、逮捕された客には私立大学職員も含まれていた。2001年ごろから営業を開始し年間約2000万円の売り上げがあったという。経営者は「人件費がかからないと思って始めた」と供述。二曹は「ホームページを見て知った」と容疑を認めていた。

■「大人の遠足」と称し、バス内でわいせつ行為

2009年6月。あるマイクロバスを生特隊の捜査車両3台がマークしていた。

「絶対やっているはずだ」

座席の部分は全てカーテンで覆われている。捜査員はこのバス内でわいせつ行為が行われている可能性が極めて高いと考えていた。後日、同乗者から証言が得られ、最終的には立件にこぎつけた事件だった。

関越道を走行中の貸し切りバス車内でわいせつ行為をしたとして、公然わいせつの疑いで、音楽関係会社経営で放送作家の男(54歳)と知人の女(37歳)を逮捕した。また男らのわいせつ行為を手助けしたとして、同ほう助の疑いでハプニングバー経営の男(47歳)ら2人も逮捕した。

放送作家ら2人の逮捕容疑は2009年6月7日午前10時半ごろから約15分間、関越道下り線を走行中の観光バス内で全裸になり、わいせつな行為をした疑いだった。

生特隊によると、放送作家の男は音楽プロデューサーとしても活躍。「下着はつけていた」と供述し容疑を否認した。今回の事件では「大人の遠足」と称して、群馬県の温泉に日帰りバスツアーを企画し、ハプニングバーの客ら12人と一緒に参加していた。

■“女性の膝枕で耳かき”運営者を逮捕

「女性の膝枕で耳かきしてもらえる。さらに追加サービスが受けられる」

生特隊が関係者から入手した情報から、店への視察・経営者の行動確認が開始された。

2011年2月、耳かき店で性的サービスをさせたとして風営法違反(禁止地域内営業)の疑いで、東京都豊島区内の耳かき店経営の男(32歳)を逮捕した。

生特隊によると、同法違反容疑の耳かき店摘発は都内で初めて。経営者は「性的サービスをするよう指示していない」と容疑を否認した。

店は2009年10月ごろから2年近く営業。10分間2000円の追加料金を払うと、同じビルの別の部屋に案内され、性的サービスが受けられる仕組み。月100万円以上の売り上げがあったという。逮捕容疑は2011年2月6日正午すぎ、風俗店の営業禁止地域で女性従業員(25歳)に、男性客への性的サービスをさせた疑いだった。

■寝台特急券をオークション出品し御用

都内のあるチケットショップに生特隊捜査員の姿があった。

「こちらのチケットを買い入れていませんか?」

捜査員が示したのは、マニアの間ではお宝とされる寝台特急のチケットを撮影した写真資料だった。

2015年3月に引退した寝台特急の「トワイライトエクスプレス」(札幌―大阪)と「北斗星」(札幌―上野)の切符を転売目的で購入したとして、生特隊は2015年4月16日までに、東京都迷惑防止条例違反(常習ダフ屋行為)の疑いで、運送業の男(44歳)を逮捕した。

2つの寝台特急の切符は入手困難とされていて、特に最終列車の切符は発売とほぼ同時に完売していた。インターネットオークションでも一時100万円を超える高値が付いたほどだった。

生特隊によると、容疑者の男は「ネットオークションに出品するために買った」と供述。2014年夏から約300万円の売り上げがあったとみられている。

逮捕容疑は2014年12月から2015年1月、転売目的で2つの寝台特急の切符5枚を計9万5000円で購入した疑いだった。ネットオークションにかけられ、合計して約26万7000円で落札されたという。

■暴力団の迷惑行為も捜査対象

江戸三大祭りのひとつと称され、多くの人で毎年賑わう三社祭が舞台となった事件だった。

「あいつら派手にやっているな」

内偵中だった生特隊の捜査員たちは、ある人物たちの様子を密かに撮影していた。

2015年7月。浅草神社(東京都台東区)の三社祭で、神輿の進行を妨害したなどとして、生特隊は都迷惑防止条例違反の疑いで、指定暴力団幹部の男(46歳)ら2人を逮捕した。

逮捕容疑は5月17日午前11時半ごろ、台東区西浅草3丁目の路上で、ふんどし姿で全身の入れ墨を見せるなどして神輿を誘導したほか、怒号を発した疑いが持たれていた。2015年の三社祭は5月15日から17日に開催されていた。

最終日には、大きな本社神輿3基が繰り出す「宮出し」が行われていた。ちなみにこの事件では、暴力団が関わるため、組織犯罪対策部の担当者も捜査に加わっている。

■EXILEのチケットを10万円で転売

2017年5月12日。人気グループ「EXILE」のメンバーらが出演するコンサートのチケットを転売目的で大量購入したとして、生活安全特別捜査隊は、東京都迷惑防止条例違反(ダフ屋行為)の疑いで、洋服店店員の男(23歳)を逮捕した。

今井良『風俗警察』(角川新書)
今井良『風俗警察』(角川新書)

生特隊によると、男はEXILEのファンクラブに48口分で加入。1枚当たり定価1万2960円のチケットをファンクラブの先行予約で入手、インターネットの販売サイトに最高約10万円で出品していたのだった。

サイトの運営業者から2014年7月~2017年1月の間、男の口座に約2000万円が振り込まれており、生特隊は同様の手口を繰り返したとみて調べている。

逮捕容疑は2016年6月20日未明、調布市内のコンビニで、2016年9月に東京ドームで開催されたコンサートチケット98枚を計約130万円で購入した疑い。「転売目的でなく、いい席で見たいから買った」と容疑を否認していた。

コンサート当日に東京ドーム付近で、容疑者の知人女性が別の女性数人にチケットを渡しているのを見た警備員が110番。駆け付けた富坂署員が事情を聴いたところ、容疑者が大量購入したチケットだと判明した。

(後編に続く)

----------

今井 良(いまい・りょう)
ジャーナリスト
1974年千葉県生まれ。中央大学文学部卒業。1999年にNHKに入局し、地方局や東京の報道局ニュースセンターでディレクターとしてニュース番組の制作に10年間携わる。その後、民放テレビ局に移籍し、警視庁キャップ・ニュースデスクなどを歴任。著書に『警視庁科学捜査最前線』『マル暴捜査』(以上、新潮新書)、『テロvs.日本の警察 標的はどこか?』(光文社新書)、『警視庁監察係』(小学館新書)がある。近著は『内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い』(幻冬舎新書)。

----------

(ジャーナリスト 今井 良)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング