渋谷で摘発された「フリーおっぱい」の動機

プレジデントオンライン / 2019年8月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

風俗店やダフ屋、性犯罪を取り締まる「風俗警察」。一体どんな取り締まりを行っているのか。警視庁の風俗警察、生活安全部・生活安全特別捜査隊(生特隊)の活動を紹介する――。(後編、全2回)

※本稿は、今井良『風俗警察』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■ホームレスを10人以上雇ってダフ屋行為

「誰に雇われてるんだ?」

生特隊の捜査員が呼び止めたのは60代くらいの男性だ。詳しく聞いてみると路上で生活している、いわゆるホームレスの男だった。同意を得て身体捜検を行うと5万円ほどとコンサートのチケットを所持していた。

2017年9月、宝塚歌劇などの入場券を転売目的で購入したとして、生特隊は26日までに、東京都や埼玉県の迷惑防止条例違反(ダフ屋行為)容疑で、無職の男(56歳)ら男女計5人を逮捕した。他に逮捕されたのは男と同居する母親(83歳)と、ホームレスの男性3人だった。

生特隊によると、男とその母親は逮捕された3人を含むホームレス十数人に1人当たり日当約7000円を支払い、チケット発売の1日から2日前から店に並ばせて購入。正規価格の最大約17倍で転売していた。

男は2009年4月から、インターネットのチケット販売サイトに登録していて、このサイトを通じて転売を繰り返し、合計約1900万円を得ていたとみられる。

5人の逮捕容疑は、2017年2月26日から4月29日にかけて東京都渋谷区道玄坂のチケット販売店など4カ所で10回にわたり、転売目的で宝塚歌劇の入場券など計52枚を計33万4000円で購入した疑いだった。

■「おっぱい触り放題です」女子高生を書類送検

2018年1月。夕方の渋谷駅ハチ公前に人だかりができていた。

「おっぱい触りたい放題です」

こうバニーガール姿で訴える女性の周りに人が集まっていたのだった。男女入り乱れているが、皆一様に女性の胸に触れている。渋谷駅前交番で立番していた渋谷警察署地域課巡査部長は遠目からながら異変に気付いた。

「渋谷駅前PB、〇〇PMから渋谷PS。現在ハチ公前で多数蝟集(いしゅう)者あり、公然わいせつ等の可能性あり、直ちに現場に向かいます」警察官は肩に備えられた無線機で本署のリモコン(無線指令室)に、こう告げると相勤員を伴い、走って人だかりに向かった。

投稿用の動画を撮影するため、東京・渋谷のハチ公前広場で「フリーおっぱい」と書かれたスケッチブックを掲げ、通行人に胸を触らせたとして、警視庁生活安全特別捜査隊は2018年3月12日、東京都迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで、私立高校1年の女子生徒(16歳)を書類送検した。以下の条例違反にあたったのである。

1、わいせつな見せ物、物品若しくは行為又はこれらを仮装したものの観覧、販売又は提供について、客引きをし、又は人に呼び掛け、若しくはビラその他の文書図画を配布し、若しくは提示して客を誘引すること

■「ユーチューブで稼ぎたかった」

女子生徒は2018年1月に、バニーガールの姿でハチ公前広場に立ち、十数分間で通行人の男女約20人に胸を触らせていた。人だかりができているのに警視庁渋谷署員が気付き、事情を聴いていた。

生特隊は、様子を撮影していた女子生徒の知り合いの相模原市に住む高校3年生の男子生徒(18歳)と、東京都三鷹市の男性会社員(23歳)の2人についても、同条例違反や同ほう助の疑いで書類送検した。3人は動画投稿サイト「ユーチューブ」に動画を投稿する「ユーチューバー」仲間という。

女子高生らは「閲覧数を稼いで広告収入を得ようと思った」などと話している。動画はサイトに投稿されなかった。

3人の送検容疑は1月28日午後6時半ごろ、渋谷区道玄坂2丁目のハチ公前広場で、不特定多数に「おっぱい触りたい放題」などと呼びかけて胸を通行人に触らせ、公共の場所で周囲の人を著しく羞恥させる行為をしたなどの疑い。生特隊に勤務経験のある警視庁幹部はあきれた口調で言う。

「今までに例がない事件で率直に驚いた。渋谷らしい事件と言えばそれまでだが、多くの人が行き交う場所で風紀を乱すという、れっきとした犯罪行為に変わりなく十分反省してもらいたい」

■大改正で注目された“無店舗型”

風俗営業はそもそも風営法にもとづいて風俗警察が監督するものだが、営業する場合は公安委員会に届け出て、許可を得なければならない。夜のネオン街を連想するあの風俗店だけではなく、私たちが普段飲みに行くあの飲食店も実は「風俗営業」なのである。

風俗警察=警視庁保安課では「風俗営業係」が営業届け出の受付・監督に当たっている。指定する業態が大きく変わったのは、1998年(平成10年)の風営法の大改正(1999年4月施行)だ。この時の改正で注目すべきは、性風俗特殊営業のカテゴリーに店舗型に加えて、無店舗型を加えたことにあった。

店舗型よりも、利便性が高いとされた無店舗型のデリバリーヘルスの出店数が右肩上がりで増え続けていったのだ。新たに加わった「接客業務受託営業」は、ブローカーやコンパニオン派遣業者を風俗警察が把握するために設けられたカテゴリーだ。

14年ぶりの改正では、性風俗への規制が目立った形だ。かつての遊郭の囲い込みのように、空間的な規制をする場合は、店舗型のほうが規制しやすい。しかし出店数が急増していった無店舗型では客が自宅に女性を呼ぶことも可能なことなど、風俗警察の目が届きにくくなっていたのだ。風営法では無店舗型性風俗特殊営業について次のように定めている。

■ネットのAV業者にも新規制

一、人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
二、電話その他の国家公安委員会規則で定める方法による客の依頼を受けて、専ら、前項第五号の政令で定める物品を販売し、又は貸し付ける営業で、当該作品を配達し、又は配達させることにより営むもの 

もうひとつ新たに設けられたのは「映像送信型性風俗特殊営業」である。

定義は「専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業で、電気通信設備を用いてその客に当該映像を伝達すること(放送又は有線放送に該当するものを除く。)により営むものをいう」となっていて、一般的にはインターネットを通じてポルノ映像を販売する業者を指している。

こうした業者は寡占状態であり、アダルトビデオ・DVD販売の減少につながっているとされている。

■90年代に大流行した“テレクラ”も

2001年の改正では、性風俗特殊営業に「店舗型電話異性紹介営業」と「無店舗型電話異性紹介営業」が新たにカテゴリーとして設けられる。これは当時、利用者間のトラブルが社会問題化していたテレホンクラブを規制しようというものであった。

9.「店舗型電話異性紹介営業」とは、店舗を設けて、専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際を希望する者に対し、会話の機会を提供することにより異性を紹介する営業で、その一方の者からの電話による会話の申込みを電気通信設備を用いて当該店舗内に立ち入らせた他の一方の者に取り次ぐことによって営むものをいう。
10.「無店舗型電話異性紹介営業」とは、専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際を希望する者に対し、会話の機会を提供することにより異性を紹介する営業で、その一方の者からの電話による会話の申込みを電気通信設備を用いて他の一方の者に取り次ぐことによって営むものをいう。

店舗型のテレホンクラブに対しては、他の性風俗関連営業と同じように、保護の対象地域から200メートル以上離れていなければいけないと規定されている。無店舗型としては自宅の固定電話や携帯電話を利用したツーショットダイヤルのサービスが挙げられる。

■デリヘルの軒数は17年で7倍超に激増

今井良『風俗警察』(角川新書)
今井良『風俗警察』(角川新書)

デリバリーヘルスやツーショットダイヤルなど無店舗型の台頭は著しく、特にデリヘルは「人気性風俗」として一気に業者・利用者数を増やしていった。店舗型のファッションヘルスが提供するサービスを自宅やラブホテルへ出張して行うことから「出張ヘルス」とも呼ばれている。

警察庁の統計によれば、デリヘルにあたる「無店舗型性風俗特殊営業1号営業(派遣型ファッションヘルス)」の業者数は1999年の2684軒から、2016年には1万9856軒と激増している。

こうした無店舗型の台頭に伴い、警察庁は2001年9月に風俗警察活動強化の通達を発信している。

「風俗警察活動の強化について」(警察庁丙生環発第二十一号)昨今の風俗情勢は極めて深刻であり、社会秩序の維持の上でも看過し得ない状況である。従って風俗警察活動の強化を図ることにした。
当面の活動重点
1.派遣型売春事犯、外国人女性が関与する売春事犯等の取締り
2.カジノバー等における遊技機使用賭博事犯の取締り
3.風営適正化法(風営法)違反の取締り
4.ピンクビラ等対策
5.インターネット上の風俗環境浄化

そして通達には風俗警察の捜査現場での推進事項も含まれていた。風俗警察(都内は警視庁保安課風俗営業係・査察係、道府県警では保安課)による積極的な立ち入り推進に加えて所轄の警察署長・生活安全課長は管内の実査(パトロール)に積極的に実施し実態把握につとめること、風俗営業関連の違反者の摘発を推進することが盛り込まれたのである。

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今井 良(いまい・りょう)
ジャーナリスト
1974年千葉県生まれ。中央大学文学部卒業。1999年にNHKに入局し、地方局や東京の報道局ニュースセンターでディレクターとしてニュース番組の制作に10年間携わる。その後、民放テレビ局に移籍し、警視庁キャップ・ニュースデスクなどを歴任。著書に『警視庁科学捜査最前線』『マル暴捜査』(以上、新潮新書)、『テロvs.日本の警察 標的はどこか?』(光文社新書)、『警視庁監察係』(小学館新書)がある。近著は『内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い』(幻冬舎新書)。

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(ジャーナリスト 今井 良)

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