スピーチが下手な人は「最初の7秒」でスベる
プレジデントオンライン / 2019年8月16日 9時15分
※本稿は、リップシャッツ信元夏代『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■「こんな名誉をいただき」と恐縮する時間はない
さてストーリーの力については実感されたかと思いますが、たとえ同じストーリーであっても人前で話すときには、オープニングとクロージング次第で、印象が激変します。
第一印象という言葉がありますよね。最初にパッと目に入る表情、身なりなどが大きく印象を左右するわけですが、スピーチでは、最初の7秒になにをいうかで決まります。
マイナスに作用するのが、まわりくどい挨拶をすること。スピーチに立つ時に、つい丁寧にしようと思って「このような名誉をいただきまして、まことに恐縮です」といった長たらしい挨拶をする人もいますが、これは聞き手をうんざりさせます。英語では、Unpleasant pleasantry「非礼なる礼儀」といい、スピーチで避けるべきことです。
そして話が始まったところで、聞いている側は、30秒で話がおもしろいか、おもしろくないかを判断するとされています。
たった30秒です。ほとんどの話は、プレゼンだろうが、セールスだろうが、発表会だろうが、30秒内という短い時間で判断されてしまう。30秒内に相手を引きこむことができることが課題となるのです。
これを7秒―30秒ルールといいます。第一印象、第ニ印象ということもできます。最初の7秒が第一印象の勝負ポイントですが、第一印象がよくなくても、第ニ印象がよければ、聞き手は話に引きこまれます。
反対にいえば印象を強めるにはチャンスは2回しかない、ということです。
たった7秒の間に相手を掴まなくてはならないオープニングでは、いかに、「この人の話をもっと聞きたい!」「次を聞きたい!」と思わせられるかに集中したいものです。その基本の手法を4つご紹介しましょう。
■聞き手の注意を向ける“つかみ”4方法
1.ストーリー
最もインパクトを出しやすいオープニングは、この「いきなりストーリーで始める」です。私がセミナーを行う際にもよく使う手法です。もちろんセミナー講師としての信頼感が得られるように自己紹介も入れなければならないのですが、たとえばふつうに、
「おはようございます。信元夏代です。まず私のバックグラウンドについて説明させてください」
と話したとしても、受講者側は「上司に出ろといわれた研修だから来たけど」という気持ちから抜けきれないことでしょう。その代わりに、私は次のような感じでオープンします。
「2014年3月のことでした。とある居酒屋で、私は御社の阿部社長と隣り合わせで座っていました。
ちょうど大学の年次総会が盛況に終わったあとで、気のおけないお喋りを交わしていたのですが、阿部さんが『そういえば何年もあなたを知っているけれど、仕事はなにをしているのかね? ダンスをやっているのは知っているけれど』と尋ねていらしたのです」
と、ここでストーリーの中の会話として私のバックグラウンドを簡潔に話してしまいます。さらに社長とこうやって話ができる関係だということを、これまたストーリーの中でほのめかしていますので、講師の立場としての私の信頼性もそれとなくアピールしています。
ここで重要なポイントがあります。ストーリーを語る前に、“これから○○なストーリーをお話ししたいと思います”、という前置きを置かないことです。あくまでいきなりストーリーに突入するのです。聞き手の注目を7秒で集められること間違いなしです。
■「あなたの車はどんな存在?」と直接問いかける
その先のストーリーでは、なぜ社長が、私にこの研修を依頼しようと思ったか、その経緯や社長の意図、会社としての企業目標ゴールなども、さらっと「ストーリー」の一部として話をしてしまいます。
多くの参加者はきっと「ああ、仕事が忙しいのに。研修に参加している時間があれば仕事を片づけたいなあ」と思っているでしょうが、そんなむだな研修が、いきなり「うちの社長と居酒屋で隣り合わせ」というストーリーから始まったら、注目しますよね。
それだけストーリーは人を引きこむ力があるのです。
2.パワフルな質問
参加者にむかって、ハッとするようなパワフルな質問から始める方法です。聞き手にしてみたら、直接問いかけられるので、思わず自問して、話に引きこまれやすくなります。たとえば新車試乗会の場と想定して、こんな質問はどうでしょうか?
「今あなたが乗っている車は、どんな存在ですか? 一緒にワクワクできる家族のような存在ですか? それとも、単なる交通手段としてのツールに過ぎない存在でしょうか?
ワクワクできる車。それが我が社のフラッグシップであるABC車です。今日は皆さんに、ABC車の3つのワクワクをお伝えし、実際にそれを体感していただきます!」
■「たったひとつのメッセージ」に導くことが重要
3.驚きの事実
参加者にとっては、あまり知られていないような事実や数字をあげて、興味を引く方法です。たとえば「世界のパン消費量1位は、トルコです」といったような「へえ」な知識はテーマに合っていれば聞き手の関心を引きます。前述の新車試乗会であれば、こんな言い方ができるかもしれません。
「カーディーラーによると、試運転に訪れたお客様の約8割は、エンジンをかける前に、その車への満足度がすでに決まっている、といいます。何がそうさせるんでしょうか? それはドアを閉める音の重厚感だそうです。ABC車は、五感をも満足させてくれる車なんです」
4.引用
格言や著名人のいったフレーズ、あるいは詩などを引用するケースです。ここでは同じく車の例であげてみましょう。
「ABCモーターズの創始者はこう言いました。運転の仕方を見れば、乗っている人の性格がひと目でわかる、と」
ここで注意したいのは、どのオープニング手法を使うのであれ、それが20字に込めた「たったひとつの大事なメッセージ」(ワンビッグメッセージ)につながるものでなければならない、ということです。インパクトを出すためだけに関係のない内容を冒頭に持って来るのでは、効果はありません。
■上手な“締め”はつかみとリンクしている
そして締めとなるクロージングでは、いかに聞き手を次の段階へと動かせるか、に集中したいものです。
印象に残るコツとしては、オープニングにリンクさせること。もしオープニングをストーリーで始めたら、その共通の話を続ける。あるいは質問で始めたら同じような質問をしてみると、オープニングとクロージングがうまくリンクします。
最初と最後に同じことを繰り返すことで、聞き手の印象に残るわけです。
ここでは基本の4つのクロージング手法をご紹介します。
1.ストーリー
これは最初に出したストーリーを思い返させるようにして、そこにリンクさせる手法です。
「あのアイリッシュバーで伺った阿部社長の熱いビジョンは、皆さんの想いと重なっています。それを実現できるのはほかでもない、皆さんなのです。営業のあなたです。開発のあなたです。マーケティングのあなたです」
2.引用
オープニングと同じく格言や著名人のフレーズをあげるものですが、ワンビッグメッセージにつながるフレーズを引用するのがポイントです。
「車は、単なる乗り物ではありません。自己表現ができる最大のツールなのです。ABCモーターズの創始者の言葉です。“運転を見ればその人の人格がわかる”。車をこよなく愛するあなたのための車が、ここにあります」
■記憶に残るプレゼンの裏には周到な組み立てがある
3.行動喚起
聞き手を次の行動に導くようなクロージングです。たとえば実際に商品に触れてもらう、サインする、会員になるといった具体的な次の行動に促します。
「まずは今日、ここでテストドライブしてみてください。車と一体となって走る喜びをぜひとも感じてみてください」
4.質問
オープニングのパワフルな質問のように、クロージングにも聞き手の心に刺さる質問をするクロージング手法です。たとえば、こんな言い方もできますね。
「あなたは明日も、単なる交通手段としての代わり映えのない車を運転しますか。それとも、自己表現ツールの車でワクワクな毎日を送りますか?」
このクロージングでも、どの手法を使うのであれ、ワンビッグメッセージを強調するものでなければいけません。
さて、ここまででストーリーの組み立て方がわかったかと思います。ここまで習得したあなたなら、プレゼンの裏にある構造が、きっともう見てとれるはずです!
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事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー
事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー 1995年早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。伊藤忠インターナショナル・インク(NY)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)を経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。ニューヨークに在住し、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供している。2019年トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストで世界トップ100入りを果たす。日本人で唯一のWorld Class Speaking認定講師。英語著書にブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』(Celebrity Press出版)がある。
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(事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー リップシャッツ 信元 夏代)
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