なぜ英語圏の学校には運動会が存在しないのか
プレジデントオンライン / 2019年8月30日 6時15分
■教育は「叩き込む」、エデュケーションは「引き出す」
天皇皇后両陛下も学んだ伝統あるオックスフォード大学。私は1990年代半ばにそこで学ぶ機会を得ました。両陛下とは、日本で行われた大学関係者が集うパーティーでもお目にかかったことがあります。
オックスフォード大学というとひたすら勉強するイメージがあるようですが、実は割と自由な雰囲気で、スポーツも盛んです。
マストで学ぶ科目以外は何を選択してもOK。美術の学生が社会学の授業を取ったりしてもいい。単位にならなくても、好きなことをのびのびとやっています。
日本と英語圏では学びに対する考え方が違います。「教育」という言葉には、叩き込んで育てるという意味があり、生徒へ一方的に知識を与えるスタイルです。
一方で、英語の「エデュケーション」にはもともと「引き出す」という意味があります。生徒それぞれの才能を引き出すことを意味しています。
かくいう私も、大学の学部までは日本の教育で育ちました。
エデュケーションの文化に馴染んでいくことができたのは、オックスフォード大学で「チュートリアル」という授業があったことも理由のひとつだと思います。
■なぜ日本の学校には「運動会」があるのか
チュートリアルとは、教授と学生が1対1もしくは1対複数名で対話する学習方法です。週1回、あらかじめ与えられた課題に関する書籍を数十冊読み、レポートを提出、それをもとに教授が学生に厳しい質問を投げかけます。
少しでも曖昧な回答をすると、“So what?”(だから?)と突っ込まれます。これを繰り返しているうちに、自分の理解不足な点や間違いが明確になり、物事の奥の奥まで興味を持ち、理解する力がついていきます。
突然ですが、ここでちょっとしたチュートリアルをやってみましょう。
運動会は何故あると思いますか? 答えは、集団行動を身につけるためです。では何故、集団行動を身につけさせるのでしょうか? それは、現在の運動会が集団主義を推進する時代にできたものだからです。日本の運動会は、海軍の催しが起源です。また戦時中、子どもの体づくりと集団訓練を目的に、政府が積極的に運動会の実施を働きかけていたのです。
つまり私たちは生まれて成長する過程で、誰かがコントロールしてつくられた、集団主義を身につけさせるための隠れたカリキュラムを仕込まれているのです。
■宿題は、将来「残業」をする習慣をつけさせるため
隠れたカリキュラムはほかにもあります。
たとえば授業時間。小学校は45分、そこから進学するにつれ授業時間は延び、大学では90分ですよね。何故こうして時間を延ばすのでしょうか? それは、忍耐力をつけさせるためです。では、どうして忍耐力をつけさせるのでしょうか? 答えは、社会人になってからの長時間のデスクワークに耐えられるようにするためです。
宿題も然りです。宿題は、将来「残業」をする習慣をつけさせるためにあるとも解釈できましょう。
夏休みも、冬休みも、たくさん宿題が出る。だから日本人はバカンスを楽しめないんです。ヨーロッパの人たちは、いかに遊ぶか、人生をどうやって楽しむかを考えます。日本人は、楽しみの部分が非常に少ない。
このように、当たり前だという思い込みを疑う力を、オックスフォードの「チュートリアル」で身につけます。
■本当に大切な「20%」にだけ集中する
続いて、具体的な勉強に役立つテクをご紹介しましょう。
「パレートの法則」をご存じでしょうか。100%のうちの20%がとても重要であり、残りの80%は大したものではないという考え方です。
たとえば資格試験の場合、問題の構成比率は基礎20%、時事などに絡めた応用問題が80%です。基礎を完璧に理解できていれば、あとは時事情報を押さえれば突破できるということになります。
一般的に受験問題も毎年更新しますが、絶対に理解していなければいけない基礎問題20%の内容は例年さほど変えず、残り80%の応用問題で変化をつけています。
つまり、過去問の基礎を完璧にしておけば、試験突破の可能性はかなり高まります。実際にパレートの法則で、大学合格を勝ち取った学生も存在します。
■困難から「逃げる」のではなく「離れる」
また、一般的な成人の集中力は15分程度しかありません。休憩や仮眠などの気分転換をして思考をクリアにしながら取り組めば、かなり成果の質が高まります。
現在、私の大学講義では、90分のうち15分ごとにトピックを変えたり、質問したりして、学生たちを気分転換させています。
日本人は、困難には正面からぶつかるのが善、逃げるのは悪のような根性論がありますよね。しかし海外では、困難から「逃げる」のではなく「離れる」という発想を持ちます。離れて落ち着いて考えることによって、結果いい判断を導き出せるという発想です。
衣・食・住のいずれかに変化を持たせるなど、ルーティンを破ることも大事です。
あのトップ棋士の羽生善治さんでさえ、不調のときは気分転換をされるそうです。ご自身ワーストの公式戦連敗となった際、羽生さんは気分転換をするために茶髪にし、眼鏡を変えていられました。
最後に、日本人がグローバルなビジネスパーソンになるためには、語学だけでなく、異文化コミュニケーションを学ぶことも大事だと思います。
日本人が人と目を見て話す際、およそ3~5秒で目を逸らします。ところが中東圏等の人は、最後までじっと目を見て話します。途中で目を逸らすと、失礼な奴だと思われてしまうでしょう。
■欧米人が握手をするとき「相手の顔」を見るワケ
また、欧米人と握手をする際、日本人は手元を見ながらやさしく握りますが、欧米人は強く握って相手の顔をしっかり見ます。
このような非言語的コミュニケーションの知識が語学力の後ろにあれば、多少英語ができなくても、相手に好感を持たれるでしょう。
日本は島国のため、ほぼ共通の文化を持ち、多くを語らずとも互いをわかり合える素晴らしいコミュニケーション能力があります。
「忖度」という言葉がそれをよく表していますし、日本らしさでもあるでしょう。
ところが、多種多様な民族と接する機会が増えた現代において、ドメスティックな思想に固執していてはグローバルなコミュニケーションをとることはできません。
教育方針ひとつとっても国によって変わるわけですから、世界に通用する発想能力を持つことが、これからのスタンダードになっていくでしょう。
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東京外国語大学大学院教授
オックスフォード大学教育学大学院にて日本人で初めて教育学の博士号を取得。著書に『オックスフォード式超一流の育て方』ほか。
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(東京外国語大学大学院教授 岡田 昭人 構成=力武亜矢 撮影=南方 篤)
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