枝野氏も豹変させた山本太郎の圧倒的な存在感
プレジデントオンライン / 2019年8月13日 18時15分
■なぜこのタイミングで「超然主義」を捨てたのか
「豹変」と表現しても、いいだろう。
立民の枝野幸男代表はこれまで、他党から合流や統一会派、比例区での統一名簿作成などのラブコールを繰り返し受けてきた。しかし、その都度「永田町の数合わせとみられたくない」などと拒否。結局、参院選での選挙協力は、1人区で野党を1本化するなど限定的なものにとどまった。その、かたくなな姿勢は「超然主義」などと揶揄されてきた。
その枝野氏が8月5日、国民民主党の玉木雄一郎代表、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」の野田佳彦代表と相次いで会談し、衆院で統一会派を組もうと提案したのだ。
提案後の記者会見では、当然のように枝野氏の豹変についての質問が続いた。枝野氏の答えは「そうしたことが必要なフェーズに入った」という歯切れの悪いものだった。
そもそも枝野氏が国民民主などに手渡した文書も、分かりにくい。文書では、安倍政権が「数の力」を背景にした横暴を繰り返していることを強調した上で、それに対抗するために「数の上でも、論戦力の上でもより強力な野党第1会派を作る」ことが必要だとしている。理屈は分かるが、安倍政権が数の力を背景にした政権を運営する状態は、もう何年も続いている。「なぜ今なのか」という疑問は残る。
■旧民主を結集してから、「れいわ」と協議する戦略
枝野氏が変わった理由ははっきりしている。7月の参院選挙で立民が思うような議席を確保できなかったからだ。初めての参院選を改選7議席で臨んだ立民は17議席獲得。躍進したようにみえるが、選挙前には20議席を超えるとの見方もあった。伸び悩んだのだ。
2017年の衆院選でみせた「枝野人気」も、今回は明らかに陰りが見えた。今のままでは「安倍1強」を脅かすことはできないと総括せざるを得ない結果だった。
特に枝野氏が危機感を持ったのは山本太郎氏の存在感だった。参院選での山本氏の人気は、2年前の衆院選で自分に寄せられた期待をはるかに上回るものがあった。
立民と「れいわ」は、脱原発、弱者目線など、政策的に立ち位置が似ている。しかも「れいわ」のほうが、よりリベラルで、より歯切れがいい。つまり「れいわ」は立民にとって強力なライバルとなる可能性がある。実際、「れいわ」が参院選比例区で獲得した228万余りの票は、本来ならば立民に行く票が多く含まれていた。
■「数の力」を背景に、参院でも共闘関係をつくる
仮に次の衆院選で「れいわ」と選挙協力ができず、競合することになったら、間違いなく沈んでしまう。
「れいわ」も含む野党共闘を確立するのが唯一の生きる道。しかも自分が主導する形で野党共闘を築きたい。そういう枝野氏の心理を読めば、旧民主党勢力の国民民主と「社会保障」で統一会派を組もうと声をかけた理由が手に取るように分かる。まず、旧民主党勢力で大きなかたまりを作った後、山本氏との交渉に入る考えなのだろう。
そもそも今回の枝野提案が衆院に限定した統一会派を念頭にしている理由は何だろうか。
「れいわ」は参院で2議席確保したが、衆院はゼロ。衆参同時に統一会派を組むということになれば「れいわ」にも声をかけるのが筋だ。しかし、枝野氏はその手は取らなかった。まず「れいわ」のいない衆院でかたまりを作り、その後で「数の力」を背景に「れいわ」のいる参院でも共闘関係をつくる。そういった思惑が透けてみえる。
■旧民主党勢力内で内輪もめしている暇はない
今のところ衆院統一会派構想は、成就しそうな空気になってきている。国民民主も、野田氏ら「社会保障」も、枝野氏の声掛けを基本的には歓迎している。
枝野氏の声掛けは、よく読むと「院内会派『立憲民主党・無所属フォーラム』に加わって、衆議院でともに戦っていただきたく」とある。国民民主や「社会保障」と新しい統一会派を組もうという呼び掛けではなく、自分たちの会派に入るよう求めている。対等合併ではなく吸収合併を呼び掛けているのだ。
これは玉木氏や野田氏にとっては屈辱的な提案だ。実際、国民民主内には反対論も根強い。それでも玉木氏が前向きの姿勢を示しているのは、玉木氏も、枝野氏と同様に、いやそれ以上に自分たちの党の将来に危機感を持っているからだ。彼らも「れいわ」と競合することの恐怖を感じている。旧民主党勢力内で内輪もめしている暇はないのである。
枝野氏が提起した「統一会派」構想は多少の曲折はあるだろうが、会派名を変えるとか、参院側の結集についても文書を交わすなどの妥協を経て、成就するのではないか。
■「100人擁立」は取り下げへ。山本氏も共闘に乗る構え
これまで野党内では何度か結集の機運が出たが、その都度、温度差が露呈し、それをマスコミが報道することで成就しないことが続いてきた。
今は山本氏やN国に注目が集まり、旧民主党勢力はあまり関心を持たれていない。ネガティブな報道が出ないおかげで、結集もしやすいかもしれない。だとしたら、これも「れいわ」現象の余波ということになるのだろう。
山本氏のほうはどう考えているのか。参院選直後には、衆院選に候補者を独自に100人立てるというアドバルーンを揚げた山本氏。この発言が、枝野氏らを「統一会派」に走らせたともいえるのだが、山本氏は最近、時事通信社のインタビューに対し「(100人を立てるというのは)単独でやる場合だ。野党が共闘していくなら協力する」と述べている。
参院選期間中は、自分たちのことを「最も厄介な抵抗勢力」と呼んでいた山本氏だが、野党共闘に向けては柔軟なようだ。
衆院選は289ある1人区(小選挙区)が主戦場となり、自民党候補との一騎打ちに勝たなければならない。単独で戦うよりも野党結集に乗ったほうが成算があるという計算が山本氏の頭の中にはある。山本氏は最近、政権交代の必須課題として「野党共闘の深化」を挙げている。
■天王山は10月27日の参院埼玉補選
立憲、国民、「社会保障」の3会派が衆院で統一会派を組むと117人の勢力となる。自民党は285議席なので「1強」を脅かす存在とまではいえないが、安定した支持を持つ立憲、労組の支持を受ける国民民主、首相経験者の野田氏ら政治経験豊かで選挙にも強いメンバーがそろう「社会保障」が手を組めば、それなりにインパクトがある。そこと山本氏の「れいわ」が手を組めば、有権者は「今度こそやる気だ」と思うかもしれない。
当面の天王山は10月27日に行われる運びの参院埼玉補選だ。そこで野党が統一候補を擁立し、街頭演説で枝野、玉木、野田の3氏と山本氏と並ぶことができれば、ゲームは面白くなる。
■補選候補が山本氏ならさらに盛り上がる
この際、山本氏が補選の候補となるというウルトラCも浮上してくるかもしれない。今、国会議員バッジを持たない山本氏は、次期衆院選に出馬する意欲を見せているほか、来夏の東京都知事選にも色気を見せている。
しかし、衆院選や都知事選よりも早く行われる埼玉の参院補選で山本氏「野党共闘深化の象徴」として立ち振る舞えば、注目度も高まる。当選すれば国会での野党の戦力も上がるだろう。
枝野氏は自身の地元でもある埼玉の補選で、どこまでリーダーシップを発揮できるか。真価が問われるところだ。そして、その推移は野党共闘の行方を左右するのはもちろんのこと、安倍晋三首相の衆院解散戦略にも影響を及ぼすことになる。
(プレジデントオンライン編集部)
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