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認知症予防に役立つ「魔法のじゅうたん」の正体

プレジデントオンライン / 2019年9月1日 15時15分

狼男を撃退できるといわれた「銀の弾丸」は、現代も比喩的に使われる。 - PIXTA=写真

■認知症には「銀の弾丸」ではなく「魔法のじゅうたん」

人生100年時代と言われるように、寿命が延びることは結構なことである。

人は、一日ごとにいろいろなことを経験して、世界観、価値観が深まっていく。

長く生きて、人生や世の中についての理解が深まって、さまざまな発見があることほど素晴らしいことはない。

ただ、懸念されるのは認知症のような加齢に伴う病気である。認知症になってしまうと、せっかく長生きしたとしても、新しい経験から学んだり、理解を深めていくというたのしみが奪われてしまう。

現在のところ、認知症を確実に改善する治療法は確立していない。人情としては、劇的によくなる薬を期待したいところだが、なかなかそうはいかない。

■症状が劇的に改善する生活習慣の「あわせ技」

「この薬さえ飲めばだいじょうぶ」というような解決法を、英語では「銀の弾丸」と呼ぶ。それ一発ですべてを解決するような「銀の弾丸」が認知症に関してあればよいのであるが、そのようなものはなかなか見つからない。

もともと、脳という複雑なシステムは、1つの方法で劇的によくするということが難しい。ありうるとすれば、さまざまな方法を積み重ねて、いわば「あわせ技」でよい方向に変えることである。

認知症予防につながり、脳を若々しく保つ生活習慣がいろいろと知られている。例えば、ウオーキングなどの運動が効果的である。新しいことに挑戦するのもいいし、積極的に学びをするのもいい。友人をできるだけ多く持つことが望ましいし、雑談を通して絆を深めるのもいい。

バランスのとれた食生活を心がけることも大切だし、十分な睡眠をとることも肝心である。全身を健康な状態に保つことが、脳の健康にもつながる。

このように、認知症の予防として、脳を若く保つ生活習慣はたくさんあるが、そのどれをとっても、1つだけ実行していればそれが「銀の弾丸」になって問題が解決するというわけではない。さまざまなことを、根気よく、バランスをとって長く続けることが大切なのである。

実際、最近の米国における研究では、このような生活習慣の「あわせ技」で、認知症の症状が劇的に改善するケースがあると報告されている。

大切なのは、1つの治療薬など、「銀の弾丸」に頼ったり期待したりするのではなくて、生活を改善するために必要なことを一つひとつ丹念に実行していくことだろう。

「銀の弾丸」は存在しない。しかし、「魔法のじゅうたん」は存在するかもしれない。つまり、さまざまなことを丹念に実行することで、それらが広くバランスよく支えることによって、「魔法のじゅうたん」を浮かすことはできるかもしれない。それは実は「魔法」ではないが、たくさんのことを積み重ねていったときに起こる劇的な変化は、「魔法」のように見えることも確かだろう。

■「銀の弾丸」のような解決法を求めがち

健康のことに限らず、人生や仕事、社会の課題においても、私たちはついつい「銀の弾丸」のような解決法を求めがちである。

そうではなくて、小さなことを丹念に積み重ねていったときにしか「魔法」は生まれないのだと認識することは、一歩を踏み出すうえで大切なことだと思う。

人生は複雑で、単純には割り切れない。特効薬はなかなか見つからない。だからこそ、足元の小さなことを一つひとつ大切にしたいと思う。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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