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香港デモが「第2の天安門」を避ける道はあるか

プレジデントオンライン / 2019年8月19日 17時15分

2019年8月13日、香港国際空港で、抗議デモ隊が入り口をふさぐために置いたカートの山(中国・香港) - 写真=AFP/時事通信フォト

■香港国際空港がデモ隊に占拠され欠航便が相次ぐ

逃亡犯条例の“改悪”に反対する市民の抗議活動が続く香港で、今度はアジアのハブ空港、香港国際空港がデモ隊によって占拠された。

香港国際空港は8月12日と13日の両日、デモ隊による抗議活動の影響で乗客の搭乗手続きができず、2日間あわせて約600便が欠航となった。

13日夜には、中国人2人がデモ隊から暴行を受け、救急隊に救出された。その際、デモ隊と警官隊が衝突し、5人が警察官に身柄を押さえられた。中国政府は、暴行を受けた中国人2人は、中国共産党系の新聞「環球時報」の新聞記者だったと発表した。

■暴力では国際社会の支持は得られない

8月11日、香港の市街地で起きたデモ隊と警察の衝突では、デモ隊側の女性が負傷した。「失明するほどの重傷を負った」との報道をきっかけに民主化を求める市民や学生が強く反発し、香港国際空港でのデモへと拡大したとみられている。

世界の国々に香港政府と中国本土の誤りを伝えたい。これが、デモ隊の中心を占める学生たちの訴えだ。国際空港に集結してデモを繰り広げ、香港政府と中国本土を批判するのは、うまいやり方だと思う。ハブ空港だけに抗議のアピールが世界に伝わりやすいだろう。

しかし、暴力行為はあってはならない。デモ隊のイメージも損ねる。国際社会の支持を失う恐れがある。

■抗議活動を支持してきた民主派議員も批判

中国人新聞記者2人への暴行行為に香港政府は14日未明、「市民社会の最低線を越える凶悪な行為だ。警察は容赦なく法を執行する」との声明を出して学生たちを牽制した。

暴行事件は中国本土でも大きく報じられ、インターネット上には香港のデモ隊を批判する書き込みが集中した。

抗議活動を支持し、連携してきた民主派議員らも14日、「暴力と旅行客の搭乗阻止は受け入れられない」と学生たち若者を批判した。これに対し、運動の失速を恐れた学生らは、ネット上に旅行者に迷惑をかけたことを謝罪する声明を発表した。

■デモ隊の暴徒化が進めば、中国政府の思うつぼ

香港政府の背後にいる中国政府、習近平(シー・チンピン)政権は、学生たちの抗議活動がエスカレートして、暴力行為を次々と繰り返すような事態を期待しているはずだ。このままデモ隊の暴徒化が進めば、中国政府の思うつぼである。

沙鴎一歩は香港の民主化を求める市民や学生たちの抗議活動を支援したい。デモ隊を応援する。それゆえに暴力行為はやめてほしい。香港の民主化が習政権に抑え込まれてはならない。国際世論の支持を得るには無血デモを続けるしかない。

暴力事件が続けば、香港政府の警察権力はデモ隊に介入しやすくなる。さらに大きな騒動に発展すれば、中国政府が本土から軍隊を出動させて鎮圧することもできる。習政権にとって厄介なのは、国際社会や国際世論なのだ。デモが過激になれば、警察権力の介入だけでなく、中国軍の出動についても、国際社会は黙認するしかなくなる。習氏はそう判断しているはずだ。

■習近平氏が恐れるのは「一国二制度」の骨抜きだ

犯罪容疑者を香港から中国本土に引き渡すことを可能にするのが、逃亡犯条例の改正案である。中国政府に反発する思想犯を取り締まるのが大きな狙いだ。

香港は「一国二制度」で統治されている。欧米流の資本主義で経済を発展させ、中国独自の共産主義で政治を動かす一国二制度の下では、自由主義を抑え込む必要がある。条例を改正できなければ、一国二制度自体が骨抜きになってしまう。中国の習国家主席はこれを恐れている。中国は台湾も同じ一国二制度で統治しようとたくらんでいるからなおさら、一国二制度を重んじている。

■傀儡政権に学生たちとの対話ができるのか

8月17日付の毎日新聞の社説は「香港から中国への犯罪容疑者移送を可能にする『逃亡犯条例』改正案への反対運動に収束の気配が見えない。香港国際空港がデモ隊の占拠でマヒする事態にまで発展した」と書き出してこう主張する。

「民主派の要求に耳を塞ぐ香港政府への批判も高まる。中国の無用な介入を招かぬように香港政府が民主派との対話に動くべきだ」

見出しも「長引く香港の混乱 介入回避が長官の責務だ」である。

もっともな主張ではあるが、いまの香港政府は中国の傀儡(かいらい)だ。学生たちの要求に耳を傾け、対話に動くことなどできまい。

■事態は1989年6月の「天安門事件」に近づいている

毎日社説は書く。

「条例案をめぐっては6月の大規模デモ後、林鄭月娥(りんていげつが)行政長官が事実上、廃案にする考えを表明した。しかし、民主派は完全撤回や林鄭氏辞任を求め、抗議活動を続けている」
「香港市民の多くが憤るのは催涙ガスや暴動鎮圧用の銃を用いた香港警察の過剰な警備行動だ。デモ参加者から多数の負傷者が出ていることに国連人権高等弁務官も国際基準に合わないと懸念を示した」
「独立調査委員会で警察の『暴力』の実態を調べるよう求める意見も多い。林鄭氏が耳を傾ければ、対話の環境も整うのではないか」

「香港警察の過剰な警備行動」や「デモ参加者から多数の負傷者」を考え合わせると、毎日社説が指摘するように「警察の暴力の実態」をつぶさに調べ上げる必要がある。事態は1989年6月の「天安門事件」に近づいているのかもしれない。

■香港の若者たちは自らの行動に注意すべきだ

毎日社説は続ける。

「香港と隣接した広東省深センには武装警察部隊が集結している。中国軍が介入すれば、世界から厳しい批判を浴びることになるだろう」
「香港駐留部隊以外の軍が境界を越えられるのは戦争か国家の安全が脅かされるような緊急事態の場合に限られるはずだ。正体不明の集団がデモ参加者を襲う事件が起き、デモ隊の一部が過激化するなど混乱は拡大しているが、非常事態とは程遠い」

毎日社説は「非常事態とは程遠い」と指摘するが、「武装警察部隊の集結」「正体不明の集団」など、やはり天安門事件の悲劇を思い浮かべてしまう。

中国の民主化を求める大勢の若者が、軍隊によって殺される惨事だけは避けたい。香港の若者は天安門事件を直接は知らないだろうが、中国政府の恐ろしさはいまも変わっていない。いや習近平政権の冷徹さは、あのとき以上かもしれない。香港の若者たちは、十分自らの行動に注意してほしい。

■中国嫌いの産経は「中国の恫喝は火に油注ぐ」と警告

毎日社説が掲載される9日前の8月8日付で、産経新聞が「香港デモ2カ月 中国の恫喝は火に油注ぐ」との見出しを掲げ、中国政府を批判する社説(主張)を展開している。

まず、産経社説は「1997年の香港返還以後、これほど幅広い市民が高度自治の侵害に激しい怒りをぶつけたことはなかった」と指摘し、「香港や中国の指導者はこの現実を謙虚に受け止めるべきだ」と訴える。

産経社説は「中国政府の当局者は激化する街頭での抗議活動を『米国の作品』と呼んだ。外国に責任を押しつけようという陰謀論で、情勢に注視する内外の目を欺けると考えたのなら浅はかである。」とまで言い切る。

「陰謀論」「内外の目を欺ける」など手厳しい表現は、中国嫌いな産経社説らしい。

■中国警察が「暴徒鎮圧訓練の映像」を公開した狙い

産経社説の続きを読んでみよう。

「さらに中国は、先鋭化するデモの一部を中国自ら鎮圧に乗り出す可能性を示している。香港駐留の中国軍や、隣接する広東省深セン市に集結した中国警察による暴徒鎮圧訓練の映像が公開された」
「中国当局者は『しかるべき懲罰が必ず下る』と警告した。非常事態を想定した法律の規定があるとはいえ、正規軍の治安出動や中国警察の越境派遣は、香港の『一国二制度』の崩壊につながる。許される選択ではなく、恫喝(どうかつ)は怒りや不信感を増幅させるだけだ」

恫喝は怒りや不信感を増幅させるだけとの指摘はうなずける。

しかし軍や警察の出動が一国二制度の崩壊につながるというくだりが、よく分からない。中国は一国二制度を維持するために鎮圧訓練の映像を公開するなどして脅しをかけているのだ。

■中国は市民に軍隊を差し向ける国である

最後に産経社説は3つの主張を並べる。

「30年前、世界は北京の天安門広場で中国民主化の叫びが銃口で封じられる瞬間を目撃した。中国の力による弾圧を再び香港で見ることのないよう、国際社会は中国に強い懸念を伝えるべきだ」

その通りである。国際社会が厳しい目を中国政府に向けるべきだ。

「同時に、先鋭的な実力行動に走る香港の学生らは冷静になってほしい。この数日のデモだけで148人が逮捕された。量刑の重い暴動罪も適用されている。中国の武力介入を招きかねない冒険主義は高度自治の自殺につながる」

この香港の学生たちに向けた主張も、もっともである。学生ら香港の民主主義を守ろうとする市民は十分、気を付けてほしい。中国は市民に軍隊を差し向ける国なのだ。

「なぜ林鄭氏は改正案の即時撤回を明言できないのか。すでに表明した来年7月の実質廃案が信用されないのは、中国の顔色ばかりを窺(うかが)う同氏への不信と同根だ」

繰り返すが、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム、Carrie Lam)行政長官は、中国政府の傀儡以外の何者でもないのだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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