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ユニクロにあって無印良品にない決定的な要素

プレジデントオンライン / 2019年8月23日 9時15分

2017年9月25日、発売開始から15年目を迎えたユニクロ「ヒートテック」の新ラインナップ発表会。世界中で販売されている「ヒートテック」は累計販売枚数が10億枚に達した(東京都渋谷区のヒカリエ) - 写真=時事通信フォト

ユニクロと無印良品。2つのブランドは、どこが違うのか。甲南女子大学の米澤泉教授は「無印良品がブランドを通じて『くらし』を提供する一方、ユニクロは服を通じて『くらし』を売っている。これは決定的な違いだ」と指摘する――。

※本稿は、米澤泉『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■「環境や人にやさしい」ファッションの人気

近ごろ、消費者の意識の高まりとともに、エシカルファッションが一般に浸透するようになった。エシカルファッションとは、狭義では「良識に基づいて生産、流通されているファッション」を指し、エシカル消費とは、そういったアイテムを選択し、消費することを意味する。

とはいえ、消費者庁が2017年にまとめた意識調査によると、「『エシカル(倫理的)消費』『エシカル』という言葉を知っているか」という問いに対して、知っていると回答したのは10.4%にすぎない。この時点では、まだ言葉の認知度は低かったのだ。

しかしながら、「エシカルな商品・サービスの提供が企業イメージの向上につながるかどうか」については、65.2%が「そう思う」「どちらかというとそう思う」と前向きに評価すると答えている(2019年1月5日付日本経済新聞)。

さらに、2019年に入ってからはファッション誌でもエシカル消費を積極的に取り上げるようになった。『CLASSY.(クラッシィ)』2019年2月号では、「自分だけじゃなくて、世の中にもいいものを選びたいからこれからはオシャレも『エシカル』の時代です」と題して、「“環境や人にやさしい”をコンセプトにした新しいファッション」である「エシカルファッション」が特集されている。

また、同時期の『ヴァンサンカン』でも、ラグジュアリーでなく、ラブジュアリーをテーマに「地球LOVEなエシカルファッション」(『ヴァンサンカン』2019年2月号)が紹介されているのだ。

■車と並んで「節約したい」アイテムに

このように、環境や社会問題への意識がもともと高かったわけではない女性ファッション誌においても、ごく自然な流れでエシカルファッションが特集されるまでになったのである。その背景には、浪費に直結するファッション消費ほど避けられるという事情がある。消費者のファッション離れはそれほどまでに顕著なのである。

消費者庁の「平成29年版消費者白書」でも、次のような結果が出ている。

今後節約したいと思っているものを聞いたところ、「車」と答えた人の割合が全年齢層で高くなりました。近年、若者の車離れがいわれていますが、高年齢層でもこの傾向があることが示されています。
年齢層別でみると、10歳代後半では「食べること」や「通信(電話、インターネット等)」と回答した割合が高く、30歳代から60歳代まででは「ファッション」や「通信(電話、インターネット等)」、70歳代以上では「ファッション」と回答した割合がそれぞれ高くなっています。「いずれも当てはまらない」と回答した人の割合は、70歳以上で最も高くなっています。
ファストファッションなどの台頭で、過去に比べ安価で品質のよいものが手に入るようになったことで「ファッション」に対する節約意識が高くなったものと思われます。

今後節約していきたいものの筆頭に挙げられるのが車と並んでファッションなのである。人々が節約したいファッションを買わなければならないファッションにするためには、もう「エシカル」しかない。負の消費を正の消費にするには、エシカル消費に頼るしかないのである。

■ユニクロと無印良品は何が違うのか

こうして、エシカルな「くらし」の時代に最も相応(ふさわ)しく、最も正しい選択肢となったのがユニクロが掲げる「ライフウェア」である。

画期的な機能性と普遍的なデザイン性を組み合わせた「ライフウェア」は服のかたちをしているが、もはや服ではないのかもしれない。なぜなら「ライフウェア」はすでに服であることを超えているからだ。新たな価値観をつくり、ライフスタイルを示すものであるからだ。それは、服のかたちをした「ていねいなくらし」という理念であり、「エシカル」なライフスタイルという記号ではないだろうか。

ユニクロは、服を売っているのではない。ユニクロが売ろうとするのは、「くらし」である。ユニクロは服を通して、「くらし」を売っているのだ。だからこそ、ユニクロは今の私たちに不可欠なものとなったのである。

では、ユニクロと同じように、21世紀に入ってポピュラーになった無印良品はどうなのか。無印良品も、シンプルな服を売り、ライフスタイルを示しているのではないか。

確かに、無印良品も一見ユニクロと重なるようなシンプルな服をつくり続けている。運営会社である良品計画のウェブサイトにはこう記されている。

「わけあって、安い」をキャッチフレーズとし、安くて良い品として開発された無印良品。1980年、良品計画の母体である西友の自社開発の経験を基にノーブランドの商品発想でつくられました。商品開発の基本は、生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくること。そのために、素材を見直し、生産工程の手間を省き、包装を簡略にしました。この方針が時代の美意識に合い、シンプルで美しい商品が長く愛されてきました。

■「ノーブランド」のブランド化に成功した

ここでも述べられているように、無印良品は、もともと西友のプライベートブランドとして1980年に誕生した。素材のよさと限りなくシンプルであることを追求し、80年代の個性を競うDCブランド全盛時代に、そのアンチテーゼとしての地位を確立していく。

あえて「無印(ノーブランド)」を貫くことで、無印良品はブランドになった。通常のブランドが差異化のために、「個性」を足し算することで成り立つのならば、無印良品は「引き算のブランド」だ。何もかもを引き算することで、逆に差異化に成功したのである。

年代のリアルクローズ、シンプルな服の流行とともに、無印良品もユニクロ同様、ポピュラリティを獲得していく。それは、DCブランドの「個性」やインポートブランドの過剰な「記号」に疲れた人々にとって、印のないことが癒やしとなったためであろう。

無印良品も人々の関心が衣から食住へ、ファッションからライフスタイルへと移り変わるにつれて、取り扱う商品を広げてきた。食品、化粧品、雑貨、家電、家具、家。現在では、買えないものがないほど、ライフスタイル全般にわたってあらゆる商品を取り揃(そろ)えている。

着ることから食べること、住むこと、そして暮らすことへ。無印良品の哲学に基づいた「MUJIなくらし」が展開されており、実際のところ私たちは、朝から晩まで無印良品の製品に囲まれて暮らすことができるのだ。

写真=Imaginechina/時事通信フォト
中国・湖北省武漢市にある無印良品の店内=2013年7月19日 - 写真=Imaginechina/時事通信フォト

■くらしをより訴求するため、カフェもオープン

それだけに、無印良品は早くから、単なる店舗を超えた空間をつくり出すことにも力を注いでいる。2001年に旗艦店としてオープンした有楽町店の一角にカフェスペース「Cafe MUJI」を設置し、「素の食」をテーマに身体によい食材を使ったメニューを提供してきた。2007年には、物販販売のない初の飲食単独店舗である「Cafe&Meal MUJI 日比谷」をオープンしている。

無印良品の「Cafe&Meal MUJI」は、「『素の食』はおいしい」をコンセプトに季節の素材をたっぷりと使い、身体にやさしく食べておいしいメニューを取り揃(そろ)えた飲食業態である。そのコンセプトについて、ウェブサイトにはこう書かれている。

もぎたてのトマトをまる齧(かじ)りしたときの、あのみずみずしい甘みや酸味。Cafe&Meal MUJIが大切にしているのは、たとえばそんな「素の食」のおいしさです。
太陽や土、水の恵みがたっぷりと染み込んだ素材そのものの味を生かし、自然のうま味を引き出すために、できる限りシンプルに調理しています。化学調味料は最小限に抑え、保存料はいっさい使用しません。
日本を中心に世界中の産地に直接足を運び、
生産者の方々と交流しながらそのときいちばんの旬の食材を調達しています。一方では、フェアトレードや環境に配慮した農法を積極的に採用し、
その土地ならではの伝統料理をメニューに取り入れることで
歴史ある食文化を次世代につなげる試みも行いつづけています。

このように、健康や環境に配慮したカフェを通して、無印良品の食を提案し続けている。

■ユニクロが「究極の服」になれた理由

また、無印良品はブックカフェブームに先駆けて「本」にも注目し、本のある空間「MUJI BOOKS」を2015年から展開し始めた。厳選された店舗に、衣類、家具、雑貨、食品などと地続きに無印良品が提案する本が置かれている。そこでは、「知の巨人」松岡正剛監修の下、「くらしのさ(冊、読むことの歴史)し(食)す(素材)せ(生活)そ(装い)」というテーマに沿って、本が分類されているのだ。

米澤泉『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)

「さしすせそ」には、くらしを彩る調味料のようにという意味が込められているのだろう。MUJI BOOKSでは、本と生活用品を一つの空間に同居させることで、「本と暮らす」生活を提案しているのである。

このように、無印良品はあらゆる商品、本までを使って「MUJIなくらし」を提案している。つまり、衣食住のすべてを無印良品の哲学に基づいてブランド化することで、「MUJIなくらし」を売っているのである。

それは、2019年4月にオープンした銀座の旗艦店にある「MUJI HOTEL」に集約できるだろう。「MUJI HOTEL」は「MUJIなくらし」を体験できる場であり、世界中からファンが押し寄せる「MUJIなくらし」の聖地となるに違いない。

だが、ユニクロは違う。ユニクロは「ユニクロなくらし」を売っているのではない。

「ていねいなくらし」を売っているのだ。しかも、「服」によって。

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」のがユニクロのステートメントである。初めに服ありきなのである。そこが、無印良品との最大の違いであり、ユニクロが究極の服になれたゆえんではないだろうか。

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米澤 泉(よねざわ・いずみ)
甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授
1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』など著書多数。

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(甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授 米澤 泉)

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