あのサーティワンが赤字と店舗減に苦しむ背景
プレジデントオンライン / 2019年8月22日 11時15分
■約3年で30店減っている
暑い日が続く、アイスクリームがおいしい季節だ。アイスクリーム業界にとっては書き入れ時である。一方で、最大手「サーティワンアイスクリーム」を運営するB-Rサーティワンアイスクリームの業績が振るわない。
サーティワンの店舗数は6月末時点で1161店。アイス専業店では圧倒的な店舗網をもつ。だが、3年半前の2015年12月末からは30店減った。店舗数は減少傾向にあるのだ。
サーティワンは15年12月期に販売不振で40年ぶりの最終赤字に陥った。それ以降、積極的に店舗閉鎖を進めている。それまで店舗数は増加傾向にあったが、既存店売上高の前年割れが続くなど販売が苦戦し、収益性が悪化していたため、拡大路線からの転換を図ったのだ。
不採算店の閉鎖を進めるなどして収益性の改善を図っているが、十分な成果が出せていない。7月26日発表の19年12月期上半期(1〜6月)決算(単体)は、売上高が前年同期比7.5%減の86億円、営業損益は1億7300万円の赤字(前年同期は7100万円の赤字)だった。最終損益は6900万円の赤字(同2000万円の赤字)となっている。やはり業績が悪化していることがわかる。
■2018年はスーパーフライデーが業績に貢献
もっとも、これほど大きく悪化したのは、2018年の3月、4月に実施したソフトバンクのキャンペーン「スーパーフライデー」が今年はなかったことが大きい。ソフトバンクユーザーが毎週金曜日にサーティワンでアイスクリームがもらえるキャンペーンで、多くの人を集めた。
この特殊要因が大きく影響したため、昨年との比較はあまり意味がないだろう。そこで、スーパーフライデーを実施していない、3年前の16年12月期上半期決算と比較してみた。
3年前の上半期の売上高は89億円で、19年の同時期より3億円ほど多い。また営業損益は2億円の赤字で、3年後とほぼ同水準である。13年12月期以前は黒字が続いていたことを考慮すると、良い状況だとはいえないだろう。売上高と営業利益ともに、この3年間で改善しているとはいえない。
■フレーバーの選択肢の豊富さが魅力だった
サーティワンは1945年にアメリカで誕生した。現在は世界50カ国以上で8000以上の店舗を展開する、世界最大のアイスクリームチェーンとなっている。日本では、74年に東京・目黒に1号店が誕生。その後は83年に200店、03年に500店と、徐々に店舗網を拡大していった。10年には1000店、12年に1100店に達している。
「サーティワン」の名前は、「1カ月(31日)間、毎日違った味のアイスクリームを楽しんでもらいたい」という願いに由来している。それに従って、多くの店舗では32種類のアイスを提供している。
なぜ31種類ではなく32種類なのかといえば、店頭にあるアイスクリームを収容する冷蔵ボックスが、前後に2列、横に16列の計32個という配置になっているためだ。31種類だと1個余ってしまうため、全てのボックスを使って32種類としている。そのうち21種類は定番のフレーバーで固定されており、残り11種類は適時変えている。過去に販売してきたフレーバーの種類は1300を超え、この選択肢の豊富さが魅力だ。
■同業の中では圧倒的な規模を誇る
客がサーティワンでアイスを買う場合、まず好きな種類のアイスクリームを選んで店員に伝える。店員は冷蔵ボックスの中のアイスをスクープで丸型にしてくり抜き、コーンやカップの容器に盛り付ける。アイスのサイズは小さいほうから、スモール、レギュラー、キングと3種類あり、2個重ねることもできる。
価格は店舗によって異なるが、参考までに、麻布店(東京・港区)ではスモールサイズ1個で税込み290円(8月3日時点)となっている。ほかにも、複数のアイスを詰め合わせたバラエティパックや、アイスケーキなども扱う。全店平均の客単価は、通常時で700円台前半だ。
苦戦を強いられているサーティワンだが、アイスクリームチェーンの中では圧倒的な規模と存在感を誇っている。「コールド・ストーン・クリーマリー」など同業の競合は存在するが、どれも小粒。サーティワンが圧倒的な規模を誇り、一強の状態だ。同業の競合との競争に敗れたわけではなさそうだ。
■アイスクリーム市場は15年で1.5倍以上拡大
では市場の縮小によって苦戦しているのかといえば、それも違う。日本アイスクリーム協会によると、18年度のアイスクリームの市場規模(アイスクリーム類及び氷菓販売金額)は5186億円と7年連続で拡大している。15年前の03年度(3322億円)と比べると1.5倍以上の規模になった。食品市場でこれほど成長している分野は、ほかにはなかなか見当たらない。
「アイスクリーム」と聞くと少子化の影響で打撃を受けているのではないかと思う人がいるかもしれない。しかし「アイスは子どものおやつ」という考えは今は昔。近年は大人やシニアの需要が高まっており、幅広い世代から支持されている。少子化などどこ吹く風だ。
■コンビニはアイスの単価を上げ顧客を広げた
アイスクリーム市場がこれほどまでに成長したのは、コンビニエンスストアが果たした役割が大きい。
コンビニは圧倒的な店舗数の多さを背景にアイスクリームの販売を伸ばしてきた。現在、コンビニは大手3社だけで全国に約5万店も展開している。店舗数は右肩上がりで増え続けており、アイスの販売数もそれに比例して高まった。
アイスをこれほどの店舗数で販売する業態はほかにない。もちろんサーティワンが果たしてきた役割は小さくはないだろうが、コンビニとは規模が格段に違う。コンビニは、同じくアイスの最大の販売元であるスーパーとともに市場を大きくけん引してきたのだ。
メーカーの努力も大きい。宇治抹茶を使ったアイスクリームなど大人向けのものや、冬に合ったアイス、シニアでも食べきれるサイズのアイスなど高付加価値商品を開発してきた。子ども以外の消費者を取り込んで裾野を広げることに成功した上に、商品単価も高められたのだ。一部のメーカーでは、コンビニにプライベートブランド(PB)のアイスを供給しているところもあり、二人三脚で市場を開拓しているといっていい。
■サーティワン苦境の影にコンビニあり
一方、サーティワンは、日本の店舗は現在99%以上がフランチャイズ(FC)店だ。かつては駅前や郊外のロードサイドが中心だったが、近年はショッピングセンターへ積極的に出店している。現在は後者が主戦場で、女子高生や家族連れをメインターゲットとしている。
サーティワンは豊富な種類のアイスクリームを武器に顧客からの支持を獲得し、成長を果たしてきた。この20年に関していえば、11年12月期までは売上高を順調に伸ばすことができていた。
しかし、それから13年12月期までは200億円程度で横ばいが続き、伸び悩み始める。14年12月期と15年12月期は、180億円台にまで落ち込んでしまった。それ以降はやや持ち直したものの、近年は200億円前後で停滞している。低迷状態から脱することができていないのだ。
サーティワンが伸び悩むようになった2010年以降は、全国のコンビニの店舗数が大きく伸びた時期だ。最大手のセブン-イレブン・ジャパンは出店攻勢をかけ、年に1000店以上増やしている。アイスクリーム市場の規模も同時並行的に大きく伸びていった。このこととサーティワンの伸び悩みは、無縁ではないだろう。急成長したコンビニがサーティワンから顧客を奪ったのではないかと考えられる。
■コンビニにない味と体験の提供が肝になる
コンビニアイスに対抗し、業績を上向かせるには、商品と店舗の魅力を高めることが欠かせない。もちろんサーティワンは手をこまぬいていたわけではない。
2019年1月からは、映画『怪盗グルー』シリーズで人気のキャラクター「ミニオン」をモチーフとした6つの果物の味わいを楽しめる「“ミニオン”メッチャフルーツ」など新しい味のアイスを毎月のように投入した。
さらに大人の女性やカップルなど、従来の家族連れとは異なる層をターゲットにした新しいデザインの店舗を増やしたり、キャンペーンやお勧め商品を動画で発信するデジタルサイネージの店頭への導入を進めたりと対策を講じている。
だが、業績を見る限り、これらの施策では不十分ということだろう。サーティワンはコンビニにはない味や体験を提供し、魅力をさらに高めていくことが求められている。その実現に向けて、いま正念場を迎えているといえる。
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)
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