家族連れにそっぽを向かれた「いきステ」の苦戦
プレジデントオンライン / 2019年8月27日 11時15分
■既存店売上高は16カ月連続前年割れ
ペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」が苦戦している。既存店売上高は7月まで16カ月連続で前年割れ。これまで大量出店を続けることで、売上高は右肩上がりを続けてきたが、ついに利益が追いかなくなった。
ペッパーフードサービスの19年1〜6月期の連結決算は、売上高が前年同期比25.6%増の351億円、営業利益は73.0%減の4億300万円だった。増収を達成した一方、大幅な営業減益となっている。そして「いきなり!ステーキ」事業のセグメント利益は前年同期比26.6%減の16億8100万円と大幅減益になっている。
■ロードサイドでは自社競合も目立つ
「いきなり!ステーキ」事業のセグメント売上高は前年同期比28.6%増の302億円。増収要因は店舗数の増加だ。この半年で82店(海外含む)を新規出店し、期末(6月末)店舗数は472店となった。しかし、1〜6月期の既存店売上高は24.6%減と苦戦。セグメント利益は前述の通り26.6%減の16億円となってしまった。
苦戦の背景は次の3つに整理できる。①ブームが去ったこと、②値上げの影響で顧客が離れたこと、③出店を増やしてきた郊外ロードサイド店で苦戦していること。
郊外ロードサイドでは、大量出店で自社の店舗間で顧客を奪い合うケースが増え、閉店に追い込まれる店舗も出てきている。だが、郊外店で苦戦している要因はそれだけではない。最大の要因はファミリー層を取り込めていないことだろう。
■閉店した店舗から車で20分圏内に他店舗が2軒
いきなり!ステーキは13年12月に1号店を東京・銀座にオープンしてから、立ち食い形式による高効率運営を武器に、都心の駅前やビジネス街を中心に出店を重ねてきた。1号店出店から3年後となる16年12月末には115店を展開するまでに成長した。余勢を駆って、17年5月に初の郊外ロードサイド型店舗を群馬県高崎市にオープン。以降、ロードサイドでの出店を加速してきた。
こうした大量出店で、自社競合が発生するようになった。例えば、今年8月18日に閉店に追い込まれた「いきなり!ステーキ 君津店」(千葉県君津市)は、車で約15分のところに「木更津店」(同木更津市)、同約20分のところに「イオンモール富津店」(同富津市)がある。いずれもメインとなる来店手段が車で、ターゲット層は大きくかぶっている。この3店舗間で顧客の共食いが起きたと考えるのが自然だろう。いきなり!ステーキではこういった自社競合が増えており、これが苦戦の要因となっている。
■昼時でもファミリー客は皆無
そして、より致命的といえるのが、いきなり!ステーキがファミリー向けではないことだ。郊外ロードサイドのメイン顧客はファミリー層だ。だが、いきなり!ステーキはファミリー向けにできているとはいえない。それが苦戦につながっている。
例として、郊外ロードサイド型の「いきなり!ステーキ 八王子松木店」(東京都八王子市)の様子を挙げたい。筆者が平日昼時に同店を訪れたところ、客入りはそこそこだったものの、ファミリーは皆無で、男性1人客かカップル客しかいなかった。一方で、同じ幹線道路沿いで同店からわずか120メートルほどしか離れていない「ステーキ宮 八王子松木店」(同)を平日昼時に訪れたときは、ほとんどがファミリー客だった。
「ステーキ宮」は外食大手のコロワイド傘下のファミリー向けステーキチェーンで、全国に約140店を展開する。ほかにも「ブロンコビリー」「ステーキのあさくま」「ステーキのどん」といったステーキチェーンが存在するが、ステーキ宮を含め、これら大手はほとんどが郊外ロードサイドを主戦場とする典型的な「ファミレス」だ。「ステーキ宮 八王子松木店」もその例にもれない。
■ステーキオンリーは“母親”受けが悪い
「ステーキ宮 八王子松木店」と「いきなり!ステーキ 八王子松木店」で大きく異なるのがメニュー構成だ。
たとえば子ども向けの「キッズメニュー」。ステーキ宮は小さいサイズのハンバーグやカレーライス、グラタンといったキッズメニューが充実している。また、小学生以下はドリンクバーが無料になる。
一方、「いきなり!ステーキ 八王子松木店」にはキッズメニューがない。いきなり!ステーキでは一部の店舗でしかキッズメニューの取り扱いがなく、内容も充実しているとは言い難い。子どもを取り込む態勢が整っていないのだ。
大人向けのメニュー構成も大きく異なる。「いきなり!ステーキ 八王子松木店」は、ハンバーグ1種類を除いてメインとなる料理はすべてステーキだ。一方、「ステーキ宮 八王子松木店」はステーキのほかに、ハンバーグや鶏肉料理、食べ放題のサラダ・スープ・スイーツなど、幅広いメニューがそろっている
これは、ファミリー客の中で主導権を握る“母親”の取り込みに影響する。サラリーマンや独身男性であれば「毎回ステーキ」といったことも珍しくないかもしれないが、“母親”は「さまざまな料理を楽しみたい」「家族には肉以外のものも食べてほしい」と思う人が少なくない。メニューのほとんどがステーキに限られるいきなり!ステーキは、その点で選ばれにくいはずだ。
■狭くて仕切り付きのテーブルは家族には向かない
ファミリー層の取り込みでステーキ宮に軍配が上がるのは、メニュー面だけではない。店舗の造りも大きく影響している。「ステーキ宮 八王子松木店」はテーブルが大きくて広々としており、複数人で食べるのに適している。一方、「いきなり!ステーキ 八王子松木店」は1人用の小さなテーブルを4つ集めてテーブル席としているほか、テーブルを横に区切る仕切りを設けているため、1人あたりの面積は広くはない。1人で利用するのには十分だが、複数人の場合は利用しづらい。
これは八王子松木店に限った構造ではなく、いきなり!ステーキの郊外ロードサイド店はこうしたスタイルを採っている。都心店とは違い、立ち食いではなく着席して食べるスタイルをとっているが、テーブルを小さくしたり通路幅を狭くしたり、食べ放題の食材を置くスペースを省いたりしている。その狙いは高効率運営の実現だ。
これは1人客とカップル客の取り込みという点では成功している。だが、ファミリー層が鍵を握る郊外ロードサイドでは限界がある。
■「すき家」になるのか、「吉野家」で居続けるか
郊外ロードサイド店と都心店の違いを考える場合、牛丼チェーンの「すき家」と「吉野家」を比較するとわかりやすいだろう。吉野家はサラリーマンや独身男性をメインターゲットとし、都心の駅前やビジネス街に立地していることが多い。一方、すき家は郊外ロードサイドが多く、そういった立地ではファミリー層をメインターゲットとしている。
吉野家はいきなり!ステーキに形態が近く、すき家はステーキ宮などファミレスに近いといえるだろう。吉野家は近年こそメニューの幅が広がってきているものの、それまでは「牛丼一筋」をうたって牛丼に特化していた。
これはいきなり!ステーキのステーキ特化に近い。客の回転が速いのも両者は似ている。一方、すき家は「ファミリー牛丼店」として幅広いメニュー構成や豊富なトッピングを押し出し、ファミリーでも楽しめるようにしている。
郊外ロードサイドでファミリーを取り込むには、すき家やファミレスのようにメニューなどを相応に変更すべきだが、いきなり!ステーキはそうはなっていない。そのため、集客に限界が生じ、苦戦するようになったと考えられる。
■今後はペッパーランチの郊外出店を強化予定
面白いことに、前述の「いきなり!ステーキ 君津店」は閉店に追い込まれたものの、自社の別業態のステーキ店「ペッパーランチ」に転換して新たに勝負に挑むという。
ステーキ店で失敗してまたステーキ店で勝負するというのは解せない面もあるが、ペッパーランチはハンバーグメニューの種類も多く、主戦場のショッピングセンター(SC)内でファミリー向けに営業してきた歴史が長いこともあり、郊外ロードサイドでもファミリー層を取り込んで勝負できると判断したのではないか。
ペッパーランチが郊外ロードサイドに初めて出店したのは昨年12月と、いきなり!ステーキよりも遅い。まだ店舗数は少ないが、自社競合解消への対策として今後はペッパーランチのロードサイドへの出店を強化していくという。席やレイアウトなどをファミリー向けにすることで、ファミリー層の取り込みを狙っている。
いきなり!ステーキは、郊外ロードサイドでの出店のあり方を大きく見直す必要があるだろう。大胆な店舗閉鎖が必要になる場面も出てきそうだ。収益性を回復できるか、正念場に差し掛かっている。
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)
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