介護グッズにかかる費用を極限まで抑える方法
プレジデントオンライン / 2019年9月7日 11時15分
■購入やレンタルも介護保険の対象
家族が高齢だと、病気やケガなどがきっかけで、体が動かしにくくなったり、寝たきりになったりするケースが少なくない。そして、自宅での生活を続けようとすると、車いすや電動式の特殊ベッドといった高額な「介護グッズ」が、必要になる場合が往々にしてある。そんなときに迷うのが、購入するものなのか、借りられるものなのかだ。しかし、それを決める前に知っておきたいのが、「介護保険」の制度。介護保険を利用すれば、介護グッズの購入費用やレンタルの自己負担額に軽減や補助が適用される場合があるのだ。
介護保険を利用したい場合、まず市区町村や地域包括支援センターなどで本人、あるいは家族が相談する(図1)。次に、市区町村の訪問調査や主治医の意見書などに基づいて介護が必要な度合いを認定する「要介護認定」が行われる。そして、介護や生活支援が必要か、必要だとすればどの程度かといった「要介護度」が決定される。要介護度は、低い順から要支援1~2、要介護1~5の7段階に分かれ、介護保険で利用できるサービスの枠組みも決まる。要介護認定は1~2カ月かかる。
その結果、介護や生活支援が必要と認められ、自宅でサービスを受けたい場合、次に「居宅介護支援事業所」を選ぶ。そして、ケアマネジャーと相談しながら、「どんなサービスを、どのように使うのか」という利用計画書「ケアプラン」を作成する。ただし、ケアプランも自分で好きなように作れるわけではない。
「あくまでも、介護保険の利用によって、生活上の具体的な課題が解決されることを、理由づけできなければなりません。たとえば歩けないといっても、リハビリをすれば機能回復が期待できるのなら、すぐに車いすを使うのではなく、まずリハビリに取り組むといったケースもあるわけです」と、数多くのケースに携わってきたベテランケアマネジャーの鐵宏之さんは説明する。
そうした介護保険では、介護グッズの購入やレンタルも、ケアプランで必要となれば、介護保険の対象となる。ケアプランを立てるとき、具体的にどんな介護グッズを買ったり、借りたりすればいいのかについては、ケアマネジャーとともに、「福祉用具専門相談員」にも相談するのが一般的だ。福祉用具専門相談員は、介護保険制度で認められている公的資格で、介護グッズに関する専門知識やノウハウを持つ。福祉用具事業所に所属しているケースが多いが、「ケアマネジャーに依頼すれば、紹介してくれます」と鐵さんはいう。
■レンタル料の1~3割を自己負担
介護保険で利用できる介護グッズは、商品の性質や要介護度によって、購入するものとレンタルするものに、細かく分類されている。また、介護保険で購入やレンタルができるのは、都道府県などから指定されている事業者の介護グッズに限られるので、その点も注意しておこう。
購入が介護保険の対象となる介護グッズは、腰掛け便座や入浴補助用具などの5種類(図2)。トイレや風呂で使うものが多い。「人体に直接触れる性質の福祉用具であるためです」(同)。要支援1以上と認定され、必要性があれば利用できる。介護保険で決められた支給限度額とは別枠で、4月1日から翌年3月末日までなら、10万円を上限に利用できる。「ただし、購入金額がその上限を超えると、全額自己負担になってしまいます」(同)。
介護グッズの購入で介護保険を利用する場合、必要な申請書類を市区町村に提出する。その後、最初に全額支払って後から戻ってくる「償還払い」や、負担割合に応じて自己負担して残りは自治体が福祉用具事業所に支払う「代理受領委任払い」の形で保険が適用される。
■レンタルが介護保険の対象となる介護グッズ
一方、レンタルが介護保険の対象となる介護グッズは13種類(図3)だが、要介護度によって使える種類が決まっている。立ち上がりや歩行、そして姿勢をサポートする手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえの4種類は、要支援1以上なら、必要性があれば利用できる。しかし、車いすとその付属品、特殊寝台(介護ベッド)とその付属品など8種類は、原則として要介護2~5の人のみの利用となる。さらに、尿や便を自動的に吸引する「自動排泄処理装置」も同様に、重度の介護が必要な要介護4~5の人のみの利用となる。
レンタルの介護グッズは、利用者の要介護度、介護者の負担の度合いなどに応じて、機能にも大きな差があって、同じ種類でもさまざまなアイテムがある。価格にも大きな開きがあり、必然的にレンタル料金にもばらつきが出てくる。選ぶのに迷ったときは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しよう。
なお、「2018年10月から、同じアイテムであればレンタル料金は、全国平均値のプラス・マイナス10%内に収まるようになりました」と鐵さんは話す。そして介護保険の対象であれば、毎月の利用限度額の範囲内で、所得に応じて通常のレンタル料金の1~3割の自己負担額で借りられるのだ。
介護ベッド▼25年近く使い続けないのならレンタルが得なことも
家族が自分で起き上がれなくなったり、寝たきりになったりしたときに必要になるのが、病院や介護施設などでよく見かける「介護ベッド」だ。介護グッズのなかでも大型で、高額なものが多い。鐵さんが介護ベッドについて次のように説明する。
「材質や機能によってさまざまなタイプがありますが、代表的なのは電動式の介護ベッドです。①寝床の高さ調節、②背上げ、③ひざ上げのいずれか、もしくは複数の機能がついています」
介護ベッドで②だけついているのが「1モーター」、①②がついているのが「2モーター」、①~③のすべてついているのが「3モーター」と呼ばれる。寝たきりなどで重度の介護が必要であれば、3モーターを選ぶケースが多いそうだ。価格は、1モーターなら10万円前後のものもあるが、3モーターなら40万円以上に跳ね上がってしまう。
「楽匠Zシリーズ」の3モーターを例にすると、参考価格は43万5000円。さらにサイドテーブル、サイドレール、それと床ずれを防ぐ体位変換器も購入すると、総額で70万3480円もかかる。しかし、レンタルであれば介護保険の対象になり、自己負担が1割の人ならトータル月2350円で借りられる。
■不要になった際の処分コストも考慮
そこで気になるのは、レンタルと購入では、どちらがメリットがあるか。確かに購入は介護保険の対象外だが、「長期間使うのであれば、レンタルのほうが割高になる」という可能性もある。しかし、結論からいえば「レンタルのほうがおすすめ」(鐵さん)ということになる。表のように自己負担1割の人の場合、購入しても、なんと25年近く使い続けないのであれば、レンタルしたほうが安く済むからである。
しかも、レンタルにはほかにも利点があって、「途中でモーターに不具合などがあれば、修理してもらえるし、要介護度が重度化したら、高機能の別のベッドに替えることもできます」と鐵さんはいう。一方で、もしベッドを購入すると、不要になった場合、粗大ゴミなどの処分コストもかかる。
車いす・歩行器▼軽くて老老介護でもOKな車いすなら20万円超も
要介護の高齢者のなかには、「自分の力だけでは歩けない」「足が動かず、歩行できない」といったケースもよく見られる。そうしたケースでは、「車いす」や「歩行器」といった足回りの介護グッズが、生活するうえで不可欠になる。
その車いすや歩行器の価格は意外に高めだ。材質や機能によってさまざまな種類に分かれており、価格帯にも幅がある。たとえば車いすは、安いものなら3万円前後もあるが、高いものは20万円を超える。歩行器も2万円前後から20万円前後まで大きな開きがある。鐵さんは次のように話す。
「低価格の車いすは大半がスチール製です。とても重いので、坂道を上ろうとしたり、持ち運ぼうとしたりするときに不便です。医療機関や介護施設のようにバリアフリーで、スタッフも多い施設ならいいのですが、自宅で介護したり、外出したりする場合、介護者が苦労します。とりわけ、老夫婦の一方が要介護者になり、もう一方が介護者になる老老介護のようなケースには、スチール製の車いすは不向きでしょう」
つまり価格が高めでも、軽量の車いすを選ばざるをえないケースも多いわけだ。しかし前述したように、車いすも歩行器もレンタルが介護保険の対象で、「高価格の車いすや歩行器の利用も、理由が明確なら認めてもらえます」と鐵さんはいう。そこで迷うのが、やはり購入かレンタルかだ。
■メンテナンスのメリットを享受
長期間使用するのであれば、自費で購入する手も考えられるが、購入とレンタルを比べると、車いすや歩行器でも総合評価ではレンタルに軍配が上がる。たとえば表にあるように、自己負担額が1割の人なら介護保険を利用することで、車いすの「ウルトラシリーズ標準タイプ(自走用)」(参考価格11万円)を月500円、歩行器の「シンフォニーEVO」(参考価格4万1040円)を月300円で借りられる。そして購入する場合、前者は18年超、後者でも11年超という長い期間使い続けないと、レンタルしたほうが安くなる。また、それ以外のメリットもある。
「車いすや歩行器は、タイヤが磨り減ったり、外でぶつかって壊れたりと消耗しやすいのです。しかし、レンタルなら定期的なメンテナンスが受けられます。通常の使用で故障などの不具合が発生してもその都度、修理してもらえます。購入したら、タイヤの空気入れや機械の油差しまで、自分でやらなければなりません。利用者にも介護者にも、大きな負担になります」(鐵さん)
さらに、時間が経つと、要介護度が重度化してしまうなど、利用者の全身状態が変化するケースも少なくない。そうしたケースでも、車いすや歩行器を購入していると、買い直さなければならないが、レンタルなら状態にあわせて交換してもらえる。
ただし、介護保険の認定を受けていない場合や、外出する距離が短い場合、介護保険の対象外のシルバーカーのほうが、歩行器よりも軽量で持ち運びをしやすい。利用する人のニーズに応じて、介護グッズを賢く使い分けたい。
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居宅介護支援事業所「てつ福祉相談室」主任介護支援専門員・社会福祉士
合同会社「鐵社会福祉事務所」代表社員。1981年、埼玉県生まれ。2004年、日本社会事業大学卒業。11年、介護支援専門員の資格を取得し、ケアマネジャーの実務を開始。18年、主任介護支援専門員の資格を取得し、てつ福祉相談室を開設。
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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=加々美義人)
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