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「あおり男」の異常行動はどこから生まれたのか

プレジデントオンライン / 2019年8月23日 17時15分

男性会社員が「あおり運転」を受けて殴られた事件で、送検される宮崎文夫容疑者=8月20日午前、茨城県警取手署 - 写真=時事通信フォト

■「前の車が遅くて妨害されたように感じた」

茨城県守谷市の常磐自動車道で起きた「あおり運転殴打事件」で、茨城県警は8月18日、傷害容疑で全国に指名手配していた宮崎文夫容疑者(43)を逮捕した。

宮崎容疑者から暴行を受けた24歳の男性は、顔面を何度も殴りつけられる様子をドライブレコーダーで記録していた。映像は衝撃的なものだった。見ず知らずの人間に突然あおられ、車を停車させられ、執拗に殴られる。多くの人が被害者に共感したのだろう。日本中の関心を集めることになった。

毎日新聞(8月19日)によると、宮崎容疑者は警察に対し「前を走る(被害者の)車が遅くて妨害されたように感じ、あおり運転をした」という趣旨の供述をしているという。だが殴られた男性は「ごく普通に運転していた」と話している。

事実がどうだったかは、これからの捜査を待たなければいけないだろう。いずれにしろ、「遅い」「妨害された」という理由で、相手の運転手を殴っていいはずがない。暴行の様子をみる限り、宮崎容疑者はささいなことで激高してしまう性格なのではないか。

■なぜ車の運転を見ると、その人の性格が分かるのか

車の運転を見ると、その人の性格がよく分かるといわれる。

運転の基本は、車の流れにうまく乗ることだ。特に高速道路ではそれが大切になる。自分ひとりで走っているわけではない。同じ道路を他の車といっしょに走行しているのだ。他の車の速度や進む方向などを観察しながら、適切な車間距離を保つ必要がある。

だが、車中という密室では、運転者は独りよがりになりがちだ。しかも運転ひとつでかなりの距離を短時間で移動できるから、気が大きくなってしまう。

ウォルト・ディズニーの短編アニメ映画にこんなのがあった。

まじめで地面のアリも踏まないように歩く優しい人物が、いざハンドルを握ると、鬼のように恐ろしくなって交通ルールを無視して周囲の車を蹴散らすような乱暴な運転をして事故を起こしてしまう。

これはアメリカで1950年6月に公開された「Motor Mania」(邦題「グーフィーの自動車狂時代」)というアニメで、ディズニーのキャラクター「グーフィー」が、ウォーカーさんという車好きの主人公を演じていた。

ハンドルを握ると、豹変するという車社会の弊害を見抜いており、いま見ても新鮮な社会風刺である。宮崎容疑者にぜひ見てもらいたい作品だ。

■まったく別の人物が「容疑者」とされるデマ騒ぎも

ささいなことで激高してしまうというのは、宮崎容疑者だけではない。日本社会そのものにも、そうした風潮があるのではないか。

ネット上には宮崎容疑者だけでなく、同乗していた喜本奈津子容疑者(51)をめぐっても、激しい罵倒が書き込まれている。同乗女性については、まったく別の人物がネット上で個人情報をさらされるデマ騒ぎも起きた。

あおり運転の事件からはそれるが、たとえば政治家の不倫問題も似た構図ではないか。2年前、『週刊文春』はトップ記事のリードでこう書き上げた。

幹事長内定の夜、彼女は都内の高級ホテルに密かにチェックインした。部屋で落ち合ったのは、赤ワインとビールを手にした妻子ある弁護士」(『週刊文春』2017年9月14日号<山尾志桜里(43)イケメン弁護士(9歳下)と「お泊まり禁断愛」>)

■それほど日本社会が激高するような問題なのか

彼女とは元民進党政調会長の山尾志桜里衆院議員(現・立憲民主党)のことだ。東大法学部卒の元検察官で、「小沢ガールズ」の1人として政界入りし、待機児童問題で安倍政権を追及してその名を上げた。山尾氏はこの記事が出てすぐに民進党を離党した。

山尾氏の不倫問題は同年9月9日付の産経新聞と東京新聞の社説でも取り上げられた。それだけ社会的インパクトが強かったのだろう。

あのころ、今井絵理子氏、宮崎謙介氏、中川俊直氏と週刊誌による政治家の不倫報道が続いた。不倫は問題だ。だが、それほど日本社会が激高するような問題なのだろうか。それよりも政治家としての勤めを果たしているかを検証すべきなのではないか。

沙鴎一歩はそう考えたが、「不倫を許す」という寛容さや余裕が社会全体からなくなっているように感じた。宮崎容疑者の「あおり運転殴打事件」に対する過熱ぶりをみるに、その思いはさらに強まっている。

■「法律で取り締まれ」と主張するばかりでいいのか

新聞社説はこの事件をどう論じているか。

「あおり運転は、重大な事故につながりかねない危険な行為だ。取り締まりを徹底するとともに、一人ひとりの身を守る心がけが欠かせない」

読売新聞(8月22日付)に掲載された社説の書き出しだ。見出しは「あおり運転逮捕 取り締まり徹底で抑止したい」。書き出しも見出しも、あまりに当然という内容で、読者への訴求が弱い。

読売社説は「あおり運転は、神奈川県の東名高速で2017年、追い越し車線に停車させられた車がトラックに追突され、夫婦2人が死亡した事故を契機に社会問題化した。事故を受けて、警察庁は積極的な摘発を全国の警察本部に指示した」と書き、こう訴える。

「警察は現在、無謀な運転に対し、道交法のほか、危険運転致死傷罪、刑法の暴行罪や傷害罪などの適用に努めている。あおり運転の抑止には、あらゆる法令を駆使した取り締まりが肝要だ」

読売社説によれば、「昨年中に、道交法の車間距離保持義務違反で摘発されたあおり運転は1万3000件で、前年の1.8倍になった」という。

法律で取り締まれと主張するばかりでなく、あおり運転が増えている原因についての解説と、それに対する解決策の提案が読みたい。

■2年前のあおり運転は「危険運転致死傷罪」が適用されたが…

次に8月20日付の産経新聞の社説(主張)を見てみよう。

「車は身近な移動手段であると同時に、極めて危険な悪意の凶器ともなり得る。厳しく取り締まる必要があるのは当然だ」と指摘し、「だが被害者の負傷は軽微なもので、傷害罪での厳罰は望めない。危険運転致死傷罪は被害者が負傷の場合は15年以下、死亡なら20年以下の懲役となるが、同罪は『走行中』の行為を対象としており、このケースへの適用は難しい」と解説する。

この産経社説、どうも法律の問題に偏りそうだと思いながら読み進むと、その通りだった。産経社説も読売社説と同様に2年前のあおり運転を取り上げている。

「平成29年6月に東名高速道路でワゴン車の夫婦が後続のトラックに追突されて死亡した事故では、横浜地裁がワゴン車を停車させた乗用車の運転手に危険運転致死傷罪を適用し、懲役18年を言い渡した。同時に判決は、高速道路に停車させた状態を同罪の構成要件である『重大な危険を生じさせる速度』とするのは解釈上無理があるとも指摘した」
「いわば拡大解釈である。だが高速道路で強制的に停車させる行為が危険な運転でないはずがない。解釈に無理があるのは法令に不備があるからで、法改正によりこれを埋めるべきである」

沙鴎一歩も法改正には賛成だ。ただ読売社説と同じく、あおり運転が絶えない問題の背後を論じてほしい。

■「厳罰化」を実行すれば、あおり運転は本当に減るのか

さらに産経社説はこう指摘している。

「警察庁は昨年、あおり運転は結果として死傷の被害がなくても刑法の暴行罪に該当するとして取り締まりを強化し、あおり運転を行った者に対しては『危険性帯有』により、運転免許停止の行政処分にするとした」
「ただし暴行罪は懲役2年以下であり、危険性帯有の免停は最長180日である。行為の危険性に比して軽すぎないか。法令は生き物である。現実に即して不断の見直しを怠ってはならない」

産経社説の「法律を見直せ」という主張は分かる。だが本当に厳罰化であおり運転が減るのだろうか。「危険性帯有」という法律用語をそのまま使用するなど、法律の解説に偏っているように思う。

■「相手が悪い」と一方的に思い込む現代社会の窮屈さ

繰り返すが、いまの社会は寛容さを失いつつある。

そのひとつがあおり運転だ。相手の立場や考えを無視して自分の感情だけで行動してしまう。走行中に気に障ることがあると、相手の運転が悪いと一方的に思い込む。とくに高速道路上は危険と馬の背を分ける状態にある。一歩引いて相手の立場を考える余裕が必要だ。

週刊誌が政治家の不倫を見つけて鬼の首でも取ったように「問題だ」と書き立てるのもどうかと思う。政治家も人間だ。浮いた話のひとつぐらいあってもおかしくはない。

記事が売れさえすれば、それでいいと考える傾向は疑問だ。寛容さという余裕がほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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