なぜ日本人は世界一、有休を取りたがらないか

プレジデントオンライン / 2019年8月30日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/imacoconut)

世界各国の有休取得について調べた最新の調査で、日本の有休消化率は50%とワースト1位。3年連続世界最低を更新してしまった。ワースト2位・オーストラリアの70%とは大きな差で、ドイツ、フランスなど30日を100%取得する国々には遠く及ばない。GWやお盆、年末年始に“みんなで休む”なら怖くないのに、有休は及び腰。そこに日本社会の働きにくさ、生きづらさが見える――。

■休みの取りやすさは転職のポイント

日本、米国いずれも8月は夏休みのトップシーズンだ。長めの休暇を取得して、家族連れで国内外へ旅行し、たまった疲れやストレスから解放されたいと願うのは、米国人も同様。では、働き方の対極にある休み方、さらには余暇の過ごし方に日米両国で違いはあるのだろうか。

「とにかく、毎夏の旅行を心から楽しみにしている。ビーチで寝そべる時間を思い浮かべ、それを目指していくからこそ、仕事を頑張れる」

メーカーに勤務する40代男性は、上級管理職であるマネジャー。朝から夕方まで仕事漬けの毎日だ。ただ、仕事に忙殺されながらも、夏のバカンスが頭から離れることはない。例年、夏休みは2週間ほど取り、バハマやカンクンなどのカリブ海リゾートや、コスタリカなど中南米に出掛けることが多いという。休みを取得する日を決めたら、それに向かって、さらにギアを上げて働き始めるそうだ。

■有休はすべて消化、夏休みは2週間

別のメーカーで働く50代女性も毎年、バカンスは海外で過ごしている。数年に1度、欧州を訪れており、心身ともにリフレッシュ。以前は病院勤務で、なかなか長期休暇は取りにくく、常にストレスをためていた。彼女によれば、転職を日常的に繰り返す米国人は、新たな会社を選ぶ際、休みの取りやすさは重要なポイントになるという。「その点は、日本と多少、状況が異なるのかもしれないね」と漏らす。

「有休は毎年、すべて消化している。労働者の権利だから当然だ。長時間労働とは無縁だし、たまに在宅勤務も入れるので、メリハリをつけて働けている。そして、毎夏のバカンスがご褒美」。金融機関勤務の30代独身女性にとって、日々の仕事に対する発奮材料は、夏のバカンスだという。今年の夏休みは2週間、日本を訪れる予定で「暑さは承知しているが、のんびり過ごしたい」と遠距離移動をものともせず、心躍っている様子だ。

■フランス、ドイツは30日を全消化

とはいえ、東海岸の企業に勤務する彼らを取り巻く労働環境は、かなり恵まれており、国土が広い米国では必ずしも一般的とは言い切れない。それを示すデータがある。

米国の大手旅行サイト「エクスペディア」が毎年行っている、世界各国の有給休暇日数を比べたアンケート調査の最新2018年版によれば、米国は与えられた14日間のうち、10日間を消化した。一見多いようにも見えるが、有休消化率は71%と、最低の日本(50%)、2番目のオーストラリア(70%)に次いでワースト3位にとどまっている(図表1)。

世界各国の有休取得日数

消化日数は、いずれも10日間の日本、タイと並んで最下位。与えられた30日のうち、全30日を消化したフランス、ドイツ、スペイン、ブラジルの消化率100%には脱帽の思いしか浮かばない。

調査では、米国人が有休を使わない最大の理由として「長期旅行のために、利用するのを控えているためだ」と分析。「長期旅行は素晴らしいが、休暇と休暇の間隔が開きすぎてしまう。週末や祝日に有休を付けた短期休暇でも、生活の質を高めることが可能だ」と指摘している。つまり、米国の祝日は、独立記念日やクリスマスなど日にちが確定しているものを除くと、月曜日となっているため、例えば金曜を有休に充てれば4連休は確保できるという意味だ。

■国に義務化されなければ休めない日本人

一方で、有休取得に罪悪感を抱く人は、58%の日本を筆頭に、米国でも39%の人が「感じる」と答え、上から4番目に位置している(図表2)。米国は、有休を取得するための権利が法律で保障されておらず、先進国の中でも珍しい部類に入る。有休について、企業の裁量に委ねられているものの、企業風土なども作用するためか、取りにくさを感じている人が相当数に上っていることもうかがえる。

有給休暇の取得に 罪悪感がある人の割合

先に触れたが、各国中最低に位置する日本の有休消化率は、20日中、10日の取得で50%。ワースト2位のオーストラリア(70%)とは大きくかけ離れている。昨年成立した働き方改革関連法は長時間労働の抑制に向け、年10日以上の有休が与えられる労働者に対し、年5日以上取得させることを会社に義務付けた。4月から実行に移されているが、働き方改革の旗を振った国が義務化に踏み切らなければ、実効性が担保されないとの点で、他国とは一線を画していると指摘せざるを得ない。

■官製有休なら休めるか

日本中がほぼ一斉に休む年末年始やGW、お盆休みなどは堂々と休むものの、旅行や子どもの学校行事などの家族絡み、あるいは自身の体調がすぐれない時に、有休を使いづらい雰囲気を多くの人が感じていると思う。多少の体調不良なら、無理してでも出勤することだろう。休みが集中する結果、新幹線、高速道路、飛行機のラッシュはすっかり恒例行事となり、観光地は軒並み混雑する。有休をうまく活用すれば、避けられるはずだが、周囲を気にするあまり、平日に会社を「欠席」する後ろめたさ。これを打破すべく、政府のお墨付きを得て取得する有休は「官製有休」とでも言えようか。

ちなみに、あまり知られていない話だと思うが、実は米国よりも日本の方が祝日は多いのだ。米連邦政府が定めた全州共通の祝日は10日にとどまっているのに対し、2019年の日本の国民の祝日は、改元の影響で例年より多い17日に上っている。祝日なら休めるのに有休となると尻込みしてしまうのだ。

■上司の理解も世界一足りない

筆者の経験で誠に恐縮だが、早朝から深夜まで働き続ける超長時間労働で有名な政治記者の一人として、残念ながら有休を取得したことは一度もない。休日出勤の度に加算される代休などを優先的に取得しなければならず、その代休さえ、多忙であればあるほど休日を削って、取材に駆けずり回るため、どんどん積み上がる。有休消化は「夢のまた夢」。毎月の給与明細に記載される有休日数は、常に法定上限の40日で変わらないままだった。

先の調査でも、日本人労働者の有休に対する罪悪感が払拭(ふっしょく)されていない一方で、上司が「有休取得に協力的」と答えた人は各国中、唯一50%を下回った(図表3)。上司、部下、どちらが先かは「ニワトリとタマゴ」の関係であったとしても、いずれも意識改革が必要なのは言うまでもないだろう。

上司が「有給休暇の取得に協力的」と回答した人の割合

話は脱線するが、この流れは以前の記事で記した男の育休についての議論とまったく同じことにお気づきだろうか。日本の育休制度は、国から給付金が支給されるという意味では、大きく区分けすれば有休になるかもしれない。いずれにせよ、有休の義務化導入により、1日でも多くの有休が取りやすくなる状況が生まれ、さらには育休議論にも波及することを期待したい。

■職場にダラダラ居残る日本人駐在員

ヤフーや「ユニクロ」で知られるファーストリテイリング、最近では日本マイクロソフトなど週休3日制を取り入れる企業が増えている。ただ、内実を見ると、その分給与が減少するほか、帳尻を合わせるため週の総労働時間は変わらないと聞く。日本人の働き方や雰囲気など国内の最新状況は実地感覚がないので、言及は差し控える。ただ、米国にいる日本人の働きぶりをめぐり、知り合いの米国人から疑問を呈されたことがある。

日本人駐在員が多い職場に在籍している彼女によれば、日本人駐在員は本当によく働くそうだ。家族持ちの人はそうでもないらしいが、傍から見ていて、独身者や単身赴任者はメリハリがなく、ダラダラ職場に居残っているとのこと。そして、疑問は「せっかく米国に来ているのに、どうしてあまり旅行に行かないのか。広くて、行くところはたくさんあるのに、米国の良い部分を見ないで帰国するなんて、もったいない」とのことだった。

日本でもベストセラーになった『ライフ・シフト』の著者で、人生100年を提唱しているリンダ・グラットン氏は、主に先進国では労働時間が減ると推測し、その結果、生み出された新しい余暇の過ごし方として「家族や友人と過ごす時間」や「教育とスキルの再習得にかける時間」など無形の資産を充実させることが重要だと強調する。

働き方改革は裏を返せば、休み方改革だ。先の調査によれば、日本も米国も似た面もあれば、異なる面もあり、どちらかに軍配を上げることは控えたい。ただ、仕事よりも家庭やプライベートを優先させる考えが強く根差している米国に学ぶべき点はまだまだ多いはずだ。国民性の違いを理由に、議論を遮断すべきではないと思う。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。6歳の長女、4歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。

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(米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎 写真=iStock.com)

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