ダメな後継者を排除する「貢献の道筋」とは
プレジデントオンライン / 2019年8月30日 11時15分
■“テント”に入っていないファミリーをどうするか
ファミリービジネスが成長するにつれて、ファミリーメンバーの意味のある関与とエンゲージメントが課題となります。ある賢明なファミリービジネスリーダーは次のように述べています。「地位と富が敵となる」。これは、後継者の地位にある者が当たり前のようにファミリーの富を受け継ぐことへの警鐘です。後継者はその「地位と富」を自ら獲得しなくてはなりません。その点で成功しているファミリーに共通しているのは、「ビッグテント・アプローチ」です(これはファミリービジネス研究者のケン・ムーアによる造語です)。
ファミリーのリーダーは、適切な教育を施された家族の中、つまり「テント内」のメンバーが増えることを好みます。テント外のメンバーは、テント内部で何が起こっているかわからず、意図せずして好ましくない行動をとる可能性があるからです。とはいえ、テント内を重視するアプローチは、次世代のメンバーや結婚して新たに家族になるメンバーに強いメッセージを送ることになるため、慎重に進めていく必要があります。
世界中でビジネスに携わるファミリーが加速している中、それぞれの家族が自分たちに合った「ビッグテント・アプローチ」を模索し、ファミリーメンバーが複雑でやりがいのあるビジネス活動に有意義に関与し、貢献できる方法についてのガイドラインを作っています。
わたしが講義や講演などを通じてこのビッグテント・アプローチの考え方を説明するとき、その概念は国や視聴者に関係なく、直感的に受け入れてもらえますが、いちばんピンときてもらえるのは「テントから離れている」人のことについて具体的にお話するときです。
たとえば、ある創業者は、世代を超えて続くファミリービジネスを残したいと考えていましたが、事業承継については二人の息子の妻には一切口を挟ませないと決めていました。息子の妻たちは孫の母親であり、したがって将来ビジネスを継ぐ孫たちに重要な影響を与えており、「テントの中に連れて行く」ほうが後々いいのではないですかという話をすると、彼らは納得して息子の妻たちに、経営とは関係ないけれども、ファミリーにとって重要な役割を与えることを検討しはじめました。この話をしてもピンとこない人には、事業承継だけでなく、家族の大事な問題を話し合う場から締め出されている配偶者たちがいることをお話しします。
■貢献する方法を何通りも準備する
ただし、テント内のメンバーを増やすこと自体を目的とするのは意味のないことです。代々続いている優良なファミリービジネスを研究してきてわかったのは、テント内に招き入れたファミリーのメンバー一人ひとりに、有意義な方法で貢献する準備と、意志と、能力を持たせることが最も大事であるということです。この三つはどれが欠けても悲惨な結果を招くことにつながります。
次のように考えてみていただければわかるでしょう。後継者が「貢献する準備ができていて意志もあるが能力がない人」だった場合。あるいは、「準備はできていて能力はあるが意志がない人」である場合、さらに「意志も能力もあるが準備ができていない」人である場合。準備、意志、能力があってこそファミリービジネスに貢献できるのです。
正しいかたちでビッグテント・アプローチを実践しているファミリーは「貢献の道筋」をきちんと設計しています。その道筋は一つではありません。エグゼクティブという役割を通した貢献、マネジャーという役割を通した貢献、新規ビジネスを通じた貢献、ファミリーオフィスという役割を通した貢献、ファミリーガバナンスを通した貢献、ビジネスガバナンスを通した貢献、あるいは慈善活動を通しての貢献などさまざまですこれらの各役割には、明確な条件、責任、そして報酬が伴います。それゆえ冒頭に書いたように慎重に進めていく必要があるのです。
テントの内側にいる事業に直接関与していないメンバーが、たとえばファミリーオフィスやビジネスガバナンスを通じて貢献できることを理解すると、自分たちの価値を感じることができます。同様に、結婚を通じて新たに一族に加わったメンバーも、たとえばファミリーで取り組んでいる慈善活動に参加する機会があればファミリーの一員であることを感じられます。あるいは、次世代のメンバーも、新しいビジネスを通じて貢献できるかもしれないと思うと、家業を通じて起業家的な活動ができるのではないか、とやる気になるかもしれません。いずれにしても、それぞれの環境に最適な役割を最適な方法で提供できるようにするための準備、意思、能力が必要になってきます。
■世代交代に備える学習サイクル
ファミリービジネスにおいて次世代のメンバーに事業とファミリーにおける役割を引き継ぐ際に役に立つエビデンスに根差した理論的フレームワークを、あと二つ紹介しましょう。
組織レベルの問題と個人レベルの問題をリンクするフレームワークが、4Lフレームワークです。4Lは個人のライフサイクル全体で必要な学習を指します。L1は個人がビジネスについて学ぶ段階です。現役のリーダーは、次世代を幼い頃からファミリーの事業に触れさせ、それがファミリーにおいてどんな役割を果たしているかを理解させるとよいでしょう。家族の役割を評価する機会を提供するのです。現役のリーダーはできる限り、ビジネスにおいて次世代が果たしうる肯定的な側面を見せることが大切です。最も望ましいのは、次世代が必要な学歴を取得した後、一定期間別の会社で働き「他の人のお金で失敗させてもらう」だけでなく、信用、経験、そして人脈を獲得することです。
L2はおそらく最も重要な段階ですが、ここで個人は実際に事業に携わり、いちばん大切な価値観を学び、前の世代の哲学を受け継ぎながらも、変えるべきは変えて、事業を存続させていくことを学びます。L3は現役から次世代へのトランジションです。二つの世代が共同でリードし、それぞれがビジネス、ファミリー、および自分自身に対する非常に必要な洞察を蓄積していきます。
現役リーダーにとって最も困難な学習がL4です。先を見越して、自身が去ることを通じてビジネスを導く必要があります。退いた後は別の役割、おそらく「大使」のような対外的に重要な役割を果たすことが望ましい。そうすれば、次の世代がビジネスに専念することができます。簡単なことではありませんが、最高のリーダーはL4をやりきることによって、ファミリービジネス継続の可能性を高めることができるのです。
■後継者を試す4つのテスト
もう一つは4テストアプローチです。これはノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授のイヴァン・ランズヴァーグによってハーバード・ビジネス・スクール・レビューに紹介されました。イヴァンは、承継者には4つのテストがあるといいます。
①適格性テスト:学歴、職歴、受賞暦、仕事における実績など
②自己評価:ステークホルダーに対して自分で設定した期待値。言行一致しているか③状況テスト:労使対立、経営者の不慮の死、困難な経営課題への取り組み方
④政治テスト:社内の抵抗勢力への対応
現役世代が潜在的なリーダーを評価するときに、これらの4つのテストを通じて人物の適正がある程度浮かび上がります。次世代のリーダー候補は、この種のテストによって評価されることを念頭に準備する必要があります。それはビジネスやファミリーのリーダーシップを培うのに役立ちます。重要なことは、このテストは生涯にわたって繰り返し行われるということです。
ファミリービジネスが世代を超えて継続していくためには、ファミリメンバーが事業またはファミリー、あるいはその両方に有意義な方法で貢献する準備、意思、能力を備えていることが重要なのです。
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ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授
米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の「ファミリー企業センター」の前センター長。同校ではファミリー・ビジネス担当教授。また、彼の出身校であるオーストラリアのボンド大学の起業家担当教授として活動しているかたわら、日本を含む数カ国のファミリービジネス・オーナーへの直接のアドバイスも行っている。
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(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授 Justin B. Craig Ph.D.)
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