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動機が「怒られたくない」の人は絶対に伸びない

プレジデントオンライン / 2019年9月3日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Six_Characters

※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■人数が増えるほど、1人が出す力は減る

人のパフォーマンスについて面白い実験があります。フランスのリンゲルマンが行なった、「リンゲルマンの綱引き実験」です。これは被験者を「1人」「2人」「5人」「8人」の4パターンのグループに分けて綱引きをさせ、その牽引力を測定したものです。すると、次のような結果になりました。

1人——63キロ
2人——118キロ
5人——160キロ
8人——248キロ

これを1人あたりの力に換算してみると、それぞれ次のようになります。

1人——100%
2人——94%
5人——51%
8人——49%

どうでしょう。何か気づきませんか? そうです。集団の分母が増えれば増えるほど、1人あたりの力が減っているのです。この実験から、一緒に作業するメンバーの数が多ければ多いほど、1人あたりの発揮する能力が低下することがわかります(リンゲルマン効果)。

つまり、人は組織にいると、自分では100%の力を出しているつもりでも、無意識のうちに力を抑えてしまうということ。仮に8人以上の従業員がいる企業で働いているとしたら、あなたは本来の半分程度しか能力を発揮していない可能性が高いのです。それはメンバーも同様です。

ということは、眠っているもう半分の力を発揮できれば、より一層のパフォーマンスが発揮できることは明白です。今いるメンバーは、力を持て余しているといっても過言ではありません。

メンバーを「使えない」といって切り捨てるか、「まだ力を発揮していないだけ」と捉えるかで、接し方も変わってきます。ぜひあなたには、後者の見方をしてもらいたいと思います。プレーヤーとして優れたリーダーほど部下のパフォーマンスが低いと切り捨てがちですが、リーダーとして一流の人は、メンバーの可能性を信じて接し続けるものです。

■部下が全力を出せないのはリーダーのせい?

人にはまだ発揮されていない能力が眠っています。しかし、多くの人は、その能力を正しく引き出すことができていません。時には、リーダーの物事の捉え方が偏っているあまり、力を出せていないケースもあります。

鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)

たとえばあなたが長年育ててきたメンバーに、上層部から昇格の打診があったとしたら、どのように捉えるでしょうか。「メンバーにとってチャンスだ!」と前向きに思える人もいれば、「まだ昇格なんてさせられる実力じゃない」とネガティブに思ってしまう人もいるでしょう。

どちらが正解というわけではありませんが、メンバーの眠っている力を発揮できる可能性があるのは、もちろん前者ですね。このように、物事の捉え方一つで、引き寄せる結果は大きく変わってきます。

ではその物事の捉え方はどのようにして決まるのかというと、その人が持っている「思い込み」です。ポジティブな人からすれば「チャンス」と思えることをネガティブに感じるということは、特定のシチュエーションが、悪い感情と結びついて脳の中で記憶されている可能性があります。

■「目標設定」はアクセル、「思い込み」はブレーキ

目標設定がアクセルのようなものだとすれば、「思い込み」はブレーキのようなもの。せっかくメンバーがアクセルを踏み込んだのに、リーダーの「思い込み」によってブレーキがかかってしまうのは、もったいないことです。リーダーは、部下がどうすればアクセルを踏めるようになるかを考えるべきです。

あるアイスホッケー選手のEさんは、「人から怒られたくない」という気持ちを抱えながら競技をしていました。周りのことを気にするあまり思い切ったプレーができず、ベンチ要員に甘んじていたのです。

最初は純粋にアイスホッケーが好きで始めたEさんでしたが、成績が上がるにつれ、いつのまにか「周りにがっかりされないプレーをすること」が目的になっていました。派手な活躍はできないのと引き換えに、何も責められずに済むことに対し、無意識に保険をかけていたのだと思います。これでは、せっかくの能力も発揮されません。

■本当の理由は、聞いてみないとわからない

そこで私は、Eさんの思い込みが何なのか、聞いてみることにしました。まずは「どうして周りにがっかりされないプレーをするのですか」と聞いたところ、彼はこう答えました。「応援してくれる人の期待に応えたい」と。

「どうして応援してくれる人の期待に応えたいと思うのかな?」と私が聞くと、「期待を裏切って悲しませたくないから」という意外な答えが返ってきました。

よくよく聞いてみると、Eさんは幼少期、親に結果が出たら褒められ、結果が出ないとがっかりされてきたと言うのです。私はEさんの、親のがっかりする姿を見たくないから保守的なプレーをするというその姿勢に驚きました。彼を保守的なプレーに駆り立てているのは、怒られた経験ではないかと、私自身が思い込んでいたからです。

そこで私は、Eさんの思い込みを揺さぶるような質問を投げかけました。「人をがっかりさせたくない、と思い続けると、どんな人生になると思いますか?」と。

■一流のリーダーはチャンスがくるとアクセルを踏む

するとEさんは少し考えた後、「自分の意思がなくなる気がします」と答えました。それを受けて、「それでは、真実はなんだと思いますか?」と聞いたところ、「結局、自分次第なんだと思います。今、この瞬間に自分のベストを尽くすことが結果的に周りの人を喜ばせると思います」と、今までにない強い口調で語ってくれました。

そこで、まずは人への接し方や指導者のアドバイスを実行することを小さな一歩としました。それ以降Eさんは、自分らしいプレーを取り戻すとともに、レギュラーの座も取り戻しました。眠っていた力を、自分で引き出すことに成功したのです。

「自分にはこんな思い込みがあったんだ」と自覚するだけでも、その後のパフォーマンスは大きく変わってきます。リーダーがメンバーの思い込みに気づき、本人にも気づかせることができれば、コーチングは成功したと言っても過言ではありません。

「なかなか結果が出せない」というメンバーには、結果を出すことを阻んでいる要因は何か、そして現状を維持するメリットは何か、本人に聞いてみましょう。自分で自分の首を絞めていることに、きっと気がつくはずです。チャンスがくるとブレーキを踏みたくなる気持ちもわかりますが、一流のリーダーはチャンスがくるとアクセルを踏むのです。

■部下を悩ませる「励ましの言葉」

みなさんの周りにいませんか? 何かを始めようとする前から「それは無理だ」と否定する人が。脳は単純ですから、「難しい」「できない」と思い込み続けると、実際以上に難しく、永遠にできないように感じられてしまいます。そうすると、せっかく努力しても報われなくなり、本気で取り組まなくなります。これでは、ますます結果が遠のいていくばかりです。

大切なのは、「自分にはできる」「自分は変われる」と知ることであり、信じることです。そのためには、「できない」と思わないように、リーダー自身が発する言葉にも気をつける必要があります。実際、指導者の言葉が心の重荷になり、成長が止まっていたクライアントにFさんがいます。

バレリーナのFさんは、バレエの先生に「自分の殻を破りなさい」と言われ続けていました。そのためはじめて会ったとき、「殻ってどうやって破ればいいんですか」と、真面目な顔で尋ねてきました。フィギュアスケートやバレエなど、体を使って表現する種目の指導者は、選手に対して「殻を破れ」「殻に閉じこもっている」といった表現を使うことが多いように思います。

■メンバーを心の重荷から解放してあげる

しかし、そもそも「殻」とは何でしょう? 私はFさんに「そもそも殻って一体、何のことだと思う?」と聞きました。すぐに答えは出ませんでしたが、Fさんは自分なりに考えたのでしょう。後日Fさんの親御さんから、「鈴木先生のコーチングの後から、明らかに良い方向に様子が変わりました!」とメールをもらいました。Fさんにとって、先生のこの言葉が重荷になっていたのだと思います。

リーダーや指導者は、相手のためを思って言葉をかけたり、励ましたりします。しかし、時にその言葉が相手の重荷になり、パフォーマンスを制限している原因となることもあるのです。

この話はあくまで一例ですが、たとえば「壁を超えろ」といった言葉も、メンバーからしたら「壁はどうやったら超えられるのだろう」「そもそも壁ってなんだろう」などと思えてきて、相手をいたずらに悩ませてしまう要因になりやすい言葉です。

激励のつもりで日々かけ続けている言葉は、果たして相手のためになっているのか、リーダー自身が振り返ってみることも、思い込みを特定するきっかけになります。相手だけでなく、自分の言動も振り返ることで、メンバーを心の重荷から解放してあげることができるかもしれません。

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鈴木 颯人(すずき・はやと)
スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人)

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