20~30代が「退職代行」に駆け込むしかない背景

プレジデントオンライン / 2019年8月27日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

■勤め先と話し合うことなく、さっと辞められる

退職の意思を本人に代わって勤め先に伝える「退職代行サービス」が話題になっている。利用料金は3万~5万円程度。勤め先と話し合うことなく、さっと辞められる点が人気だという。

こうしたサービスが話題になる背景の一つは人手不足だろう。わが国では、少子化・高齢化と人口減少が同時に進んでいる。多くの企業が、労働力の確保に苦しんでいる。企業はできるだけ長く従業員に勤めてもらいたい。そのため退職希望者を過度に引き留めるケースが増えているのだろう。

働くことの動機は人それぞれだ。しかしお互いの信頼関係を傷つけることは歓迎できない。雇用者と被雇用者が、互いのことをしっかりと理解し、意思を尊重しあえる環境が目指されるべきである。そのために労働市場改革の推進が求められている。

厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2013年11月以降、有効求人倍率は1倍を上回っている。これは、公共職業安定所(ハローワーク)における求人数が、求職者数よりも多いということだ。

過去1年間程度の間、わが国の有効求人倍率は1.6倍台前半で推移している。47都道府県すべてで、労働需要が供給を上回り、雇用環境は逼迫(ひっぱく)している。年齢別にみると20~30代の求人の多さが目立つ。

■「人手不足倒産」の件数は過去最多に

人手不足の深刻化は、企業経営にとって無視できない問題だ。東京商工リサーチによると、2018年の「人手不足倒産」の件数は387件だった。これは過去最多だ。人手不足倒産の最大の要因は「後継者問題」である。それに加え、「求人難」から倒産に追い込まれるケースも増えている。人手不足による人件費の増加や、社員の転職などによって事業が行き詰まる中小企業もある。

業種別にみると、製造業、非製造業の両分野で人手不足は深刻化している。特に、サービス業では介護分野を中心に働き手の確保が思うようにいっていない。省人化に向けた投資を行う企業は増えているものの、人手不足への対応は容易ではない。

こうした状況から多くの企業は、「少しでも多くの人に、より長く勤めてほしい」と考えるようになっている。一度退職されてしまうと、代わりの人材を探すにはかなりのコストがかかる。採用できたとしても、業務に必要なスキルや能力があるかなど、不確実性も伴う。それを避け、事業を継続するために、企業は従業員の引き留めを画策するのだろう。

■「すぐに辞めたい」と思う人にとっては渡りに船

「ここで辞められるわけにはいかない」という企業側の考えが強くなりすぎ、退職をめぐるトラブルも増えている。2017年度、全国の労働局に出された退職トラブルの相談は3万8954件に達した。これは、解雇相談よりも多かった。

業務量が増える中、人間関係に悩みストレスを感じている人は増えている。労働需給が逼迫(ひっぱく)しているため、その気になれば簡単に転職できる。リーマンショック後の状況に比べれば、転職市場はかなりの活況だ。

このため20~30代を中心に、退職代行サービスを利用する人が急増している。どういった心理で、こうしたサービスを利用するのか。「自分で退職を伝えるのが面倒だ」「一度やめると決めた以上、勤め先と交渉などしたくない」といった考えだろうか。人間関係が悪化し、上司に退職の意思を伝えることが難しい(できない)という人もいるだろう。スキル向上のために勤め先を変えるという考え方も一般的になりつつある。

退職代行サービスは昨年ごろから急速に話題となり、人材紹介会社などがサービスを提供している。利用料金は3万~5万円程度が多いようだ。勤め先への退職意思の伝達をめぐり、法的リスクへの対応も含めたサービスを提供する弁護士事務所も登場している。この場合、料金は上がる。それでも利用者が増えているようだ。「すぐに辞めたい」と思う人にとって退職代行サービスはまさに渡りに船なのだろう。

■定年まで勤めあげる「幸福のモデル」は機能不全に陥った

退職代行サービス利用の是非は、一概には言えない。それは、個々人の判断による。ただ、働く以上、人と人のつながりや信頼関係は大切にしてほしい。別の見方をすれば、労使間での信頼関係が失われつつあるということだろう。これは問題だ。

突き詰めて考えると、わが国では雇用のミスマッチが深刻化している。この状況が続けば、わが国の経済には無視できない影響が及ぶ恐れがある。このため政府中心に労働市場などの構造改革を進めることが欠かせない。

1990年初頭に資産バブルが崩壊するまで、わが国経済は右肩上がりの成長を遂げてきた。特定の企業に就職し、年齢を重ねるごとに昇給・昇進を重ね、定年まで勤めあげることは当たり前だった。その意味で、終身雇用制度はわが国の“幸福のモデル”だった。

しかし、1997年の金融システム不安を境に状況は一変した。倒産することはないと考えられた大手金融機関が経営破綻するなど、わが国の幸福のモデルは機能不全に陥ったといえる。以後、転職を目指す人は増えてきた。

■価値観に合った働き方を重視する人が増えている

つまり、自分自身の生き方を模索し、価値観に合った働き方を重視する人が増えている。まず、わたしたちは、この変化を冷静に認識しなければならない。その上で、政府を中心に構造改革を進め、先端分野や人手不足が深刻化する業種に経営資源が再配分されやすい状況を目指すことが大切だ。

労働市場に関して言えば、就業形態よりも、働いた内容、さらには、実績・成果に応じた評価を目指すことが大切だろう。それは、人々のやる気を引き出すことにつながる。仕事の内容や実績によって給与が増えれば、人々はよりよいパフォーマンスを目指し能力向上に取り組むだろう。それは、企業が新しい取り組みを進め、イノベーションを目指すために欠かせない要素の一つだ。

また、人手不足解消のためには、省人化投資に加え、外国人労働者の受け入れをさらに拡大することも欠かせない。政府がそのための制度設計に取り組み、企業に新しい取り組みを促すことが求められる。それが雇用のミスマッチを減らし、人々がより長期の視点で、満足感を高めながら働くことを支えると考える。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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