一流のリーダーが「若い頃の失敗」を語る理由
プレジデントオンライン / 2019年8月30日 9時15分
※本稿は、伊庭正康『できるリーダーは、「これ」しかやらない』(PHP研究所)の一部を再構成したものです。
■「背中を見て覚えよ」は職場を地雷原にする
先日、名古屋の駅前で入った食堂でのこと。「オレの背中を見て覚えろ」と言わんばかりに、部下のことはそっちのけで、テキパキと動く店長が厨房を仕切っていました。その姿は、まるで早回しのよう。
実際、店長がテキパキ動く後ろに、動いているバイトもいれば、ただ立っているだけのバイトもいました。
「何かをするべきなんだろうけど、勝手にやったら叱られそうだし……」
あたかも、どこに地雷が埋まっているかわからない……そんな雰囲気。早回し店長は、立っているだけのバイトに言い放ちます。
「ボサッとしちゃダメよ。お客様、お待ちになっているでしょ」
バイトは、どうしてよいのかわからず、キョロキョロとします。早回し店長は、間髪入れずに言い放ちます。
「キョロキョロしても、意味ないよ。今は、何をする時?」
とりあえず、勇気を出して、皿を移動させようとするバイトの動きを横目でキャッチするや否や、地雷が爆発。
「そうじゃないでしょ。今は、何をする時?」
教育のつもりだとは思うのですが、これではバイトは続かないでしょう。上司が、自分のやり方へのこだわりが強すぎ、その上「背中で見て覚えてよ」という態度では部下は恐怖しか感じません。
この早回し店長ほどでなくても、プレーヤーとして活躍していた人ほど、細かなところが気になるものです。では、どうすればいいのでしょう。
■「スキのないリーダー」が部下のやる気を奪う?
部下のフルスイングを期待するなら、むしろ「フェアウェイ」の広さを感じさせなければなりません。
研修講師という仕事をしていると、多くの管理職の方々と接します。離職率が低く、部下の主体性も高い、そんなできる管理職が決まってやっていることがあります。彼らは、「あえて、失敗談を語っている」と言うのです。
「私の新人の時はさ、目標達成のプレッシャーで、お客様視点が消えていたんだよね。お客様から叱られて、ようやく気づいた。恥ずかしい経験だけど。お客様視点を失わないようにしないとね」といった感じ。
これは、部下の主体性を引き出す絶大な効果があります。部下たちは言います。
「今はすごい上司でも、昔はそうだったのか、と思うと安心できる」と。
これはまさに広いフェアウェイ。この上司なら多少の失敗も許してくれると安心するのです。
逆に、「スキのないリーダー」では、部下の主体性を引き出すのは難しいのです。だからこそ、できるリーダーは、丁寧さに加えて、自らの「失敗談」を語ることで、フェアウェイの広さを感じさせます。
■できるリーダーは「わからないフリ」をする
また、部下の主体性を引き出す上司たちに一致しているもう1つのことは、わかっていることでも、わからないフリをして、教えてもらう姿勢をとるということです。
「新人に、どんな歓迎をしたらいいかな?」
「そうですね。全員でウェルカムメッセージを書くのはいかがでしょう」
「なるほどね~。その手があるか。お任せできると嬉しいんだけど……どうかな?」
「わかりました。みんなで考えてみますね」
わからないフリをすることで、部下が安心して自由に発言できることがわかります。大事なことは、「自由に発言しても大丈夫という心理」です。
これを専門用語で心理的安全性と言います。この心理的安全性を担保する手段として「失敗談」を語ったり、「わからないフリ」をしたりするのです。「弱み」を見せてください。そのほうが、部下の主体性は確実に高まります。
■初めてのリーダーが陥りやすい失敗
リーダーだから、「弱みは見せるべきではない」「恥ずかしいところは見せられない」と考えているなら要注意です。
リーダーになってから精彩を欠く人の特徴に、「ポジティブすぎること」が挙げられることは少なくありません。いつも元気で前向き。それは極めて大事なのですが、部下からしてみると、少し本音が見えない、といったことにもなるのです。
■「人間くささ」こそが重要になる
うまくいかない上司の典型は、ひとことでいうと「人間くさくない」、ということ。従業員満足度の調査で意外とスコアが低く出るのは、このタイプがリーダーの組織です。
初めて役職が付き、肩に力が入っているという場合もありますし、意識することなく生来のポジティブさで突っ走っている人もいます。いずれにせよ、それでは部下との距離は縮まりません。繰り返しになりますが、リーダーになったら、あえて弱みを見せる、といったぐらいの適当さが必要なのです。
例えば、ある幹部はこんなことを言った時、みんなの心を一気につかみました。
「営業時代、あまりにしんどくて、客先に行かず、山手線を何周かした」
誰でもこれに近い経験はあるのではないでしょうか。私も恥ずかしながら、大阪の環状線をまわったことを思い出しました。
真面目でキッチリしているだけでは、部下との距離は縮まりません。リーダーに必要なことは、“賢さ”でも“ソツのなさ”でもなく、「人間くささ」。人間くささとは、「弱さ」である。自分の弱さを知り、その弱さを隠さないことも、リーダーには必要なのです。
■弱みを見せられるのも強さ
以前、有名な合気道の師範と会話をする機会がありました。日本屈指の方なのですが、次のような質問をしてみました。
「ヤンキーに絡まれたらどうしますか?」
師範は言いました。
「怖いので、全速力で逃げる」と。
この返答には驚きました。でも、聞くとこういうことでした。
「想定外のことをする人は、やっぱり怖い。なので、全速力で逃げる」と。
でも、しつこくさらに尋ねてみました。「もし殴られたらどうするのか」と。するとこんな返答でした。
「恨みを買わない程度の最小限の防御だけをして、全速力で逃げる」と。
どうでしょう。とても人間くさく感じませんか。お弟子さんたちもきっと人間味を感じていることでしょう。
よく言われることですが、やはり、こういうことです。
「本当に強い人ほど、怖がりであり、小心者だったりする」
だからこそ、弱みを見せることで、ぜひ部下との距離を縮めてみてください。きっと、部下はこう感じるでしょう。
本当にすごい人だから、弱さを見せられるのだ、と。
これもリーダーとしての処世術です。
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らしさラボ代表
1969年、京都府生まれ。1991年リクルートグループ(求人情報事業)入社。2011年、らしさラボを設立。営業リーダー、営業マンのパフォーマンスを飛躍的に向上させるオリジナルの手法(研修+コーチング)が評判を呼び、年間260回にのぼるセッション(営業研修・営業リーダー研修・コーチング・講演)を自ら行っている。
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(らしさラボ代表 伊庭 正康)
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