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今どき学生が先祖供養を大切にする意外な理由

プレジデントオンライン / 2019年8月29日 6時15分

筆者が東京農業大学で講義をする風景。 - 撮影=鵜飼秀徳

昨今、「墓じまい」が話題になるなど、先祖供養は簡素化しつつある。だが今どきの大学生はそうでもないようだ。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「東京農大の授業で聞いたところ、大学生の98%が『年1回以上墓参りする』、64%が『一族の墓を守っていきたい』と答えた。親世代より先祖供養を重んじる傾向がありそうだ」という——。

■意外すぎる20歳前後の大学生の宗教観と葬送意識

東京農業大学(東京都世田谷区)で週に1コマ、宗教学の講義を受け持っている。農業と仏教との関連性はあまりなさそうに思えるが、さにあらず。日本では古くから、仏教と農とは切っても切り離せない関係にある。

6世紀に日本に伝わった仏教はこれまで、農業の発展に寄与してきた。中国へ渡った留学僧たちが農耕技術を学び、あるいは、中国から僧侶がやってきて日本に農作物の種などを広めた。

たとえば、遣唐使であった最澄(天台宗の開祖)は茶の種を日本に持って帰り、比叡山のふもとの近江坂本の地に植えたことで知られている。また、弘法大師・空海(真言宗の開祖)は9世紀、朝廷から讃岐に派遣されて、当時決壊に悩まされていた満濃池(まんのういけ)を修築した。満濃池は日本最大の農業用ため池であり、いまでも、田畑を潤す貴重な水源になっている。

あるいは「インゲン豆」はその名の通り、黄檗宗の開祖・隠元隆琦(いんげんりゅうき)に由来する。隠元はほかにも、レンコンやスイカを日本に伝えたと言われている。

履修生のなかには、造園や地域創成を専門にする学生もいる。造園においては、寺院とは関係が深い。地域創成の観点だと、寺院は農村のコミュニティの紐帯として機能を果たしてきた。農業大学の学生が日本の仏教のことを学び、教養を深めることはとても大事なことなのである。

さて、授業では、さまざまなアンケート調査を実施している。

内容は、学生の宗教観や葬送意識についてである。2018年と2019年の2年間、同じ質問項目で調査を実施(履修生合計684人)し、統計を取った。20歳前後に特化したこの手の調査はほとんど存在しないので、貴重なデータと言えるだろう。

■日本の若者は「信仰心が薄い」は間違い、かなり「宗教に篤い」

昨今、「墓じまい」などの葬送の簡素化が言われている。若者の死生観を見ることで、30年〜50年後の中長期的視座に立った葬送に関する予測もできそうだ。ここで、アンケート結果の一部を紹介しながら、葬送の意義について論じていこうと思う。

十三詣りの風景
撮影=鵜飼秀徳
十三詣りの風景(京都・法輪寺) - 撮影=鵜飼秀徳

たとえば「信仰」について。昨今、「宗教離れ」と言われて久しい。しかし、それは本当だろうか。

最近では、NHK放送文化研究所が国際比較調査グループ(ISSP)の一員として調査し、2019年に発表した「宗教」に関するリポート(対象18歳以上、有効回答1466人)がある。「信仰心があるか」について尋ねたところ、「ある」と答えた人は26%にとどまる一方で、「ない」は52%に上っている。

このデータを見る限り、日本人は「信仰心が薄い」民族のように思える。しかし、人生儀礼や年中行事、文化体験などにおいて、宗教が欠かせない存在になっているのも事実だ。子供が生まれればお宮参りや七五三などの際、寺社仏閣にお参りをする。

新入生に「合格祈願を手や神社でしたか」「合格のお守りを試験に持参したか」と手を上げさせれば、大多数が挙手をする。

結婚式はキリスト教式が多いだろう。葬式は簡素化しているとはいえ、依然として仏式がほとんどだ。さらにその後、回忌法要も数十年間にわたって実施する。こうしてみれば、日本人は「信仰心が薄い」とは言い難く、むしろ、かなり「宗教に篤い」民族と言えそうだ。

■大学生の6割超が「私は一族のお墓を守っていく」

それは、「信仰」というニュアンスよりも、「生活上、必要不可欠な存在」に宗教がなっているとも言えそうだ。

事実、「お寺や神社は必要だと思うか」の問いに対し、農大生は

強くそう思う……31%
まあそう思う……56%
どちらでもいい……10%
なくていい……2%
必要ない……1%

と肯定派が大部分(87%)であった。

「墓参り」について、盆入り前にアンケートを採ってみた。すると、意外にもきちんと墓参りしている若者が多いことがわかった。「1年に1回程度」が35%、「半年に1回」が33%であった。「3カ月に1回以上」という、墓参りに熱心な学生は26%いた。一方で、「いかない・行ったことがない」は2%にすぎなかった。

写真=iStock.com/kazunoriokazaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazunoriokazaki

「墓参りは必要だと思うか」の質問に対しては、肯定派が81%であった。農大生へのアンケートでは「一族のお墓を守っていくか」いう質問もしてみた。結果はこうだ。

「あなたは一族のお墓を守っていくか」
守っていく……64%
祖父母の墓までは守る……14%
親の代まで守る……15%
早く墓を処分したい……2%
守る墓がない……5%

「守る」と明言する学生が6割超であることがわかった。一方、お墓の維持について、親世代(46〜55歳)はどう考えているのか。冠婚葬祭総合研究所「葬祭等に関する意識調査」(2016年、以下、冠婚葬祭総研調査)によれば、「お墓を守るのは子孫の義務だと思うか」という質問に対し、肯定率は58%であった。つまり、親よりも子供世代のほうが、先祖供養に対する意識は高そうだ。

■親の葬式も家族葬より「それなりの規模」でやりたい

次に、「葬式」について。学生に「親の葬式をどのような規模感でやりたいか」を聞いた。結果は次の通りである。

なるべく盛大にやりたい……18%
お金をかけずになるべく多くの人を集めたい……33%
お金がかかるので親族のみでやりたい(家族葬)……46%
葬式はやらなくていい(直葬)……3%

彼らの親世代自身のお墓参りに関する冠婚葬祭総研調査と比べてみた。親世代は「家族葬でいい」が85%、「直葬(葬式はやらず火葬のみ)でいい」が62%と、葬送に対してネガティブな反応を示している。子供からすれば、親が死んだ時、関係者を集めてきちんと弔いたいのに、親自身は「簡素な葬式でいい」という。弔う側と弔われる側での齟齬(そご)が生じている。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■「きちんと死後を弔いたい」という思いが強いワケ

今の学生は、即物主義社会に育った現代っ子である。死後に意識を向けるよりも優先したいことが山ほどある年頃だ。一般的には若者は葬送への意識が低いというイメージをもっていたが、それはとんだ誤解だったようだ。

なぜ、このような結果になったのか。

若者は「葬送の現実」を知らない。だからこそ、純粋に「きちんと死後を弔いたい」という思いが、結果に強く表れているように思う。

彼らが葬送の担い手になるのが40~50年後であろう。その頃、多死社会は一段落すると見込まれている。費用などの合理性のみを判断基準にしている今現在とは、少し状況が変わっているだろう。

学生と対話を重ねると、見えてきたことがある。二十歳前後ともなれば大方が、祖父母(あるいは曽祖父母)の葬式を一度は経験済みである。誰しもそうであるが、最初の身内の葬式は衝撃的な経験となる。多感なこの時期、初めて芽生えた「弔いの心」は実にピュアなものだ。

■「死ぬなら迷惑をかけずに死ねよ!」に怒る大学生

授業では、「死の体験」についてのリポートも書かせている。

ある男子学生(18)は8年前、母方の祖父が他界したのが最初の「身内の死」であった。訃報を聞いて、学校を休み、母の故郷の岩手で「冷たくなった遺体」と対面し、初めて「死とは何か」を実感し、「涙がこぼれた」という。

また、祖母の葬式の経験を綴(つづ)った男子学生(18)は、「祖母の友人らが大勢集まり、あたたかい空気に包まれていた。葬式の場で、今まで知らなかった祖母の人となりを知ることができた。悲しみの中で、新しいことを知れたうれしさのようなものも同居していた」と正直な心境を明かした。

なかには、同級生の自殺の経験をふまえ、「社会の中で自殺があまりにも軽くみられ過ぎている」と憤る女子学生(18)もいた。近年、SNS上で、電車への飛び込み自殺などに対し、「死ぬなら迷惑をかけずに死ねよ!」などのつぶやきが多いことを彼女は指摘し、「死とはその人にとって、人生の終わりだ。そんな最期を、他人がバカにする社会は許せない」と、憤る。

「死」は格好の教育材料だ。公教育で「死」を学ぶ機会はほとんどないが、近しい人の死や墓参りなどを通じて、感受性が養える。だからこそ、われわれは若い世代に対して、「供養の大切さ」をしっかりと伝えていく必要があるように思う。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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