"60歳で医師"驚異のボイスレコーダー倍速勉強
プレジデントオンライン / 2019年9月10日 17時15分
■ボイスレコーダーに吹き込んで倍速で聞く
水野隆史さん(64歳)は、現在十和田市立中央病院で内科医として働く。一見してベテラン医師の風貌だが、金沢大学医学部の編入試験(4年制大学を卒業した学士ならば、3年次から編入する試験を受けられる)に合格したのは2009年のこと。当時、水野さんは54歳だった。その後15年3月に同年最高齢で国家試験に合格、同年4月から研修医となった「還暦過ぎの若手医師」だ。
もともとは農林水産省の官僚だった水野さん。激務をこなすかたわら、医師を志して勉強を始め、見事に難関を突破。目指していた「直接、目の前の人を救える仕事」に就いた。
水野さんを医師へと導いたのは、自身が生み出したある特別な勉強法だったという――。
■朝3時に起床、仕事と勉強を両立
何より大切なのは、自分に合った勉強法を見つけることだと思います。
私が医学部受験の勉強を始めたのは50を過ぎてのことでしたから、若い頃に比べて、覚えが悪くなったと痛感していました。
また、仕事を続けながらだったので、勉強時間も限られる。最初はカードに重要な用語や意味を書いて隙間時間で見るようにしていましたが、考え抜いた末に、「五感」を可能な限り使う勉強法にたどり着きました。「見る」という視覚だけに頼るのではなく、「しゃべる」「聞く」ことも活かした勉強をしようと考えたんです。
具体的には、以下のような勉強法です。まず、生活リズムを完全な朝型に変えました。夜は23時には寝て、起床は朝3時。遅くとも22時には役所から帰宅するようにしていました。
そうして、朝3時から7時までは必ず勉強に充てる。3時に起きてまず「準備」をします。今日はこの範囲と決めて、覚えたい内容を整理してテキスト化し、ボイスレコーダーに吹き込むんです。このときに大切なのは、ただ参考書の内容をなぞるのではなく、自分なりに噛み砕いて、理解したうえで文章にすること。まずそのことが勉強になります。そして、録音する際はゆっくりと落ち着いて読み上げること。口に出すことでより記憶に定着しやすくするんです。
■散歩中はボイスレコーダーをおよそ1.5倍速で再生
ここまでの準備を、およそ1時間かけて行います。そうして朝4時、1時間分を録音したボイスレコーダーを持って、歩いて1時間くらい先の公園まで散歩に出かけます。散歩中はボイスレコーダーをおよそ1.5倍速で再生します。それを、繰り返し聞きながら、歩く。
1時間ほどで公園に着くと、朝5時頃。そこから1時間強は、ベンチに腰掛けて参考書を開きます。ここでの勉強は、その日に録音・再生した内容とは違うものに変えています。いわば、明日のための勉強です。早朝の公園なので人もほとんどおらず、風の音や鳥の声といった適度な雑音は、まったく静かな環境よりも集中力を高めてくれます。
1時間ほど公園で勉強したら帰路につき、そのときも録音した音声を、今度は2倍速にして流します。1日大体3万歩は歩いて、帰宅するのは朝7時。そこから、簡単に食事や身支度を整えて出勤しますが、ここで10分から30分くらい仮眠をとることで、頭がスッキリします。夜の睡眠時間は4~5時間と短くても、日中ところどころ15分前後の仮眠をとる「分割睡眠法」を取り入れたことで、疲れにくく、頭もクリアになりました。出勤後は仕事に集中、昼休憩では、妻の作ってくれた弁当をそそくさと食べ、15分程度の仮眠をまた確保しました。
■古典的ながら画期的な勉強法
試験を受け始めて2年目頃から、学科試験では合格点を取れるようになってきたのですが、面接試験では落ち続けました。面接では決まって、「その年で医師になって、何歳まで続けるつもりなんだ」と言われるわけです。その度に、「日野原重明先生のように、100歳を越えても続けます」と答えました。が、落ち続け、5年目には編入ではなく学部から受けなおそうと、センター試験も受験しました。しかし、この年、やっとのことで金沢大学に編入できました。
大学生活も、長時間の実習が連日続くハードなものでした。講義では勇んで一番前に座って一生懸命ノートをとったつもりでも、周りの35歳年下の同級生たちは前回の講義の内容について、私が忘れてしまったことを事細かに覚えている。あらためて記憶力の違いを痛感しましたし、悩む間もないほど、覚えなければいけないことも多い。ボイスレコーダー勉強法を使う余裕や時間はありませんでした。
そこで、要点をまとめたメモで大事なところは赤ペンを使い、透明な赤いカバーをかけて見えなくするという古典的な仕組みながら、しかし両面で使える新しいタイプの「暗記ノート」を使って、ひたすらに勉強しました。あわせて、愛用したのは消せるボールペン。ただし、この覚え方よりもICレコーダー式で勉強したことのほうが今でも鮮明に覚えていて、記憶の定着はいいように今では思いますね。
今は24時間いつ呼び出されるかわからないので、毎日飲んでいたビールもほとんど飲みません。働く環境としては、今が一番厳しい。でも、目の前の人を救うことができるという充実感、患者さんからいただく感謝の言葉は、代えがたいものがあります。勉強してよかったと心から思っています。
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医師
1955年、福井県生まれ。78年、東京大学農学部卒業後、農林水産省に入省。長崎県農業技術課長、名古屋消費安全センター所長、農研機構企画部長等を歴任。2009年末に退官、金沢大学医学部に入学。15年から十和田市立中央病院に勤務。
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(医師 水野 隆史 構成=伊藤達也 撮影=奥山洋一)
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