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なぜ日本は"職場の人間関係"が世界一悪いのか

プレジデントオンライン / 2019年9月4日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Motos_photography)

2015年の国際調査で、「職場の同僚の関係は良い」と思っている人の割合は、日本が世界で最下位だったのだそうです。しかもこの10年で大幅に悪化しているとか。なぜ日本の職場はギスギスしているのでしょうか。そしてそれを改善する方法は――?

■和を重んじる日本の職場は平和的と限らない

内閣府が平成30年度に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』によると、日本人の若者(具体的には13歳から29歳)が抱く日本人のイメージのトップ5は「礼儀正しい」(37.9%)、「真面目」(37.4%)、「勤勉」(31.4%)、「平和愛好的」(25.2%)、「寡黙・慎重」(25.1%)でした。このような日本人の自己イメージは、おそらく上の世代にも共有されているものと思いますが、いまだに若い世代にも根強く残っています。

そしてこうした自己イメージを一言で表すと「和」になります。日本人は「和」を愛し、「和」を保つために人と接する時には礼儀正しく慎重であれ、そして真面目で勤勉に尽くすべし、というように、日本人が共有する多くの自己イメージに通底する概念になっています。また言うまでもなく「和風」「和食」など「和」は日本を表す漢字であり、日本人はこの字におおむね良い印象を持っています。今年の元号発表の際に「令」の字についてはいろいろ物議がありましたが、「和」については好意的に受けとめた人が多かったように思います。

さて、「和」を重んじ、「和」が大好きなこの国のイメージからすると、この国の職場は、さぞかし平和的で心地良いのだろうと想像しても不思議ではありません。もちろん日本で日々働いている私たちは、日本の職場にも様々な問題があることを知っています。しかしそんな私たちでさえ、日本の職場は、まあ少なくとも他の多くの国々と比べればマシなのではないかと思っている人が多いのではないでしょうか。

■10年で職場の人間関係が大幅に悪化

ところが、ISSP(国際社会調査プログラム)の2015年調査によると、「自分の職場では、職場の同僚の関係は良い」と思っている人の割合において、日本は調査対象37カ国中、なんと最下位でした(図表1)。その割合は「非常に良い」「まあ良い」を合わせて69.9%。7割近くが「良い」と言っているならいいんじゃないか、という人もいるかもしれませんが、それは世界的に見れば最低レベルなのです。

実は、以前この割合はもう少し高いものでした。ISSPは働き方に関する調査を1997年と2005年にも行っていますが、両調査とも日本の割合は81.5%と、諸外国の中で目立って高かったわけではありませんが、最下位ではありませんでした。

なぜこのように、職場の人間関係が良いという人の割合が減ったのでしょうか。2005年から2015年という時期における日本の職場の変化といえば、新卒プロパー社員に女性が増え、さらに中途採用者や契約社員、派遣社員、パートタイマーなど、雇用契約上の地位や働き方が多種多様な人々の割合が上昇したことが挙げられます。つまりこのような多様性の増加が、職場の人間関係に影響を与えていると考えられます。

■多様性の時代に追いつかない日本の職場

もちろん、多様性の増加=悪ではありません。そもそも日本以上に職場の多様性が高い国はたくさんありますが、それらの国々の方が日本よりも職場で良い人間関係を築いているわけです。肝心なのは、従来の日本の職場におけるコミュニケーション方法が、多様性の増加という今の時代に必ずしも合っていないということです。

職場におけるコミュニケーションには、仕事に直接関わる連絡や会議の他に、仕事に直接関わらない井戸端会議的な情報交換があります。前者が仕事に不可欠なのは言うまでもありませんが、実は職場の人間関係を円滑にしたり、通常の個々の仕事の枠の中では得られなかった気づきを得たりする上で、後者のコミュニケーションもかなり重要な役割を果たします。

そして従来の日本の職場において、後者のコミュニケーションは、様々な部署の人々が行き交うタバコ部屋や、アフターファイブの酒の付き合い、すなわち「飲みにケーション」を通じて行われてきました。

■タバコ、お酒に代わるものが必要

ところが、今や多くのビルでは屋内禁煙ですし、喫煙率の高い男性の割合も、その男性の喫煙率も減っています。共働きが当たり前の若い世代は仕事が終わればすぐに保育園に子どもを迎えに行かなければなりません。それを無理に飲みに誘えば、パワハラで訴えられる時代です。そもそも、なかなか給料が上がらない中で飲み代にお金を使う気にならないし、部下の飲み代を出してあげられるほど余裕のある上司もめっきり減っています。図表2は酒類への1世帯当たり月平均支出額を世帯主の年齢層別に示したものです。2002年と2018年のデータを比較すると、若い世代ばかりでなく、50歳代という上の世代においても支出額が大きく減っていることがわかります。

タバコの付き合いも酒の付き合いもダメ。けれども、今後、職場の多様性はますます高まり、人間関係を円滑にするためのコミュニケーションの必要性は増すばかりですから、このまま放っておくわけにはいきません。

■スウェーデン式井戸端会議「フィーカ」とは

そこで私は令和時代の新しい「飲みにケーション」の方法として「フィーカ」を提案します。「フィーカ」とは、「コーヒー」のスウェーデン語「カッフェ」の前後を(昔の日本の芸能界の業界人みたいに)ひっくり返して出来た言葉で、単にコーヒーを指すのではなく、コーヒーを片手に人々が集まり、リラックスしながら語らうという意味までを含んでいます。また飲み物は必ずコーヒーでなくてはならないということもありません。感覚としては、日本語の「お茶する」に近いと思います。

「フィーカ」は家族や友達との間でも頻繁に行われますが、スウェーデンの「フィーカ」は、主に職場で行われ、まさに人間関係を円滑にするためのコミュニケーションのツールとして確立しているところに大きな特徴があります。日本では、職場でコーヒーを飲むとすれば自分の席で、仕事をしながら、というのが普通だと思いますが、スウェーデンではコーヒーを入れたら、すぐに自席に戻らずに、そこにあるテーブルに腰かけて、その場に居合わせた人たちと少し話すわけです。さすがにあまり長時間に渡って仕事と関係のない話をしていれば叱られるかもしれませんが、社員がリラックスしながら仕事と関係のない話をすることは、職場の環境を向上させ、結果的に仕事の生産性を高めることになる、という考え方が広く浸透しているのです。

日本でも、この「フィーカ」の習慣が広まれば、職場の雰囲気がもっと良くなる会社が増えると思うのですが……いかがでしょう?

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鈴木 賢志(すずき・けんじ)
明治大学国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。

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(明治大学国際日本学部教授・学部長 鈴木 賢志 写真=iStock.com)

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