デキる人がこぞって"趣味はアート"と言うワケ
プレジデントオンライン / 2019年9月5日 9時15分
※本稿は、石川康晴箸『学びなおす力 新時代を勝ち抜く「理論とアート」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■アートがクリエイティブ力を高める
ビジネスパーソンにとって、新規事業の立ち上げや、既存の枠組みを大胆に変える際に必要なのが「クリエイティブ力(創造力)」です。
では、クリエイティブ力を強化する方法はあるのでしょうか。私はそれが、「芸術(アート)」だと考えています。ビジネスパーソンこそ、アートに触れるべきです。
MBAで学ぶフレームワークというロジックでは太刀打ちできない事態に直面したとき、アートを通じて得られるクリエイティブ力や教養は、必ず助けになります。ロジックも必要ですが、クリエイティブ力も同じように大事なのです。
私は社会人になってからMBAで「学びなおし」をしましたが、できればビジネスで必要なロジックは、社会人になる前に学び終わっておく。そして社会人になってからは、たまにカンファレンスやビジネススクールに顔を出し、定期的にロジックをブラッシュアップして、残りの時間は創造力の鍛錬に費やす、というのが理想でしょう。
■日本人には一般教養が足りない
では、クリエイティブ力を磨くのに、どうしてアートが最適なのでしょうか。
一番の理由は、アートがビジネスパーソンの「学びなおし」に適している教養だからです。
海外でも仕事をするようになって痛感するのは、「日本のビジネスパーソンには一般教養が足りない」ということ。厳しいようですが、これが現実です。
ヨーロッパで、VIPと呼ばれるような人たちや大企業のCEOと会食をすると、必ずといっていいほど、歴史や哲学、芸術や文化の話になります。歴史の話をしながら会食することや、哲学の話だけで1時間以上立ち話をするのは当たり前。相手が中国人だと、『史記』『漢書』『三国志』、さらには『明史』など3000年の歴史にまで話が入り組んでくるため、会話の内容がよりディープになります。こうした会話についていけないと、「日本人は教養がない」と思われてしまいます。
そうはいっても、いきなり歴史や哲学について、自分の見解を述べるのは難しい。しかも、時間がないなかで一から学びなおしをするのは至難の業です。
そこで、まずは文化、とくに芸術の分野に強くなるのがいいのではないか──これが私の提案です。
アートは、英語やコンピュータのプログラムと同様に、世界の共通言語といっても過言ではありません。つまりアートを学ぶことは、世界で通用するツールを手に入れるのと同じことなのです。
■刺激的な出会いの宝庫である
いま、アパレル業界は斜陽産業で、閉鎖的な世界です。でも、アートに関わることで、新しいビジネスのアイデアが浮かんできたり、新たな可能性が開けてくる。私にとって、アートはビジネスを推し進める上での潤滑油、そして突破口になっています。
たとえば、アートを通じて、普通ならまず出会えないような人に会うことができます。
私は2016年から、生まれ故郷の岡山で、「岡山芸術交流(Okayama Art Summit)」という国際現代美術展に関わっています。2016年に第1回を開催し、2019が2回目となりますが、岡山市、岡山県、私が理事長を務める石川文化振興財団をはじめとした実行委員会が開催するこのイベントには、多くのアートファンやアート関係者が岡山まで足を運んでくれます。
じつは以前、イギリスの「テート」(Tate、4つの国立美術館の運営やコレクションの所蔵・管理などを行なう組織)のアートの有識者や支援者からなるグループから、岡山を訪問したいという連絡がありました。そのリストを見ると、大富豪や貴族の肩書をもつ人から、某グローバル企業の会長など、著名人の名前ばかり。
彼らとの会話はスケールが違います。驚きながらもその一方で、「自分はまだまだだな、もっと頑張ろう」と思いました。
■経営に役立つヒントに溢れている
アパレルECサイトZOZOTOWNを運営するZOZO代表取締役社長の前澤友作さんと一緒に直島(香川県香川郡)のアート巡りをしたこともあります。
アートをフックにしながらビジネスのネットワークが広がることは、これまでの経験でも多々ありました。日常的にアートに触れている人たちは、つねに新しいことを考えています。私の場合は経営者とアートコレクターを両方やっているから、なおさらそう思います。
競争相手が考えもしないことをつねに探していて、自分の発想や新しい概念を想像もつかないアプローチで組み合わせてコンテンツやサービスに変えていく。そのとき、アートはさまざまなヒントを与えてくれます。
ビジネスでは、経済学や経営学だけではなく、工学や心理学、哲学などとの連続的な組み合わせがイノベーションを生み出していきますが、じつはアートを巡る環境も同じようなメカニズムで動いています。アートを通してビジネスを見直してみると、これまでにない面白い見方ができるかもしれません。
さらに私の場合、ただアートに触れているだけで自然と目線が高くなり、「ビジネスマインド」が刺激されるのです。
■これからの時代に必須な「大局観」とは
アートをすすめるもう一つの理由は、経営やビジネスで意思決定をする局面において必要な「大局観」が養えることです。
大局観とは、複数の可能性を視野に入れながら物事を注意深く観察し、そこから取り出した事実に基づき、論理的かつ体系的に思考し、判断する力です。
どの事実を取り出すか、それをどう解釈するかで、物事の捉え方は変わります。大局観が備わってくると、物事を正否だけで結論付けるのではなく、考えの根拠となる事実に基づいて、その妥当性を検討できるようになる。もっと簡単に言えば、複数ある答えのなかから、最適解を導き出せるようになるということです。そのとき、目の前の選択肢のなかにはなかった、まったく新しい解を見出すこともあるかもしれません。
ではなぜ、そのような大局観が養えるのでしょうか。
それは、アートは何かを教えてくれるものではなく、主体的な学びを促すものだからです。
アートには、答えというものがありません。じつはそこがアートの面白いところで、作品を理解したいと思ったら、深く考えざるをえません。
アートに触れることで身につけられる観察力と思考力は、0から1を生み出すアントレプレナーシップを磨くだけではなく、職場の人間関係や組織のチームビルディング、意思決定などにも役立ちます。そしてこれは、先の読めないこれからの時代に必要な能力だと考えています。
■ハーバード生も芸術を学んでいる
たとえ売り上げ1兆円の企業の社長でも、アートにまったく関心がないと、海外では「教養のない人」と見られることが多いと耳にします。
アメリカのハーバード大学では、1年生のカリキュラムに「コンセプチュアル・アート」の授業があるそうです。コンセプチュアル・アートとは、作品に描かれる事象そのものよりも、その背景にある思想やメッセージを重視する芸術のこと。海外では、ビジネスパーソンに必須の教養の一つとして、アートが位置づけられていることがわかります。アートリテラシーを身につけた人は、「文化的感性のあるグローバル人材だ」と見なされるのです。
■美術作品ビジネスマンの共通言語だ
2017年5月、バスキアの作品をオークションで落札したスタートトゥデイ(現・ZOZO)社長の前澤友作さんが話題になりました。GMOインターネット代表取締役会長兼社長の熊谷正寿さんも、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長兼CEOの増田宗昭さんもアートコレクターです。ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正さんも作品をコレクションしています。
日本の経営者がアートを買うようになったのも、海外のCEOや起業家とのあいだで、アートが共通言語の一つになっているからです。
初対面でも一緒に作品を見るだけで、相手を身近に感じるというのもアートの魅力です。一緒に仕事をしてみたいと思う相手がいたら、美術館などに誘ってみるのもいいかもしれません。
また、経営者に限らず、ビジネスパーソンも、仕事や人間関係を円滑にするために、アートを活用してみるといいでしょう。たとえば、終業後にプロジェクトチームのメンバーと一緒に、遅くまで開いている話題の展覧会に足を運ぶ。その後、飲みながら作品について語り合うというのはいかがでしょうか。アートは組織の活性化、コミュニケーションの向上にも一役買うと思います。
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株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長
1970年、岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。95年、クロスカンパニー(現・ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music & ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円を超える。2019年3月に内閣府男女共同参画会議議員に就任。
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(株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長 石川 康晴)
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