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65歳で司法試験合格「丸暗記の勉強法はダメ」

プレジデントオンライン / 2019年9月16日 6時15分

吉村哲夫氏

加齢とともに記憶力は落ちるといわれている。だが脳の可能性は無限大だ。今回、「最高齢」で難関資格に合格した人たちに、その学び方を聞いた。第2回は「65歳で司法試験」の吉村哲夫さんだ――。(全4回)

■ノートは「アウトプットの練習」として使う

吉村哲夫さん(69歳)は、2014年に同年最高齢の65歳で司法試験に合格。現在は故郷である福岡市内の事務所で働く「新人弁護士」だ。

1974年に九州大学を卒業後、福岡市職員となり、東区長まで務めた。58歳のときに、吉村さんは2年後に迫った定年後の「第二の人生」を考え始める。余生ではなく、まったく新しいキャリアを歩みたい、一生働ける価値を身に付けたいと考えた吉村さんは弁護士を志し、働きながら勉強をスタート。退職後の11年に京都大学法科大学院(ロースクール)に合格。入学後は、量・質ともに想像以上の勉強量に追われながら、14年に司法試験を突破した。

吉村さんは、「丸暗記の勉強法では駄目。むしろ、記憶が邪魔をすることもある」という考えにたどり着いたという――。

■記憶力が衰えても、司法試験は受かる

忘れない勉強法があるなら、私が教えてほしいくらい(笑)。ただ、1つ言いたいことは、「記憶力」にどれだけ意味があるのかということです。

たしかに記憶力がいいほうが、資格の勉強に都合がよく見えるし、忘れない勉強法が魅力的なことも理解できます。でも本当に大事なのは、記憶力よりも総合的な理解力や判断力でしょう。そして人間の理解力や判断力は、20代、30代、40代と、どんどん高まっていくものだと思います。私は70近いですが、50代の頃よりもいろんな意味で理解力や判断力が身に付いていると実感しています。

若者に比べて記憶力が衰えていようが、年を重ねて理解力や判断力に優れた人間のほうが、むしろ司法試験のような難関資格の試験には強いともいえるのです。記憶力がよければ医者や弁護士になれるなら、「記憶力のテスト」だけをすればいいはず。でも、実際にはそうではない。試験を受けてみればわかりますが、かえって「記憶力がないほうがいい」くらいです。

というのは、答えを記憶して書き写しただけの答案では、司法試験ではほとんど点数を取れません。司法試験は、専門の法曹としての法的理解力、判断力を持っているかを測る試験ですから一定の知識を持っていることは当たり前で、ただ知識を問うような問題は出ないのです。

■判断力、理解力を自分で培っていく

司法試験では、「法的三段論法」にそって、そもそも事案の具体的な問題はなにか、この問題はどう解決すべきかとその法的な根拠を示して、それを事案にあてはめ、結論を出す。その考え方がどれだけできているかが問われます。判例や専門用語の一言一句を覚えておく必要はない。判断力、理解力を自分で培っていく、養成していくこと。目の前にある問題に、どこからどんな根拠を引っ張り出せば結論を導けるのかという訓練をしておくことだと思います。

社会で実際に仕事を何年もしていると、問題が起きたときその問題の所在がどこにあるのか、どう解決したらいいのか、だんだんわかってきますよね。つまり、判断力、推認力、分析力、応用力……総合的な理解力が求められる。その意味で司法試験は社会経験がある人に向いていると思います。そもそも、弁護士にとって最も必要なのは、この総合的な理解力ですから。

記憶というとどうインプットするか、という話になりがちです。しかし、インプットしただけでは価値はゼロ。アウトプットをまず始点において、そのためにどんなインプットが必要なのかを考えなければいけません。

私のノートをほかの人が見ると、情報を書き出していて一見きれいにまとめているので、インプットのために作っていると思われがちなのですが、違います。ノートを作るのはアウトプットの練習のためです。試験前にノートを丁寧に読み返すことはしません。期末試験や司法試験の過去問を読んで実際に答案を書きます。時間がないときは、答案の構成だけを書き、文章は口に出してアウトプットします。そうしたアウトプットの練習をするとき、どうしても重要な定義や判例がアウトプットできない場合に戻る場所が、まとめたノートです。ここはきちんと記憶してないと答案が書けないと思うと、ノートに戻るわけです。

かく言う私自身も、最初は丸暗記の勉強をしていました。でもそれが多少なりとも通用したのはロースクールに入学するまで。ロースクールには上位の成績で入ったはずなのに、講義で教授に指名されると答えられないし、内容についていけない。周囲の若い学生に後れをとっていると焦りました。自分には、腰痛や緑内障の持病もある……。涙ながらに、何度も福岡に帰ろうかと本気で思いました。

■学生たちとの情報共有、議論が鍵

ある日、若い学生たちについていけない理由はなんだろうと、実際にある女子学生に話してみた。すると、みんな講義の情報や課題について、SNSで情報共有していたんです。そこで、そういう効率的な勉強ができる環境に飛び込んでいかなければいけないと気づきました。60過ぎてスマホを初めて手にし、ツイッターやラインを始めて、若者と同じ目線で情報交換に勤しみました。

写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

そして、学生同士でグループをつくり、講義の復習、各人が作った答案の回し読み批評会などを毎日のようにやっていました。議論をすることが何よりもの勉強法でした。まさにアウトプットの訓練です。

40歳も若い学生たちと仲良くなる秘訣はなにかと聞かれることがあります。一番大切なことは、同級生と同じ23歳の目線になることです。授業でも発言できるように予習を頑張り、授業で手を挙げて積極的に意見をいう、休み時間に隣の学生と議論をする、そうした態度で真剣に取り組んでいると、いつしか「変な爺さん」が「この爺さん結構やるじゃん。勉強会に誘おうか」に変わっていくのです。

これから資格試験を目指す方にお伝えしたいことは、スタートとゴールを取り違えないことです。資格をとることがゴールつまり目標ではなく、資格をとってどうするかが目標のはずです。私は、同期の弁護士の3倍勉強することを目標にしています。何せ人生残された勉強の時間が若い人ほど多くありません。土日も連休も休まず仕事か勉強をしています。交通事故、刑事、離婚、相続……勉強することは山のようにあります。寿命との勝負ですが、いつか「人の心に寄り添ってくれるいい町弁」といわれるように頑張りたいと思っています。

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吉村 哲夫(よしむら・てつお)
弁護士
1949年、福岡県生まれ。74年九州大学法学部卒業後、福岡市役所に入庁。市民局長、東区長、監査事務局長などを経て2010年定年退職。11年、京都大学法科大学院入学。14年、司法試験合格。現在、安部・有地法律事務所に勤務。

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(弁護士 吉村 哲夫 構成=伊藤達也 撮影=藤原武史)

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