"ご遺体搬送はどちらへ?"即答できぬ人の末路
プレジデントオンライン / 2019年9月14日 11時15分
■親が、死んだときの書類・手続きマニュアル
身内が亡くなると、数分、数時間単位で怒濤の手続きラッシュに追われることになる。どうすれば、いざというとき、あわてずに済むのか。相続と終活に詳しい行政書士の明石久美氏はこう解説する。
「亡くなった後の手続きや相続の負担を軽減するために重要なのは生前対策です。元気なうちから家族で葬儀や墓、財産の情報などについて話し合っておく。ノートなどに意思や情報を書き残し、家族に保管場所を伝えておくだけでもずいぶん違います」
法的効力はないが、親の意思や情報を伝える、知るという点では大いに役立つ。ペットや遺品の行き先も残したいところだ。
「もっとも、書き残すのは自分が必要だと思ったことだけで構いません。例えば通帳残高や保管場所、暗証番号などは残すとむしろ防犯上の問題があったり、トラブルの火種になったりすることも考えられます。『何のためにその情報を残すのか』をよく検討し、定期的に見直すことが大切です」
いざというとき、どのような書類や手続きが必要になるのかを把握すれば、残すべき情報もわかる。手続きについて詳しく見ていこう。
▼葬儀・法要編
葬儀社事前見積もりのチェックポイント
■悲しみにくれる暇もない葬儀社選び
臨終を迎えたその瞬間から、家族はさまざまな手続きに追われることになる。あまりのあわただしさに、悲しむ時間もない。なぜ、そうなってしまうのか。明石氏はこう解説する。
「日本では、病院で亡くなる方が全体のおよそ8割を占めています。病院で亡くなると霊安室に移されますが、すみやかに遺体搬送を手配するよう促されます。中には『2時間以内に出てください』などと急かされることも」
遺体の搬送は葬儀社にお願いすることになる。決まった葬儀社がいなければ、病院から葬儀社を紹介してもらうこともできるし、葬儀社に搬送のみを依頼することも可能だ。ただ「“とりあえず”で選んだ葬儀社に葬儀をお願いしてしまうケースが大半」と明石氏は指摘する。
葬儀社の到着を待つ間も、死亡診断書の受け取りや医療費の精算、遺体の安置先の相談など雑務が待ち受けている。そして、遺体を自宅あるいは葬祭会館など、自宅以外の場所に安置した後からは、葬儀社と見積もり作成など具体的な相談が始まる。
「葬儀社が決まらないことには火葬場や斎場の予約が取れず、葬儀の日時も決まりません。特に年末年始やお盆などはただでさえ火葬場が混むので、もたもたしていると予約が取れないことも珍しくありません。スケジュールが後ろに倒れるほど、安置料やドライアイス代などがかさみ、費用も増えていきます」
亡くなった後に、葬儀社を選ぼうとするとどうしても、なりゆき任せにならざるをえない。納得のいく、後悔しない葬儀社を選ぶには、やはり事前の準備が欠かせないという。
「親が自分自身で決めてくれるなら従えばいいし、決める気配がないなら、子どもが水面下で動いても構いません。まずは地域の葬儀社を2社ほど選び、直接足を運んで見積もりを取ってみましょう」
見積もりの作成時には亡くなったときと同様、菩提寺の有無や宗派、会葬者の人数などを質問される。現時点でわかっていること、これから親兄弟に確認しなくてはいけないことを整理するうえでも役に立つ。
「わからないことがあったら、どんどん質問しましょう。その応対も“信頼できる葬儀社かどうか”の判断材料になります」
これぞという葬儀社が見つかったら、生前予約もしておいたほうがいいのだろうか。
「そこまではしなくても構いません。葬儀社にもよりますが、一定期間は見積もりのデータが残っているので、必要になったときに『以前、相談にうかがいました』と伝えれば、話が早く済む。何より、1度聞かれた内容に答えていくだけなのであわてずに済みます」
・担当者が遺族に寄り添った応対をしてくれるか
・遺族の意向に沿った提案をしてくれるか
・葬儀費用の明細があり、相場より高くないか
■葬儀社決定のハードルをいかに乗り越えるかが運命の分かれ道
葬儀社さえ決まれば、葬儀にまつわるこまごまとした手続きはサポートしてもらえる。葬儀社決定のハードルをいかに乗り越えるかが運命の分かれ道となりそうだ。
最後に心配な葬儀費用だが、故人の口座は金融機関が死亡を確認した時点で凍結されてしまうため、あらかじめ費用を準備をしておくのが賢明だ。
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(1)あらかじめ葬儀社から見積もりを取っておく
亡くなったあとに葬儀社を選ぶ場合、比較検討する時間的余裕はほぼない。納得のいく葬儀社を選ぶには事前見積もりが必須。親の地元(自分の葬儀であれば、自分の居住エリア)にある葬儀社を2社ほど選び、見積もりを依頼する。電話やインターネットではなく、面談で葬儀社の経験や担当者の雰囲気、葬儀への価値観を確認しておこう。見積書の作成は葬儀の全体像や費用の把握にも役立つ。
(2)親に菩提寺、宗派を確認しておく
葬儀社から最初に聞かれるのが「菩提寺の有無」。菩提寺がある場合はすぐ連絡し、お寺側のスケジュールを確認したうえで、葬儀の日取りを決める。「菩提寺の名前や連絡先がわからない」「宗派もわからない」となると、途端に身動きがとれなくなる。葬儀の日程が決まらないと、訃報通知にも支障をきたすことに。親が元気なうちに、菩提寺(キリスト教や神道の場合は付き合いのある教会、神社など)の連絡先の確認を。
(3)訃報の通知先を生前に確認しておく
「なぜ教えてくれなかったのか」と、のちのちの人間関係にしこりを残すリスクをはらんでいるのが訃報の通知範囲。一般葬では、年賀状をやりとりしている範囲といわれる。家族葬の場合、「どこまでを家族に含めるのか」で悩む事例があとを絶たない。いくら親が「家族だけでこぢんまり」と言っても、うのみにするのは禁物。葬儀に誰を呼びたいのか、連絡先一覧をあらかじめ残しておいてもらうよう、親にアプローチしておきたい。
(4)死亡広告を掲載したときに起こることを想定
葬儀の日程や葬儀を終えた告知を新聞の社会面に掲載する「死亡広告」。葬儀社に代行手続きを依頼すれば、掲載可能(有料)だ。大勢に訃報告知をしたい場合に重宝される。地域によっては電話などではなく、地元紙に死亡広告を掲載するのが慣習になっていることも。ただし、死亡広告は掲載した時点で故人の預貯金口座が凍結される点に留意したい。金融機関は日々、死亡広告に目を光らせているのである。
(5)「お別れの会」の開催は慎重に
葬儀は近親者のみの「家族葬」で行い、葬儀後に「お別れの会」を開催するケースも増えている。会費の相場は1万~2万円と香典よりも割高。仮に遺族が費用を全額負担し、会費を徴収しないとしても、拘束時間が長引くため、必ずしも喜ばれない。むしろ、従来の通夜・葬儀のほうが負担を最小限にできる可能性も。友人が有志でお金を出し合い開催するような場合はさておき、遺族主催の場合は慎重に検討したい。
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行政書士
明石シニアコンサルティング代表。相続や終活のコンサルタントとして活躍。全国の企業や団体に向け年間120件以上のセミナーを行っている。
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■▼【日付】別 大切な人が亡くなった後のフローチャート
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ライター
1973年生まれ。東北大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学。編集プロダクション「馬場企画」を共同経営。マネー系の話題を中心に週刊誌などで活躍中。
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(ライター 島影 真奈美 撮影=研壁秀俊)
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