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三ツ矢サイダーが135年たっても愛されるワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月29日 9時15分

販売中の「三ツ矢」ブランドの例 - 提供=アサヒグループホールディングス

販売開始から135年がたってもなお年間約4000万箱を売る「三ツ矢サイダー」(アサヒ飲料)。低迷期こそあれ、長い間炭酸飲料の主力であり続ける強さは何か。経済ジャーナリストの高井尚之氏が、そのブランド戦略について聞いた——。

■レモネード、「特産」などシリーズを横展開

スーパーやコンビニなどの小売り店頭で、「三ツ矢サイダー」や「三ツ矢」ブランド(アサヒ飲料)をよく見かける。最近は定番以外に、さまざまな派生商品もある。

例えば4月2日には「三ツ矢レモネード」を発売。当初の年間販売目標「100万箱」の半分を、わずか3週間で達成した。7月16日には「三ツ矢サイダー NIPPON」という商品も発売。こちらは、前回の東京五輪開催年の1964年に販売していた「全糖三ツ矢シャンペンサイダー」の味を現代風に再現したという。この2品も後述する「特産三ツ矢」シリーズも何度か買って飲んだ。幅広いフレーバーで訴求する、攻めの姿勢を感じる。

最新データでは梅雨明けが遅れ、涼しい日が続いた7月は絶不調だったが、梅雨明け後の猛暑にも恵まれ、8月の販売数はその遅れを取り戻す勢いだ。

三ツ矢サイダーの歴史は長い。「三ツ矢印平野シャンペンサイダー」が発売されたのは1907(明治40)年だが、前身の「平野水」(炭酸水)が世に出たのは1884(明治17)年で、すでに135年になる。いわば「100年ブランド」だ。

■100年を超えても一線で活躍する“主力”

かつて筆者は「100年ブランド」を調べたことがある。定義した条件は「全国の小売店で買うことができ、生活に密着した商品」——。地方の旅館には何百年も続く老舗があるが、日常生活で利用する機会は少ない。また地方で歴史の長い銘酒・薬用酒とも区別してみた。

例えば、次の商品がそれに当たるのだ。

・「三ツ矢サイダー」(アサヒ飲料) 1884年
・「花王石鹸」(花王) 1890年
・「蚊取り線香」(金鳥。社名は大日本除虫菊) 1890年
・「森永ミルクキャラメル」(森永製菓) 1899年
・「亀の子束子」(亀の子束子西尾商店) 1907年

一時代を築き、今でもなじみがある商品だ。だが、各社の企業規模の拡大もあり、中には企業の屋台骨を支える商品とはいえないものもある。一方、三ツ矢ブランドは2018年の販売数量は約4000万箱、炭酸ブランドではコカ・コーラに次ぐ2位という主力商品だ。

三ツ矢ブランド全体の約7割を占める「三ツ矢サイダー」は、戦後の高度成長期以降も多少の浮き沈みはあったが、人気は継続した。なぜ継続できたのか。ブランド担当者に聞いた。

■水を磨き上げ、原料は「社外秘」

「三ツ矢ブランドは、まず水にこだわります。ろ過を重ねた安心・安全な磨かれた水を使い、保存料や着色料も使用しません。中身は定番の三ツ矢サイダーに代表されるように透明。透明な液体は、着色料などでごまかせないのです。消費者調査をしても、品質や機能に対して高い評価をいただいています」

三ツ矢を含む「炭酸飲料」を担当する水上典彦氏(アサヒ飲料・マーケティング本部マーケティング一部・炭酸グループグループリーダー)はこう話し、同ブランドのこだわりをこう続ける。

水上典彦・アサヒ飲料・マーケティング本部マーケティング一部 炭酸グループグループリーダー

「現在、訴求している価値は大きく分けて3つで、(1)日本生まれ、(2)安心・安全、(3)爽快感です。日本生まれは三ツ矢サイダー自体もそうですが、例えば2008年からスタートした『特産三ツ矢』(2016年まで『ぜいたく三ツ矢』)では、国内47都道府県のおいしい果物を取り入れています」

「特産三ツ矢」で、筆者と担当編集者がともに飲用経験があったのが、「特産三ツ矢 青森県産王林」だ。「アップルタイザー(Appletiser、りんご果汁100%のスパークリングジュース)のようでおいしかった」と男性編集者は話していた。

「安心・安全でいえば、水はろ過を重ねて不純物を徹底して取り除きます」(水上氏)と言い、「爽快感は、例えば、香りと炭酸のバランスを考えながら、甘さとガス圧の強さを調整します」と話す。フレーバーの原料は主に果実由来だが社外秘のようだ。

■圧倒的“無糖”ブームの中、甘さ控えめに挑戦

清涼飲料市場は「5兆2000億円弱」(富士経済調査のデータ数値)といわれる巨大市場だが、茶系、果実系、野菜系、コーヒー系、炭酸系などカテゴリーも幅広く、競合も多い。

カテゴリーの浮き沈みもある。戦後の高度成長期以降は、例えば「コーラ」「缶コーヒー」「ウーロン茶」「紅茶」「緑茶」などが伸びたり、落ち込んだりした。最近は茶系飲料(同調査で1兆円超)の中でも「ウーロン茶」や「紅茶」が落ち込み、「緑茶」(日本茶)が好調、「麦茶」も手堅く消費者ニーズをつかんでいる。

「特に1980年代後半から健康意識が高まり、『炭酸飲料は身体によくない』という風潮も出ました。三ツ矢ブランドが低迷したのは、もう少し後で2001年から2003年ごろ。ブランドの定義もあいまいとなっており、価値の再整理を行い、訴求を見直したのです」(水上氏)

立場上、同じ炭酸系の「ウィルキンソン」(無糖の炭酸水)も見る水上氏は、「時代のトレンドは圧倒的に無糖で、ウィルキンソンの販売数量は10年で約13倍になりました。有糖の三ツ矢は、甘さ控えめなどの“中間領域”にもチャレンジしています」と話す。

中間領域の成果が、冒頭で紹介した「三ツ矢レモネード」だ。「30代と40代の女性をターゲットに、レモン特有の爽やかな酸味と、ほのかな苦みを楽しめる飲料」として発売した。

ちなみに「健康に気をつかう」消費者意識は、かなり昔からあった。カゴメは「お酒を飲んだ翌朝は、カゴメトマトジュース」というCMで訴求していたこともある。「自分への罪悪感」で機能性商品を買うのは、近年の「トクホ(特定保健用食品)飲料」にも通じる。時代とともに、より意識が深まったといえそうだ。

■「日本産もカッコいい」が生んだSNSの選手権

再び「100年ブランド」の視点に戻り、なぜ消費者に支持され続けたのかを聞いてみた。

「例えば世界で100年以上続く老舗企業の8割が日本企業といわれるように、日本人は『いいものを長く愛する』気質がある。三ツ矢サイダーが支持されてきたことに通じます。一方、『ブランドは顧客と一緒に年をとる』とも言われます。三ツ矢ブランドも同様で、商品を磨き続けながら、飽きられない工夫を続けるしか道はありません」(水上氏)

ブランドの基本である「誠実」にこだわる一方で、毎年「戦略的に消費者ターゲットをずらす」こともする。また単に年齢区分だけでなく、ニーズベースで7つのクラスター(母集団)を設け、優先順位をつけつつ訴求するそうだ。

最近の若者で、水上氏が感じるのが「日本産もカッコいいという意識」だ。「40代以上の世代にあった欧米への憧れ」が若者には薄いと感じているという。

「例えば、『三ツ矢サイダー 無駄にカッコよく撮る選手権』というのがSNS上で行われ、盛り上がっていました。人気インスタグラマーの福山あさき(あさ姉)さん(1995年生まれ)が始めた活動のようで、太陽の光に三ツ矢サイダーをかざして撮ったりしてくれました。メーカー側が関与したのではなく、こうした動きは以前にはなかったものです」

首位のコカ・コーラ(米国発)を追う炭酸ブランドとして、可能性も感じられる話だ。

■難敵の“長雨”に加え、高齢者のニーズ調査も課題

一方で課題もある。実は、7月の三ツ矢の販売数量は対前年比63%と記録的な低さだった。同社の誇る主要ブランドのうち「カルピス」(乳性飲料)や「十六茶」(茶系飲料)も同水準。主な理由は梅雨明けが遅れ、天候不順が続いたこと。例えば大消費地の東京都では、都心で7月16日まで「20日連続・日照時間3時間未満」を記録したほどだった。

そんな状況でも、炭酸水のウィルキンソンは、7月も対前年比104%を記録し、三ツ矢と明暗を分けた。ブランドの勢いの違いだろうか。

年代別では、高齢者の取り込みも課題だ。「現在の年配者は10年前の同世代とは違う」「シニア向けなどの訴求は好まない」ことは同社も承知するが、「70代の消費者調査は不十分」なことは認めている。愛用者を広げるカギは「年齢訴求よりも興味・関心訴求」だろう。

“国民的炭酸飲料”ゆえ、長年のユーザーを裏切らないよう、基本を押さえつつ、「時代に遅れない」モノづくりとコトづくりを深めるのがまっとうな手段。社内に「無糖」と「有糖」のメガブランドがあり、ほとんど「カニバリ(共食い)」しないのも強みだ。

まずは7月の不振を巻き返し、梅雨明け後の「猛暑の波」に乗ることができたのか。今後も取り組みを見続けたい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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