早慶とMARCHの難易度が年々上がっているワケ
プレジデントオンライン / 2019年9月4日 11時15分
※本稿は、木村誠『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■1960年代の大学進学率は「20%台」に過ぎなかった
戦後、大学入試のシステムは幾度か変わっている。
終戦直後、旧帝大系や官立大学、高等師範や医科大学が、そのほかの学部系と統合するなどし、日本各地に国立総合大学が誕生。私立でも総合大学が次々と誕生した。
なお終戦後しばらく、おおよそ旧帝大系からなる一期校と、地方国立大学からなる二期校とで入試が分かれていたが、一期校と二期校で関係が固定されていたわけではない。たとえば当初二期校で、2年後に一期校に移った広島大学のようなケースもある。
1960年代に入っても、短大を含めた大学進学率は20%台に過ぎなかった。そのため、各大学は高学力層を概ね想定し、各校がそれぞれ入試問題を作っていた。大学生という存在がまだエリートとされた時代と言える。
ところが1970年代、高度成長期を迎えて各家庭の経済力が上がると、短大などに進学する女子が増え、大学・短大進学率は急激に上昇。一方、大学側は他学部・他大学との類似を避けた入試問題を毎年作らねばならないことから、結果として難問や奇問が増え、高校学習からの逸脱を指摘する声が上がるようになった。またその採点に手間や時間がかかり、大学側の負担も大きくなった。
■入試3教科化が生んだ「私大総難化」
そこで1979年、全国立大学を対象に5教科のマークシート式を用いた「共通一次試験」が導入されることになる。これにより、その得点による「合否ライン」が生まれ、大学の序列化が促された。また国立大学の一期・二期制度も同時に消滅した。そして都市部を中心に大学進学率はさらに伸び、受験競争の過熱化が叫ばれるようになる。当時は大学に進学する前に、1年くらい浪人するのは当たり前。「人(1)並み(浪)」とも揶揄されていた。
一方、文系・理系ともに、多くの私大で入試科目が3教科に絞られるようになると、少ない科目を集中的に勉強した私大合格狙いの受験生に、5教科を勉強した国立大受験生が「私大入試では勝てない」という私大総難化の状況が生まれた。当時「国易私難」とも呼ばれたが、実際、国立大学に合格した受験生でも、私大には不合格という事例が続出することになる。
■進学校が「地方国公立大学」を重視するように
ところがこれは平成に入って様変わりする。その契機が1990年(平成2年)に行われた「大学入試センター試験」のスタートだ。この入試改革で、多くの私大もセンター試験を使えるようになり、入試形式が多様化することになっていく。
さらに少子化で子どもの数が減り、核家族が一般的となったことで、受験生本人や保護者の地元志向が強まり、大都市志向も弱まっていった。また低成長時代に入り、学費の安い国公立への進学に注目が集まるようになった。国立大学の入試方式が分離分割方式になり、同じ国立大学学部を複数回受験できるようになったことも、国立大志向に拍車をかけた。
なお私は、この頃から地方進学校の進路指導が「地元国公立大学重視」に変わったこともかなり影響したと考えている。私立大学の広報担当者から聞いた話だが、昭和から平成初めまでは、地方高校の進路指導室の書棚の真ん中に、早慶を中心とした有名私大の赤本が置いてあったものだが、それらは今や片隅に追いやられ、代わりに国立大学などの赤本が“ドン”と鎮座しているという。背景として各自治体の教育委員会、保護者、中学関係者が各高校の地元国公立大学合格者数を重視するようになった、という事情もあるのだろう。
■首都圏の人気私大が難しくなっている
平成最後に行われた2019年度入試を振り返ってみると、首都圏私大入試の難化が話題を集めた。これは文部科学省が2018年に続き、若者が東京へ一極集中するのを防ぐべく、東京23区の私大の定員抑制を打ち出し、さらに全国の大学を対象に入学定員厳格化を求めた結果である。
では各大学の入試状況は具体的にどうなったか。
2019年度を見てみれば、首都圏に位置する早慶上理(上智・東京理科)、MARCH(明治・青山・立教・中央・法政)といった上位人気私大の多くが合格者数を絞り、すでに難化傾向にあった2018年度より、さらに難しくなったとされる。
一方、そこからあぶれた受験生は、同じく首都圏に位置する人気私大である成成明国武(成城・成蹊・明治学院・国学院・武蔵)、日東駒専(日本・東洋・駒沢・専修)などに流れ込んだ。不祥事が続いていた日本大学などを除き、これらの大学の多くで受験者が増加、合格者は減少、という状況となっている。
つまり人気私大の多くが狭き門になったことで、実質競争率が上がり、入学難易度アップに結びついたわけだ。ただし、実際には併願率が高まると入学率が低くなるため、合格者を後から増やしたりする大学もあるなど、その傾向を分析するのはなかなか難しくもあるが。
■指定校推薦に応募する生徒が増えた
ともあれ、こうした混乱した状況下で、今までなら模試の判定で合格圏内にいたような生徒が想定外の不合格となり、高校の進路指導の先生が慌てる、といった事態も多く見られたようだ。
また入試の傾向として、合格を確実にするべく、指定校推薦(大学が一定の高校を指定し、条件に合った生徒の入学を決める推薦制度)に応募する生徒が増えている、という情報もある。指定校推薦の対象は少人数だし、比較的、求められる成績水準が厳しい。その代わり、要件を満たしたうえで応募すれば、ほぼ合格するのがその特徴である。
これまで指定校推薦に応募する受験生というのは、一発勝負の試験が苦手な、しかし普段の成績がよい女子生徒などが多いという印象が強かった。しかし2018年くらいからは男女問わず応募者が増え、今まで志願者がほとんどいなかったような大学でも、校内枠の埋まる高校が目立ってきたようだ。
指定校推薦で受かった生徒は、そのほとんどが合格した大学へ入学する。そのため指定校推薦の人気が高まり、入学者が増えると、大学側は入学定員厳格化のために一般入試の合格者を削り、より定員を絞り込まざるをえなくなる。
定員抑制と入学定員厳格化が文部科学省の思惑どおりに、大都市の大学の志望者を減らし、地方の高校生が地元に留まる結果に至ったかどうかは検証が必要だろう。
■大学に提出する資料の「電子化」が進む
一方で、新しい大学入試制度においてカギとなりそうな存在も出てきた。それが「eポートフォリオ」だ。
「eポートフォリオ」とは、普段の高校生活における学習情報や部活動・海外活動の記録をデジタル化したものである。現在、これを入試の判断資料として活用しようとする動きが加速している。今は生徒がそれらの情報を自分で入力して記録する「eポートフォリオ」だが、AIの進展でさらに使い勝手がよくなると見込まれている。すでに大学教育の場で活用するケースも増えている。
入試での活用を前提に、研究が続けられていたeポートフォリオの一つ、「JEP(JAPAN e-Portfolio)」も先日完成した。リーダー役を担う関西学院大学をはじめとして、群馬大学、大阪教育大学、同志社大学などの11大学が入試で利用することを2018年9月の時点ですでに公言している。特に、文部科学省が進めようとしている調査書の電子化にJEPなどが活用されるようになれば、大学への提出資料として「eポートフォリオ」は急速に普及するであろう。
■総合的・多面的入試と「eポートフォリオ」は相性がいい
また現在、国公私を問わず、インターネットを用いた出願が広がっている。インターネットだけに、「eポートフォリオ」とは当然ながら相性がよく、これが入試に取り入れられれば、文部科学省が志向する総合的・多面的入試の展開にとって効用が大きいうえ、入試に伴う業務の簡易化という効果も見込まれる。
そもそも55万人にもなる大学受験生の思考力・判断力・表現力を、試験で判定するのは大変だ。まして学力を支える要素とされる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を短期間に測定することなど、どこまでできるだろうか。そうした意味で、主体性を伴う活動記録が記された「eポートフォリオ」が、今後合否判定の判断材料になる可能性は大いにあるし、もちろん面接での質疑の材料としては最適なのだろう。
こうして整理すると、2020年入試改革は、大学のあり方そのものにおいて、さまざまな意味でターニングポイントとなっていることが分かる。これまでに繰り返された入試改革に伴って起こった変化以上に、今回の改革を経て、大学地図がさらに変わることは間違いなさそうだ。
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教育ジャーナリスト
1944年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部新聞学科卒業後、学習研究社に入社。『高校コース』編集部などを経て『大学進学ジャーナル』編集長を務めた。現在も『学研進学情報』などで活躍。
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(教育ジャーナリスト 木村 誠)
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