なぜ妻は話を聞かない夫をそこまで許さないか
プレジデントオンライン / 2019年9月11日 6時15分
■結婚年数とともに「やさしさ」が低下
家族社会学では、幸福度を測る基準のひとつに「結婚満足度(配偶者満足度)」があります。前回お話した「親ペナルティ」の問題(「子どもを持つと幸福度が下がる日本社会の闇」)にもつながってくるのですが、結婚年数とともに結婚満足度はどんどん下がっていくという傾向があります(図表1)。
※データ:「全国家族調査パネルスタディ(NFRJ-08Panel)」のデータよリ筆者推計。詳細は近刊の筒井淳也「年齢を重ねると夫婦は満足を深めるのか」<西野理子編『夫・妻との関係はどう変わっていくのか:パネルデータからみた日本の夫婦関係』(ミネルヴァ書房)>を参照。
そして、お金の面よりも、メンタルのサポートのほうが、結婚満足度に大きく影響すると考えられています。女性からすると、経済的な条件はある程度クリアして結婚している人が多いわけなので、その上でメンタル面のサポートを夫がしてくれるかどうかが重要ですね。そして、女性側の不満が増えると、男性側の満足度も下がってしまいます。
■妻の満足度のほうが低い
では、メンタルサポートにはどのようなものがあるか、詳しく見ていきましょう。図表2の数値は、配偶者が「悩みを聞いてくれる」「評価してくれる・褒められる」「適切なアドバイスをくれる」という三つの行動の累積をグラフ化したものです。それぞれ0〜3点ずつで、9点が満点となっています。男女ともに、結婚年数とともに右肩下がりになっていることがわかります。
一般的に、結婚満足度は女性のほうが低く出ます。理由は、男性は「悩みを聞く」「褒める」などの行動を女性に与えられていないから。例えば女性が「ちょっと大変なの、聞いて」と言ったら、男性はすぐに「どうして? 原因は?」と尋ねて問題解決をしようとしてしまう。女性からすると、話を聞いてくれたらそれでいいのかもしれません。しかし男性は、そういったコミュニケーションが苦手なのです。これが数値に表れている可能性があります。
■子どもができると満足度は急降下
一方男性の結婚満足度が下がっていく理由としては「自分好みの評価を与えてもらえない」というのがありそうです。例えば、子どもができたら女性はそちらに意識がいくでしょうし、家事や育児はできて当たり前だという評価になっていきます。
実際に、子どもがいない夫婦の数値は非常に高くキープできています。しかし、子どもができた瞬間に突然下がるのです。
実は、結婚満足度が結婚経過年数とともに低下していくのは、世界共通です。調査を実施した国では、のちに上がる国はありませんでした。昔は、子どもが大きくなると再び上がってくるという説もありましたが、厳密に分析した結果、そうではないことが分かりました。
■男性の結婚満足度が高い理由
結婚満足度は男性のほうが高くなる傾向にあります。理由は、家事もメンタルサポートもしてもらえるからです。女性は、男性に対してそういった期待はしていないようです。
この男女の差を「サポートギャップ仮説」と言います。メンタルサポートを与えるのは基本的に女性。男性は、結婚すればサポートしてくれる配偶者を得ます。他方で女性は、これまでストレスを減らしてくれた同性の友達との関係をある程度失ってしまいます。夫はその代わりになりません。だから、結婚すると幸せになる度合いが男性のほうが少し高くなります。
家事は愛情表現の一つの手段ですが、ここにも男女のギャップがあります。男性は結婚していないときもそれほど熱心に家事をしませんが、結婚するとこの傾向が加速します。独身一人暮らしの男性の57%が、夕食の用意を週に数回~毎日行っているというデータがあります(筒井淳也『結婚と家族のこれから』p116)。しかし、妻がいる男性の場合この数値が減り、母親と一緒に住んでいる男性の家事の程度とほぼ同等になります。ですから、やはり日本の男性にとって妻というのは、お母さんの代わりであることが多いのかもしれません。
■結婚すると負担が増える女性
一方で女性の場合、独身の一人暮らしよりも、結婚している人のほうが、夕食の用意と掃除をしている割合が高くなります。つまり、「結婚して家事が分担できるようになって負担が減った」ということにはならず、むしろ家事で忙しくなっているのです。これでは満足度が低くても無理はありません。
この状況を改善していくためには、家事を頑張りすぎないことも大事でしょう。働いている女性ならなおさらです。「ワーク=仕事、ライフ=家事・育児」という考えを改め、「ワーク=仕事・家事・育児、ライフ=自由な時間」と捉え直すことが大切です(「“日本式共稼ぎ”はなぜこれほど疲弊するか」参照)。
注目したいのは、結婚満足度が下がらない人たちです。彼らの特徴は、配偶者によるメンタルサポートが大きいことです。配偶者が悩みをきちんと聞いてくれる、褒めてくれる、などの値がキープできていれば、全体の結婚満足度もそんなには下がりません。このように互いに幸福度が下がらない工夫や努力のやりようはあります。何げない会話でもいいですし、お互いを尊重して過ごすようにしたいところです。
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立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。
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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=梶塚 美帆 写真=iStock.com)
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