生きるのに疲れたら「プールサイドでゴロゴロ」
プレジデントオンライン / 2019年10月6日 17時15分
■生きる気力を失ったらプールサイドでゴロゴロする
ワークライフバランスと言われて久しいが、なかなか休みを取れないという人も多いかもしれない。
テクノロジーが進むと、余計な仕事がなくなるという側面もあるけれども、一方で仕事が増えることもある。メールの返事をしたり、情報共有アプリで常にやりとりをしたり、仕事が「オン」のときの忙しさの密度は以前よりも強くなっている側面もある。
そんな中、やはり、時々思い切って「オフ」の時間を取ることは脳の働きから見ても大切である。まとまった休みを取って、仕事から離れることで初めて育まれる脳内プロセスがあるのだ。
休日にどこかに出かけて、観光をしたり、美味しい食事を楽しんだり、いろいろと「物見遊山」をするのもいい。しかし、脳の働きという視点からおすすめなのは、「バカンス」である。
海辺のような景色のよいところで、基本的に何もせず、寝転がって涼んだり、本を読んだりしている。そして、気づくとウトウトと眠っている。カクテルを飲んで、またまどろむ。
そんな「何もしない休暇」は、なかなか社会の習慣としては定着しないけれども、思い切ってやってみると大きな効用があるものだ。
特に、普段の仕事で少し疲れ気味だったり、目の前のことに追われている人にとっては、「本来の自分」に戻っていく効果がある。仕事をすること、生きることへのモチベーションを力強く回復することができるのである。
脳には、「隙間」が必要である。目の前の「オン」の情報処理でいっぱいになってしまうと、内側からわきあがってくる情報を拾えなくなってしまう。
扁桃体をはじめとする回路に潜む感情や、側頭連合野の奥深くにしまい込まれた記憶。これらを深掘りして、初めて見えてくる自分の姿がある。
私が何もしない「バカンス」の効用を実感したのは大学院生のときである。学生向けの企画で、「バカンス」の先進国であるフランス系企業が運営するインドネシアのリゾートホテルに滞在した。
何日も、基本的に何もしないでプールサイドで寝転がったり、本を読んでから昼寝をしたりしていたら、不思議なことが起こった。心の内側からかっかと熱いものがこみあげてくるような感覚があったのである。
■前向きに生きる勇気が出てきた
そして、しばらく忘れていた、人生でこんなことをしたいという夢や、志のようなものを思い出した。前向きに生きる勇気が出てきた。
当時の私は、大学院で時間に追われていて、初心を忘れかけていたのかもしれない。「バカンス」で何もしない時間を持つことで、自分の奥底にある感情や記憶が意識に上ってきたのである。
仕事が忙しい人、目の前のことに追われている人ほど、思い切って「バカンス」を取ってほしい。何もしない空白をつくることで、忘れかけていた自分がよみがえってくるはずだ。
もっとも、まとまった休みが取りにくいという人は、「プチバカンス」でもいい。どこにも出かけずに、自分の部屋でゴロゴロと横になって、うたた寝をするのでもいい。
大切なのは、活動を詰め込まずに、思い切って何もしないで過ごすこと。リラックスして、脳の「空白」さえ生み出せれば、いつでもどこでもあなただけの「バカンス」が始まる。
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脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
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