埼玉知事選の「番狂わせ」に悩む安倍1強の弱さ
プレジデントオンライン / 2019年9月2日 17時15分
■「1強」なのに不戦敗を検討する埼玉自民党の事情
「番狂わせ」と言っていいだろう。8月25日の埼玉県知事選は、大方の予想に反し、野党勢力が推す前参院議員の大野元裕氏が、自民、公明の与党が推すスポーツライター・青島健太氏に競り勝った。選挙戦中盤までは知名度に勝る青島氏が圧倒的にリードを保っていたのだが、終盤で逆転した。
埼玉では大野氏の辞任に伴う参院補選が10月に行われるが、自民党内ではひそかに「不戦敗」説がささやかれている。「1強」を謳歌する自民党が、なぜこんなに弱気になるのか。
■勢いのない野党に負けたダメージは大きい
「サヨナラ負けだよ」
自民党関係者は、敗れた青島氏が元プロ野球選手だったことになぞらえて自虐的な笑みを浮かべた。
テレビ出演が豊富な青島氏は知名度が高い。しゃべり口も滑らかだ。告示前は、圧勝が予想されていた。選挙戦が始まると「接戦」と言われるようになったが、それでも大半の世論調査や期日前投票の出口調査では青島氏が上にいた。データを分析すると、投票日前日の24日あたりから風向きが変わり、25日の投票日になだれ込んだようだ。文字通り「9回裏のサヨナラゲーム」だった。票差は約5万7000票だった。
ここで押さえておかなければならないのは「サヨナラ勝ち」した野党側に、目に見えた勝因が見当たらないことだ。
■3カ月で3回の選挙。創価学会も地方議員も疲労困憊(こんぱい)
野党は今、立憲民主党と国民民主党らが会派合流で合意するなど野党結集の動きを見せているが、国民の支持は一向に上がらない。このあたりは8月23日公開の「『悪夢のような民主党』に戻る立憲民主の残念さ」を参照いただきたい。
埼玉県は立憲民主党の枝野幸男代表の地元だ。ただし、今回の知事選では、枝野氏が陣頭指揮を執ったとはとてもいえない。また、野党共闘の最終兵器と目されるれいわ新選組の山本太郎氏は、知事選に「参戦」した形跡も、ない。
それにもかかわらず自民党は敗れた。
首都圏で知事選を落としたのは痛いが、それだけならまだよかった。自民党にとって頭痛の種は同じ埼玉で次の選挙が控えていることだ。
知事選で勝った大野氏は現職の参院議員の職を辞して知事選に挑戦した。そこで生じた欠員の補充のため、補欠選挙が10月27日に行われる。埼玉で、もし自民党が連敗すれば大ピンチに陥ってしまう。
ちなみに埼玉では7月の参院選、8月の知事選、そして10月に参院補選と、3カ月に3回も大型の選挙を行うことになる。3回目となると、頼みの創価学会や、自民党系地方議員も疲れ果てており、集票も期待はできない。
■「補選」では現職の応援を得づらい事情がある
しかも補選には独特の問題がある。10月に当選する議員は、2016年の参院選で当選した議員とともに22年に任期満了を迎え、再選を目指すことになる。16年当選の参院議員は自民党の関口昌一氏と公明党の西田実仁氏。2人が22年も出馬し、補選で自民党が勝った場合、自民党2人、公明党1人の与党現職が埼玉選挙区でしのぎを削ることになる。現職議員たちにとっては避けたいシナリオであることは言うまでもない。いきおい今回の補選では、自民、公明の現職は、自民党新人候補の応援に身が入らないだろう。
「10月27日」は政治的にどんな日程なのか。10月には消費税率が10%に上がる。臨時国会は10月4日にも召集される見通し。ということは、消費税率が上がり国民からの不満が高まり、臨時国会で会派合流した野党が自民党を追及している時、補選が行われることになる。「8月25日」の知事選と比べても、自民党にとって有利な要素はない。
野党側からは知事を勇退したばかりの上田清司氏の出馬も取り沙汰される。強敵だ。
■「立てないのは一時の恥、出すのは末代の恥」
そこで浮上しているのが「不戦敗」カードだ。「安倍1強」と言われる状況下で、本来ならあり得ない選択だ。もちろん自民党執行部内にも候補者を立てて戦うべきだという主戦論も根強い。
しかし、もしも同じ埼玉で知事選、参院補選と連敗するようなことになれば、傷はさらに広がるのは確実。だったら不戦敗を選ぶという手も分からないではない。もし候補を立てて負ければ「消費税増税に国民はノーを突きつけた」と報道される。そうなると安倍政権にも逆風が吹き始める。
今、自民党内では、野党統一候補として上田氏が立候補した場合は、不戦敗を選ぶという見方が有力だ。上田氏は30日、知事退任の記者会見で「志を持つ人に力を貸し、蓄積を伝授したい」などと述べ政治活動継続を宣言。補選出馬に意欲もにじませている。
自民党内では「候補者を立てないのは一時の恥、出すのは末代の恥」という言葉が語られているという。
■衆院選は「来夏の東京五輪後」が軸か
埼玉で自民党が不戦敗になったら国政にはどういう影響を及ぼすだろうか。ひとつ言えるのは、衆院解散・総選挙が遠のくということだろう。ひとつの県の補選での戦いを避けておいて全国で政権選択を問う戦いを臨むということは考えにくいからだ。
今年7月の参院選に併せて衆院を解散して衆参同日選にすることを検討した安倍晋三首相。同日選を見送った後も、年内の衆院解散説はくすぶっていたが、今後は「来夏の東京五輪後」が軸となりそうだ。
(プレジデントオンライン編集部)
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