安倍総理の分身「官邸官僚」が霞が関を牛耳る
プレジデントオンライン / 2019年11月9日 11時15分
■絶大な権力をふるう、従来の「官僚」像とは異なる存在
「今井ちゃんはなんて頭がいいんだ。頭の中を見てみたい」。安倍総理にそう言わしめた今井尚哉政務秘書官は、経済産業省出身。自他ともに認める「総理の分身」だ。前川喜平文科省事務次官(当時)に、「総理が自分の口からは言えないから、私がかわって言う」と、加計学園の獣医学部新設を迫ったとされる和泉洋人首相補佐官(国土交通省出身)。「総理の影」が官房長官なら、補佐官は「影の影」か。
警察庁出身の杉田和博内閣官房副長官は「総理の守護神」。同じ警察官僚、北村滋内閣情報官との杉田・北村ラインで政権のインテリジェンスを一手に握ってきたという。
〈出身省庁を離れているが、官邸を根城に絶大な権力をふるう、従来の「官僚」像とは異なる存在が「官邸官僚」である〉と著者は書く。彼らは〈決して古巣の役所のトップを走ってきたわけではない〉が、〈宰相の絶大な信を得て、思いのまま権勢をふるっている。裏を返せば、その権勢は首相の威光がなければ成り立たない〉。「忖度」「総理のご意向」の原点はそこにある、と指摘するのだ。
問題はその官邸官僚たちが、総理や当人たちが思っているほどの結果を出せていないことだ。今井政務秘書官が力を入れたトルコ、英国への原発輸出は、伊藤忠、三菱重工、日立が白旗を掲げほぼ全滅。同じく今井発案の「経済成長年3%」「出生率1.8」「介護離職ゼロ」を目指す新三本の矢は、画餅に帰している。
対ロシア、対中国、北朝鮮問題と、外交政策にも首を突っ込むが、成果を上げるどころか、数々のスタンドプレーで、外務省とのあいだに深刻な亀裂を生んでしまった。
■忖度による様々な不正が明るみに出てくる
それでも霞が関が反旗を翻さないのは、安倍政権が新設した「内閣人事局」が、1府12省庁の幹部680人の人事を握っているからだ。2017年8月、杉田官房副長官が内閣人事局長の座に就いたとき、官邸による官僚支配が確立したという。霞が関のバランスは崩れ、忖度による様々な不正が明るみに出てくる。
その象徴が、森友学園に関する財務省の決裁文書改ざんだ。主犯は元理財局長の佐川宣寿。〈安倍本人や昭恵夫人のかかわりをはじめ、十四の関連文書の中で政権に都合の悪い三〇〇カ所を削除し、書き換え〉た重大犯罪なのに、〈佐川は何の刑事罰にも問われず、退職金まで手にして財務省を去った〉。
陰に見え隠れするのが、「官邸の守護神」こと黒川弘務法務事務次官。法務省にあって、長く安倍政権を支えてきた。検察まで忖度とは思いたくないが、〈まさに、「政治判断による捜査終結」という以外に言葉が見あたらない〉。
安倍官邸に正面から向き合い、「あるものはある」と書く気骨のあるライターがいる。森功は間違いなく、今では数少ないその1人だ。
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文藝春秋前社長
1950年生まれ。東京教育大学アメリカ文学科卒業後、文藝春秋入社。『諸君!』『週刊文春』『文藝春秋』編集長などを経て、文藝春秋社長。2018年退任。著書に『異端者たちが時代をつくる』がある。
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(文藝春秋前社長 松井 清人)
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