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「GAFA」と「初期の電力会社」にある意外な共通点

プレジデントオンライン / 2019年9月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JIRAROJ PRADITCHAROENKUL

巨大IT企業「GAFA」はなぜここまで広がったのか。マーケティングに詳しい笠原英一氏は、「その姿は19世紀の終わりの電力会社に似ている。電力会社も最初は無料でサービスを提供し、その後課金するという戦略をとった」と指摘する——。

※本稿は、笠原英一『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■石炭から電力へ——これまでの産業革命

最近のIoT、ビッグデータ、AIをベースとするデジタル技術による革新は、産業革命の歴史でいうと4番目にあたります。

第一次産業革命の動力源は、石炭を燃料とする蒸気機関でした。それまで工場の動力は、川沿いにある水車からすくいあげた水力に依存していましたが、第一次産業革命時に石炭を燃料とする蒸気機関が水力を代替しました。

この蒸気機関は大量生産を可能にしましたが、同時に生産システムに根本的な制約を課すことにもなりました。工場内のすべての装置が、物理的に蒸気機関の駆動軸につながっている構造を必要としたのです。

装置の設置場所や生産性のレベルが動力源によって決められてしまうという制約が、第一次産業革命の特徴でもありました。

19世紀の終わりになると、今度は電力が、それまで工場を規定していた制約条件を取り除く生産革新の原動力になりました。モーターとそのベースとなる電力によって、理想的な設計図のとおりに機械装置類を配置することができるようになったのです。

製造ラインに関しては、すべてを一つのライン軸に合わせるのではなく、いくつもの支流が一つの川につながって流れるように設計することが可能になりました。工場の規模に関しても、ライン軸とベルトの長さによって固定されてしまうという制約を受けることがなくなりました。

■「布教者」のおかげでシステムが広まった

制約から解放されることによる生産性の向上という点から、第二次産業革命は画期的であったにもかかわらず、当時の工場経営者の多くがその価値を十分に理解できないでいました。工場従事者の多くが、従来の工場設計の前提にとらわれており、その結果、電力とモーターによって新たに生まれるフレキシブルな生産システムの本質が見えなかったのです。

このような時代に、生産システムの新たな可能性を布教して回ったのが、当時の新興企業としての電力会社です。

電力会社がとった戦略が今でいうところのフリーミアム(Freemium)です。これは、基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能については料金を課金する仕組みのビジネスモデルですが、電力会社は、工場の管理者と職工を訓練するために自社の専門技師やエンジニアを無料で派遣し、電気モーターがどのように工場を変革させることができるかということを説明し、実験し、経験してもらったのです。

電力化プロジェクトの進捗は、最初のうちは極めてゆっくりとしたものでしたが、古い体質の工場経営者にも、新しい生産システムの本質が次第に理解されるようになってきました。

こうして1920年代までには、電力を中心に工場、職工、エンジニア、製品、業務などから構成される新しいエコシステムが確立され、第二次産業革命は完成しました。

■GAFAは第四次産業革命の布教者

また、第三次産業革命とは、1990年代後半にコンピューターによって生産の自動化・効率化が進んだこと、第四次産業革命とは、近年のIoT、ビッグデータ、AIをといった新しいデジタル技術による革新を指します。

デジタルをベースとして創出された企業、例えば、GAFAなどは、第二次産業革命初期の電力会社のようなものかもしれません。すでにRPA/Robotic Process Automation(AIを備えたロボットによるオペレーションの代行・自動化)で定型業務の改善をはかっている工場や事務センターなどは、第二次産業革命の際に設備を一新して新しい時代に突き進むことを学んだ工場の姿と重ります。

GAFAにしろ、RPA実践企業にしろ、どちらの企業もデジタル技術によって生み出される可能性を理解し、デジタル時代以前に存在していた制約が消滅し、新しい収入源、新たな競争優位の源泉が生まれていること、すなわち今、新しい産業革命が起きていることを理解しているのです。

■デジタルが変化させる5つの戦略領域

デジタルが経営に与えるインパクトは、蒸気機関からモーターにシフトすることで生産現場に与えたインパクトよりも、一層大きいものになる可能性があります。なぜならば、デジタルは、生産業務だけに限定されず、企業経営のすべての領域における制約を根本から変質させるものであるためです。

『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』では、デジタルによって大きく変わる5つの戦略領域について言及しています。ここでもその内容についてご紹介いたしましょう。

まず第1に、デジタル技術は、顧客との関係を変化させました。これまでは、企業がテレビや雑誌などへ一方的に広告メッセージを流し、大量の製品を顧客向けに出荷するという時代でした。しかし、今日は売り手と買い手の関係は、より双方向的なものになっています。顧客からのメッセージやレビューは、時に広告や有名人の推奨よりも大きな影響力を有しており、顧客の参加がマーケティングの成功において欠かせないものとなっています。

■デジタル技術により競合他社との協働も

第2にデジタル技術は、競争に関する考え方についても変更を迫っています。プラットフォームを通じて事業に必要な資産や技術を外部から調達することは以前より容易になり、業界内の競争だけではなく、業界外の企業と競争する機会が増え、以前より競争は激しくなっています。

また、ある領域では長年にわたって厳しい競争をしている他社と、別の領域では協働をしている、という関係性の複雑化も進んでいます。弱みを克服するための資源は、自社の組織の中にあるのではなく、緩い関係にあるパートナー企業とのネットワークの中に存在しているかもしれません。自社内で完結することにとらわれず、いかにアウトソーシングの可能性を模索できるかが、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代のテーマになっています。

■情報活用とイノベーション追求も容易に

第3にデジタル技術は情報に関する考え方にも影響を与えています。従来、情報は、入手することにお金がかかり、保管することが難しく、また縦割りの組織の中で使われるだけのものでした。しかし、現在、情報は企業内だけではなく、すべての人によって前例のないスピードで生み出されています。

さらにクラウドなどの情報保管のためのシステムは、ますます安価になっており、入手しやすくまた使いやすくなっています。こうして膨大に蓄積されたデータの活用方法が、「ビッグデータ」というキーワードで話題になっているわけですね。

第4にデジタル技術によって、事業がイノベーションを追求する方法も変化しています。従来、イノベーションのための研究・開発にはお金がかかり、それが成功するかどうかについては、イチかバチか的な感じでした。新しいアイデアを検証することは困難であったため、何を製品に組み込むかという決定は経営幹部にゆだねがちで、彼らが決めた内容(えてして極めて保守的なものになりがち)を導入していました。

しかし、今日はデジタル技術によって、以前では考えられないほどの低価格でプロトタイプ作ることが可能になっており、新しいアイデアは迅速にテストすることができるようになりました。これにより、イノベーションのスピードはますます速くなるでしょう。

■「モノ」として以上の価値もプラスできる

笠原英一『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』(KADOKAWA)

最後に、デジタル技術は、顧客価値の創造に関しても異なる視点で考える力を与えてくれます。何か製品を提供しようと思った場合に、その物自体だけでの提供には限界があります。企業はその製品によって顧客が実現したいと思っていることを考え、ハードとしての製品に加えソフトウエアやサービスなども全部込みで製品をデザインしていくことが求められており、そのためにもデジタル技術は必要不可欠になりつつあります。

「今までのやり方で上手くいっているし……」「うちには優秀なエンジニアも居ないからできないよ……」とこれまでのやり方をつらぬくか、DXを産業革命ととらえて、新しい時代に進んでいけるか。今、企業は決断を迫られている時であり、その選択によって未来の明暗は大きく分かれるかもしれません。

DXで変わる領域

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笠原 英一(かさはら・えいいち)
アジア太平洋マーケティング研究所所長
博士(Ph.D.)。アリゾナ州立大学サンダーバード経営大学院、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Executive Scholar)、早稲田大学大学院後期博士課程修了。専門は、産業財マーケティング、戦略的マーケティング、消費者行動論、グローバル・マーケティング、ベンチャー・マネジメントなど。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。

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(アジア太平洋マーケティング研究所所長 笠原 英一)

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