橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」

プレジデントオンライン / 2019年9月11日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/Barks_japan

今回の日韓関係悪化の大元は、韓国大法院(最高裁)による徴用工判決だ。これに対して日本側は、輸出管理手続きの厳格化といった実質的な利益のない対抗手段ではなく、やられた分だけやり返すための法的な理屈を考えるべき。その手段とは? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(9月10日配信)から抜粋記事をお届けします。

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■韓国側の主張を分析したうえで日本の主張を徹底的に構築せよ

今回の韓国大法院の徴用工判決には、それなりの法的理屈があることを本メルマガで詳論してきた。1965年の日韓基本条約・請求権協定があるからハイ終わり、と簡単に言えるものではない。お互いに解釈の余地が生まれ得る問題だ。ゆえに、その点を踏まえて、日本は日本の立場の法的主張を準備しておくべきだ。

相手の主張を吟味することなく、自分の主張が絶対的に正しいものと信じ込んで法的論戦に臨むと、足元をすくわれる。韓国側の主張もそれなりに成立することを認識した上で、日本側の法的主張を徹底的に構築すべきだ。

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さらに国際司法裁判所や仲裁委員会での判断を仰ぐ前に、国家の実力行使で解決するやり方もある。もちろん武力行使によらない実力行使だ。現在の日韓双方は、その報復合戦に突入している。ただし、実力行使を行うのであれば、その根拠を法的に構築すると同時に、これまでも散々論じてきたが、実害が最小限にとどまるような方法を採らなければならない。

■李承晩ライン拿捕事件を韓国政府に賠償請求できるか

この点、日本の政治家やインテリの一部には、次のような歴史的事実を基に、「韓国政府」への実力行使を叫ぶ者がいる。

1952年発効のサンフランシスコ講和条約によって日本が主権を回復する直前に、当時の李承晩韓国大統領が、日本海に李承晩ラインなるものを一方的に引いて、竹島を実効支配した。今の中国が南シナ海でやっているのと同じようなことをやったのである。日本は当時、主権が回復していなかったのでなす術がなかった。その後、サンフランシスコ講和条約によって日本の主権が回復し、本来であれば日本の漁船が漁業をできる地域においても、韓国は李承晩ラインを盾に、日本漁船を拿捕し、多くの日本人漁師が韓国側に拘束された。拘束時に死亡者まで出ている。

この点について、日本側は韓国に補償請求しようとした。ところが1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定時に、日韓の紛争は全て終結させる趣旨から、李承晩ラインに基づく日本漁船拿捕事件の補償は、全て日本政府が日本人漁師に行うことで決着した。自国民への補償は自国政府が行うという原則論である。そして実際、日本政府は日本人漁師に補償を行った。

そこで、日本の政治家やインテリの一部は、この点を蒸し返し、再度「韓国政府」に直接請求すればいいと主張する。

しかし、これは国際法上の「主権免除」という法的理屈を知らない主張だ。国際社会のルールにおいては、自国の裁判所において外国「政府」を直接訴えることはできない。すなわち日本の裁判所において「韓国政府」を直接訴えることはできないのである。「韓国政府」を直接訴えたいなら、「韓国の裁判所」で訴えるほかないのであるが、しかし、李承晩ラインを巡る補償について「韓国の裁判所」に「韓国政府」を訴えたところで、日本側が勝てる見込みはないだろう。韓国の裁判所では韓国側の法的理屈が採用されてしまうだろうから。

この点、韓国の元徴用工側は、うまくやっている。今回の韓国大法院が下した徴用工判決を見て欲しい。これは元徴用工の韓国国民が「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えている。「韓国の裁判所」において「日本政府」を訴えることはできないが、韓国国内の「日本企業」を訴えることはできるのである。

韓国国民が、徴用工問題で、「日本の裁判所」において、「日本政府」や「日本国内の日本企業」を訴えても負ける。先に述べたとおり、日本の裁判所は、元徴用工の個人補償について裁判所に訴えることはできないという立場だからだ。だから元徴用工たちは、自分たちの味方になってくれるだろう「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えて、勝訴判決を得たのである。

■これこそが日本の政治家の役割

日本側にもこのような緻密な戦術が必要である。韓国政府を訴えろ! では完敗する。だからこそ、日本側も、「日本の裁判所」で「日本国内の」「韓国企業」を訴えることはできないか。もっといえば、日本政府が「日本国内の」「韓国企業」の財産を差し押さえることができないか、を徹底的に考えるべきで、それが日本の政治家の役割だ。

李承晩ラインに基づく日本漁船拿捕事件や、その他のもので日本人や日本企業、さらには日本政府が「日本国内の」「韓国企業」を訴えることができるものはないか。最近、日本の外務省は、徴用工判決に基づく差押えやその現金化によって韓国内の日本企業に損害が出れば、日本政府は国際法に基づいて韓国側に損害賠償請求ができる、という見解を発出している。

加えて、韓国側が、徴用工判決とそれに基づく日本企業への差押え・現金化という日韓基本条約・日韓請求権協定に反する行動を貫くというのであれば、それこそ日韓基本条約・日韓請求権協定の破棄ということも視野に入れるべきである。それらを破棄すると日本側が韓国側に提供した5億ドルの資金を韓国側から戻してもらうことになる。ここを精査して、「日本の裁判所」に「韓国政府」を訴えるのではなく、「日本の裁判所」に「日本国内の」「韓国企業」を訴えたり、その財産を差し押さえたりすることができるように知恵を絞るのが日本の政治家の腕の見せどころだ。

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橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

政治家やインテリたちは、日韓関係の悪化で損をすることがないし、むしろそのことで仕事が増えるインテリも多いので、強硬策だけを叫んでいればいい。しかし、損をする民間人にとってはたまったものじゃない。加えて韓国が、日本の要求する輸出管理手続きをきちんと踏んでくれば、日本側は輸出許可を出さざるを得ず、そうなると韓国には何のプレッシャーにもならずに、徴用工判決の問題は何ら解決しない。

徴用工判決問題を解決するというなら、日本側の意図を明確にして、相手を動かす方策を実行すべきである。輸出管理手続きを厳格化し、「それは安全保障の問題だ!」などとごまかすべきではない。

「分捕られたなら、それを分捕り返す」。これが、日本側が採るべき本来の方策だ。

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(ここまでリード文を除き約2500字、メールマガジン全文は約1万400字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.167(9月10日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超緊迫・日韓関係(3)】日本国内の韓国企業から「分捕り返す」。これが徴用工判決への正しい対抗策だ》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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