休めない仕事人のための「すぐ寝る」テクニック
プレジデントオンライン / 2019年9月14日 17時15分
■かれこれ40年、不眠が続く
書けるうちに書いてしまおうと思うのが、物書きです。書き続けて、疲れたなと思ったら、倒れる。それでうんとお酒を飲んで、寝入って、でも喉が渇いたりして夜遅くに目が覚める。またつらつらと構成などを考えているうち、否応なしに目が覚めてくる。そしてまた書く。すると疲れて、行き倒れのように寝る。生活のローテーションとしては、この感じがいいようなんです。
ただ、いつもすんなり寝入ることができるとは限りません。かれこれ40年、不眠との付き合いが続いています。僕はうまく考えを整理できない人間で、頭のなかでも書いているんです。布団に入って横になっても、頭は動いている。考えるエンジンのスイッチが切れない。すると眠れない。そこに焦りが入ってくるわけです。「明日から旅行なのに、用意もできていない、原稿も書き終わっていない」なんて。物書きはそう悶え苦しんでいる人が多いですね。
布団に入っても頭の回転が緩まないときは睡眠薬を飲みます。最初は5、6種類の睡眠薬と抗不安薬を、医者に言われた通り全部飲んでいました。今はこれまでの“人体実験”の成果で自分に合う量がわかっていますからね。量は減っています。それでも足がふらついたり、おかしくなっちゃいますから、習慣にするのはよくないなと。
■精神科で処方されたのが、睡眠薬だった
もとはといえば、20代のころにサラリーマンをしていて、心配事でノイローゼになったのが始まりです。自分で勝手に腎臓病だと思いこんで、妻に「これから入院する」と宣言しました。そしたら妻が「いい病院を知っている」と。しかし病院に行くと、内科を通り越して、外科を通り越して、連れていかれたのは精神科だった。「大病院は、まず精神科に診断してもらって、それから専門科を紹介されるのよ」と説明されて、僕もバカですから「そうか」と納得して。その精神科で処方されたのが睡眠薬だったんです。てきめんに効きました。睡眠薬による、甘美なる眠りの世界を知ってしまった。その後、物書きになってからは、ときおり睡眠薬を飲むようになりました。
不眠といっても、僕のは「いいかげんな不眠」で、日によって軽重がありますし、40年といっても連続しているわけではないんです。ただ、油断すると不眠に陥る。きっかけは「考えすぎ」ですね。明日締め切りの小説が全然書けていない、間に合わなかったらどうしよう、そんなときです。これを予防するには、締め切りに余裕を持つこと。仕事は前倒しにして、早めに終わらせること。まあ、それができれば苦労はしませんが(笑)。困ったことに、締め切りギリギリのときにいいものが書けたりするんです。特に小説は枚数が決まっていませんから、書けるときにはどんどん、書いてしまうんですね。すると寝るタイミングを逸して、白々と夜があけていく。
睡眠薬以外にも、自分なりに対策を講じています。あるとき、風呂に塩を入れる「ソルト風呂」がいいと聞きまして。それもフランスのブルターニュの海水を結晶化させた塩がいいんだと。僕は程を知らないから、たくさん塩を入れたらたくさん眠れるだろうと思ったんです。そうしたら、浸透圧の関係で体からどんどん水分が出ていって、尿酸値が高くなり、痛風みたいな症状が出た(笑)。反省して、塩の用量を守り、水もたくさん飲むようにしたら、不眠はかなり改善しました。
![](https://president.jp/mwimgs/1/5/250/img_152a7dda6a5222718f472cc7d6c2438b189188.jpg)
落語にも助けられています。ヘッドホンで周りの音を遮断して笑っていると、頭のなかのスイッチが切れて、いつの間にか眠ってしまいます。お気に入りは古今亭志ん朝。最高傑作は廓噺ですね。「明烏」に「付き馬」。それから町内の若い衆が集まって馬鹿話をして、きざな若旦那に腐った豆腐を食わせるという「酢豆腐」もいい。もうずいぶん聞きすぎて「このあと咳払いするんだ」とわかるぐらい覚えちゃったんですが。
振り返ってみると、何かに夢中になっている時期はよく眠れるんです。それも、小説みたいに頭を使う夢中じゃなくて、体を使う夢中。僕が目黒考二と2人でつくった『本の雑誌』を、自分たちで担いで書店に届けていたころや、ボクシングや柔道をやっていたころは、疲れ果てて不眠どころじゃありませんでした。仕事でオーストラリアのグレート・バリア・リーフで毎日潜っていたときも、よく眠れた。サメがウヨウヨしているなかを泳ぐんだから、恐怖心はあるんですよ。でも小説の締め切りよりは、サメの恐怖のほうが、よく眠れるから好きですね(笑)。
----------
作家
映画監督。1944年、東京都生まれ。辺境の旅人としてルポの執筆、ドキュメンタリー番組などに出演。90年『アド・バード』で日本SF大賞受賞。『ぼくは眠れない』(新潮新書)など著書多数。
----------
(作家 椎名 誠 構成=東 雄介 撮影=栗原克己)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
BOOK 世論喚起のため…エンタメ側から積極的安楽死を深堀り ALS患者安楽死事件がモチーフ 中山七里さん『ドクター・デスの再臨』
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月20日 15時0分
-
第40回記念!毎日新聞主催オンライン落語会「志ん輔と仲間たち」<ゲストは往年の大師匠のひ孫!>
PR TIMES / 2024年7月17日 4時40分
-
【社会人に聞いた!なかなか眠れないときにすることランキング】500人アンケート調査
PR TIMES / 2024年7月9日 12時45分
-
睡眠6時間では認知症診断率3割増…日光浴、朝食、コーヒー、就寝前読書ほか「ボケない眠り方10の鉄則」
プレジデントオンライン / 2024年7月9日 7時15分
-
「睡眠薬で爆睡し翌朝スッキリ覚醒する」は無理な注文…スタンフォード式の睡眠薬の正しい飲み方危ない飲み方
プレジデントオンライン / 2024年7月2日 18時15分
ランキング
-
1「コロナと夏かぜ流行中」何が起きているのか ワクチンを打っている人、打ってない人の違い
東洋経済オンライン / 2024年7月26日 8時10分
-
2イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
ねとらぼ / 2024年7月26日 16時5分
-
3テレビ離れの小中高生にバカ受け…「27時間テレビ」で視聴率急伸した"5つの時間帯"の芸人とタレントの名前
プレジデントオンライン / 2024年7月26日 10時15分
-
4日本人に多い「近視」 子どもは特に要注意、放置すると及ぶ“危険性” 眼科医が解説
オトナンサー / 2024年7月26日 7時10分
-
5マヨネーズにつけて食べると消化酵素が3倍増…キャベツの栄養を爆上げするのは「千切りorかじる」どちらか
プレジデントオンライン / 2024年7月26日 9時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)