入居者の実家にまで及ぶ「最恐事故物件」の怨念
プレジデントオンライン / 2019年9月9日 12時15分
※本稿は、建部博『一家心中があった春日部の4DKに家族全員で暮らす』(鉄人社)の一部を再編集したものです。
■ブレーカーが落ちていないのに停電
2010年2月の上旬、数日の間だけ埼玉県の実家に帰ることになった。浮気騒動でいろいろあった嫁とも今ではすっかり仲直りし、家族そろっての団らんだ。
夕食の後、部屋でまったり過ごすうちに、日頃の疲れからかウトウトしてきた。こんなに安心して眠れるのは久々だ。
ふと、周りの騒がしさにジャマされて目が覚めた。部屋は真っ暗。手探りで携帯を探すと、時計は23時を過ぎたところだ。リビングに行くと、母親と嫁が大騒ぎしている。
「停電よ、停電よ」
まったく、女ってのはこれだから困る。んなもん、ブレーカー上げればいいだけだろ。
しかし、どういうわけかブレーカーは落ちていなかった。すべてのレバーが上がったままだ。
「どうしたらいいの、ヒロシ君」
母親は懐中電灯を持ってうろうろしている。うーん、困った。5分ほどみんなであたふたするうち、いきなり電気が点いた。なんだよ。ワケわかんねー。
そして翌日、また同じことが起きた。時刻は23時を回ったころ。ブレーカーに異常はない。
「また停電? まったく、誰かのイタズラかね」
マンション外の配電盤をいじるヤツでもいるのだろうか。とんでもない嫌がらせだ。よし、明日は外で見張ってやる。
■こんな事例は今まで聞いたことがない
翌日、寒空の下、物陰に隠れながら犯人を待つうちに、時間は刻々と過ぎていった。時計は22時59分をさしている。もうすぐ予定時刻だが変わった様子はない。23時が過ぎた。ふぅ、今日は何事もなしか。家に戻ろう。
ところが、ドアを開けた瞬間、点いているはずの玄関の明かりはなく、暗闇の奥で母が懐中電灯を握っていた。
「ヒロシ君、またよ、また停電よ」
ブレーカーは落ちていない。しばらくすると、自然に明かりは戻った。
母親がイヤミがちにつぶやく。
「なんなのかしらね。あんたが泊まりに来るまでこんなことはなかったのに」
嫌なことを言うおばちゃんだ。オレ、何もしてないぜ。
翌日、東京電力の担当者を呼んでチェックしてもらったが、彼は戸惑いながら言う。
「故障などの問題は見当たりません。こういった事例は今まで聞いたことがないです」
「例えば配電盤へのイタズラということは?」
「うーん。でしたらマンション全体の電気が落ちるはずですから。今の段階では原因不明としか言えないですね」
なんだよ。原因不明って。オレが豊島マンションの呪いを引きずってきたってのかよ。
■小学生の妹が見た背後にゆらめく「白いの」
まるで冗談みたいな話なのだが、さらに翌日の昼にも不可思議なことが起きた。
オレにはAV女優の妹、高校生の弟以外に、さらに2人の弟妹がいるのだが(つまり5人兄弟)、その小学4年生の妹・美幸(仮名)が突然、叫んだのだ。
「うわ!」
あまりに大きな声で言うもんだからイスから転げ落ちそうになった。どうしたんだよ?
「なんか後ろにいたよ、白いの!」
白いの? え、なに? 反射的に振り返ってみたが、ただ壁があるだけだ。
「動いたんだよ? すぐになくなったけど…」
オレがタバコを吸っている後ろに、白いモヤのようなものがかかり、1秒もたたないうちに消えたという。タバコの煙じゃないのか?
「違うよ。煙じゃないよ」
そう言ったまま、美幸は黙りこくっている。おいおい、霊感とかそういうヤツなのかよ。勘弁だぜ。
「じゃあさ、見えた白いのってどんな感じだったのか、ちょっと絵で描いてくれよ」
「うん」
クレヨンを持ってくると美幸はスラスラと描きだした。
「今もいるのか?」美幸が一瞬こっちを見る。
「いないよ」
なんか怖いな。子供がウソつくとも思えないし。
■試しに205号室に連れて行ってみた
完成間際の絵の右側には、不自然なスペースが残っている。美幸はそこに線を走らせ、雲のようなものを描いていった。伸びていく雲は次第にオレの頭上までやってきた。結構大きな雲だ。
「こんなカンジ…。下から出てきてお兄ちゃんの上まできてから消えたんだ」
ただ多感なだけだと思う。騒動中は眠っていたとはいえ、連日の停電騒動を聞いて、彼女の中にオバケ的なものの思い込みが生まれただけなのだと。にしてもオレの背後に現れたってのがヤな感じだけど。
それからというもの、不定期に停電が起こっているが、原因はいまだにわかっていない。
「ここだよ、なんか書いてあるみたい」
小学4年生の妹、美幸の反応を見て、オレは名案を思いついてしまった。
(こいつを豊島マンションに連れていったらどうなるんだろうか…)
まだガキとはいえ、オレの背後に霊の匂いを感じ取ったこいつなら、あの部屋の何かにも気づいてくれるかもしれない。こういうことって、むしろ子供のほうが敏感だとも言うしな。
2月下旬、日曜の午後、オレは面倒がる美幸を連れて豊島マンションへと向かった。もちろん、ヤツは205号室の狂気については何も知らない。
■流し台の壁に「白いの」はまた現れた
部屋に入ると、妹は黙って床に腰かけた。もともとおしゃべりな子ではないので、まあ普通のことだ。
「なんか飲むか?」
「うん」
コーラを渡すと笑顔になった。どうやら何も見えていないみたいだ。こいつもただの小学生か。落胆というか安心というか。
「この前、白いものが見えたとか言ってたけど、あれからまだ見えてるか?」
美幸はオレの目をまっすぐ見ながら答える。
「見えないよ」
「じゃあ見まちがいだったのかもしれないな」
「…わかんない」
一瞬、眉がピクンとあがった。見まちがいのはずがない、とでも言いたげに。
なぜこんな場所に連れてこられたのかわかっていない妹は、じっと黙って部屋を見渡している。
そして、急に叫ぶように言った。
「あそこにあるのってなに?」
え、あそこ?
「なんか白くなってるよ、あれ」
指差したのは流し台の方向だった。過去にも部屋を訪れた数人が「何かイヤな感じがする」「なんかいそう」と指摘してきた場所だ。
「流しに白いのが見えるの?」
「その上の壁だよ、白いのが見えるよ」
美幸は立ちあがって壁の一部分を指し「ここだよ、なんか書いてあるみたい」と騒ぐ。なに言ってんだ?
「ちょっと前みたいに絵を描いてくれるか」
完成した絵には、白いシミのようなものが描かれていた。オレにはそんなもの見えないんだけど。
■兄の受験票を燃やした美幸の奇行
それから数日後、会社にいるオレの携帯に母親から電話が入った。どうせロクなことじゃないだろうけど出るしかない。
『どうした?』
『あのね、雄介が専門学校の試験に落ちちゃったよ!』
雄介は高校3年生の弟である。アネキがAV女優になったことにショックを受け、パッケージのコピーを実家に郵送してきたのは弟だ。ま、あいつはアホだから落ちてもおかしくないよ。
『まぁ、また来年頑張ればいいじゃん』
『それがね…受験票を美幸が燃やしたからなのよ』
背筋がゾクッとした。あのおとなしい美幸が受験票を燃やしただって?
その晩、オレはまっすぐ実家に戻った。母親は半泣きになりながら言う。
「こないだの月曜日、買い物から戻ったら、表で美幸がゴミを燃やしてたのよ」
マンション前のスペースでゴミ焼きなんて、ウチの習慣には当然ない。妹にとってもかつてない奇行だ。母親に見とがめられ、美幸は素直に家に戻った。
「その中に雄介の受験票も入ってたみたいなの」
さっぱりわからない。故意に燃やしたのか、それともゴミだと思ったのか。いや、なによりなんでゴミを燃やす必要があるんだ。
受験票がなくなったことに試験当日の朝に気づいた雄介は、再発行してもらえばいいものを、勝手にふてくされてあきらめてしまったのだそうだ。つまり落ちたのではなく、受けてすらいないのだ。
この一家はコントか。つい口元がゆるみそうになったが、ドタバタの原因をたどっていくと、このオレの責任のようにも思えてならない。だって美幸の奇行は、205号室に連れて行った翌日のことなのだから。(続く)
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編集者/ライター
1984年東京都生まれ。『裏モノJAPAN』元編集部員。広告代理店勤務、フリーライターを経て、現職は『月刊MONOQLO』(晋遊舎)デスク。うらぶれたスポットの取材をライフワークとし成人映画館、ストリップ劇場などの「超個人的潜入取材」を続けている。
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(編集者/ライター 建部 博)
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