プロ家庭教師が教える「男の子を伸ばす」方法
プレジデントオンライン / 2019年9月24日 11時15分
■「男の子だから算数が得意」ではない
「うちは男の子なのに、算数の点数が取れなくて……」
「男の子だからか、字が雑で……」
カウンセリングやセミナーなどで、男の子の親御さんからよく相談される内容です。一般的に、男の子の特性としてよく言われるのが、「男の子は算数が得意で、国語が苦手」というもの。確かに、全体的に見れば、その傾向はあるかもしれません。しかし、家庭教師として一人ひとりの子供と向き合うと、「男の子だから」「女の子だから」という性別ではなく、個人差が大きいと感じることが多々あります。
男女差で得意・不得意がある例としてよく挙がる算数ですが、算数はどの分野でも考え方を理解し、解き方を知り、演習を積めば得点につながる科目です。そのプロセスに男女差はありません。
よく「男の子は立体図形が得意」という説を聞きますが、これは幼児期の遊びの影響が大きいようです。女の子が小さいときにお人形遊びやお絵かきをしている間、男の子はレゴやプラレール、ボール投げをして遊ぶことによって空間認知力が鍛えられます。実際、男兄弟と外で体を動かしたり、組み立て式のおもちゃで遊んでいたりした女の子は立体図形が得意です。逆にそういう遊びをしていなかった男の子は立体図形が苦手な傾向にあります。
■自分の実力を「過大評価」する男の子
こうした幼児期の体験が影響するほかに、男女の違いがあるとすれば、女の子は一度苦手意識を持ってしまうと、いつまでもその気持ちを引きずってしまい、そこから抜け出しにくいという点です。一方、男の子は、自分の実力を過大評価する傾向があり、一度、算数で大ミスをしても「今回はたまたま調子が悪かっただけ~!」とあくまで前向きです。
しかし、この前向きという特性が時によくない方向へといってしまう場合があります。算数は図や式をきちんと書くプロセスが非常に大切です。そして、子供にそのように指導をすると、その手間を惜しまずにきちんとやるのが女の子です。一方、男の子は図や式を書くことを面倒くさがります。「ボク、算数得意かも!」と思っているような子はなおさらです。
しかし、4、5年生の間はだましだまし得点できても、6年生になると問題の難度が上がり、図や式を面倒くさがって書かない子はぽろぽろと点を落としていきます。
■なぜ「字をていねいに書く」必要があるか
だからこそ、男の子には「式を書くこと」「字をていねいに書くこと」を言い続けなければいけません。親が口を酸っぱくして言っても、なかなかやりたがらないのが男の子。残念ながら最後まで身につかずに中学受験を終えてしまう子もいます。
しかし、そんな子も中学生になり成熟度が高まるとできるようになることも。ポイントは本人が散々痛い思いをした上で、「やっぱり字はていねいに書かないと読み間違えるもんなぁ~」「式を書いた方が思考の整理がしやすいんだな」と納得すること。そうすれば、自発的に取り組めるようになります。実際、私の教え子たちを見ていても、採点するのが困るようなぐちゃぐちゃな字だったりした男の子たちが、別人かと思うくらい、ていねいな字で式をびっしり書くようになっています。
何度言っても雑な解き方が直らない場合は、本人の成長を待つしかありません。入試では採点官が読める字で書かなければならないし、算数は立式が重要なのは事実ですが、あまりこだわりすぎると、算数嫌いになってしまうので要注意です。
■男の子に与える歴史マンガは「リアル」を重視
子供を歴史好きにするのには、「歴史マンガ」がおすすめです。私が子供のころは、歴史マンガといえば学研や小学館の歴史マンガが主流でしたが、今はいろいろな出版社から歴史マンガシリーズが出ています。大人の感覚からすると、「マンガだったらどれも同じじゃない? 何を与えても楽しく学べるでしょ」と思うかもしれませんが、子供には入り込みやすい絵とそうでない絵があります。
男の子が好むのは、昔からあるいかにも「歴史マンガ」的なもの。最近ではCGイラストなどでよりリアルに表現した『史上最強カラー図解』シリーズ(ナツメ社)なども人気です。
一方、女の子は線がやわらかくてキレイな絵を好みます。最近では、『ねこねこ日本史』(実業之日本社)や『ヘタリア』(幻冬舎)が人気のようです。『ねこねこ日本史』は歴史上の人物に扮した猫が繰り広げる歴史マンガです。『ヘタリア』は世界史がテーマなので中学受験には関係ありませんが、世界のさまざまな国の歴史、民族、風土などを人に表して国を擬人化したマンガです。
■一度ほれ込んだら、とことん深掘りする
このように女の子の好むマンガは、人物そのものをリアルに描いたものよりキレイな絵、あるいは動物など別のかわいいキャラクターに置き換える方がなじみやすいようです。逆を言えば、学校の図書館に昔から置いてあるような歴史マンガには、あまり興味を示しません。
一方、男の子は歴史的人物を動物にするなんて絶対に許しません。頼朝は頼朝、信長は信長。そんなところをいじってほしくない。「かわいい」よりも「リアル」が大切であり、彼らの生きざまを詳細に描いたマンガにほれ込みます。
歴史好きの男の子は、一度ハマると、とことんその世界を追い求めます。私の教え子に『三国志』が大好きな男の子がいましたが、その子は5年生の時点で3つの出版社の『三国志』を読み比べていました。このように、男の子は一度「この将軍が好きだ!」とほれ込んだら、とことん好きになり、どんどんその世界を深掘りしていきます。
■社会が得意な子は「3分野」をひもづけている
しかし、中学受験に限らず社会という科目は、地理・歴史・公民の3分野を学習します。男の子は興味のあるものに対しては学習意欲が高まりますが、そうでないものに対してはまったくやる気は起きません。でも、社会に関しては、何か一つ得意な分野があると、他も好きになっていくことがあります。例えば歴史は好きだけれど、地理や公民にはあまり関心がないという場合、すべて歴史にひもづけて覚えさせてしまうのです。実際、社会が得意な子はすべての分野が有機的につながっています。
ところが、どの分野もあまり好きではないということもあります。そういう場合は、男の子の競争心を刺激するといいでしょう。親子で問題集の一問一答をどちらがより多く正解させられるか、「地図記号かるた」でどちらがたくさんカードを取れるかなど、ゲームとして取り入れていくと、自然に知識が定着していきます。
■勉強を始める前に「話」を聞いてあげる
家庭教師をつけたことがないご家庭から、「先生の授業は1回2時間と聞いていますが、どんな感じで進められているのでしょうか? うちの息子はそんな長い時間、勉強に集中したことがなくて……」と言われることがあります。
確かに私の授業は1回2時間が基本で、そのぶんの授業料をいただいています。でも、どんなに成熟度が高い子でも、その間ずっと集中できる子はなかなかいません。大人でも完全に集中できる時間はせいぜい1時間。小学生の子供なら30分もてばいいほうです。
また、いきなり授業に入ろうとしても、いきなり気持ちが授業に向けられるほど小学生は器用ではありません。特に女の子は人間関係の悩みがあるとそのことで頭がいっぱいになってしまい、勉強どころではありません。そこで、まず話を聞くことから始まります。そうやって心の穴に風を通してあげてから、授業に入る方が集中できるからです。
男の子も基本同じですが、男の子の場合は単に気持ちが勉強モードにならないというだけで、そこまで深刻ではありません。女の子は学校の話をたくさん聞いてあげないと心を向けてくれませんが、男の子は「今日、オレ給食でじゃんけんに買ってプリン2つ食べたんだぁ~! いいでしょう?」とか「うちの担任ほんとムカつく! 女子の味方ばかりするんだぜ!」といった“オレの話”を聞いて、「え~、ラッキーじゃん!」「それはムカつくね?」と大げさに反応してあげれば、それで満足。でも、ここで少しでも聞いてあげるかどうかで、勉強に対する気持ちの入り方が違ってくるのです。
■まずは15分~30分集中できればいい
そして、気分がよくなったところで、「さーて、先週の続きをやろうか」と舵をとり、勉強モードに入っていきます。でも、いきなり難しい問題を解かせると、「やっぱり、勉強はつらい……」となってしまうので、はじめは簡単な問題からやらせ、「おっ! ちゃんと解けているじゃん。もうここは完璧だね。じゃあ、もうちょい難しいのもやってみる? これができたらすごいよ!」といった感じで、とにかく気分を乗せてあげる。そうすると気持ちよく勉強をします。
とはいえ、集中できるのはせいぜい15~30分。でも、それでいいのです。子供の成績を伸ばしたければ、まずは子供が気持ちよく勉強ができる状態にしてあげることです。小学生のうちは、中学受験をする・しないにかかわらず、まだ勉強を“自分ごと”として受け止められないのが男の子(中には非常に成熟度の高い男の子もいますが)。でも、“自分ごと”として捉えられるようになったら、ものすごいパワーを発揮するのもまた男の子なのです。
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算数教育家・中学受験専門カウンセラー
株式会社アートオブエデュケーション代表取締役。関西、関東の中学受験専門大手進学塾で算数講師を担当。プロ家庭教師歴約20年。中学受験のプロ家庭教師として、きめ細かい算数指導とメンタルフォローをモットーに、毎年多数の合格者を輩出している。中学受験親向けのセミナーも多数開催。新著に『中学受験 男の子を伸ばす親の習慣』『中学受験 女の子を伸ばす親の習慣』(共に青春出版社)
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(算数教育家・中学受験専門カウンセラー 安浪 京子 構成=石渡真由美)
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