結婚できない人は、なぜ結婚できないのか
プレジデントオンライン / 2019年9月16日 6時15分
※本稿は天野馨南子『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■そもそも「お金が足りない」状態とは?
「生涯未婚率がなぜ上昇していると思うか」という問いで最も多かった回答が「雇用・労働環境(収入)が良くないから」というもので、38.7%を占めています【図表1】。この結果を踏まえて、「お金が足りないから結婚できない」という一般感覚の妥当性について検証します。
まずは、「そもそも『お金が足りない』と思う金額はいくらなのか」ということについてのデータを見てみたいと思います。回りくどいように思われるかもしれませんが、ある事柄についてのお金の過不足の真偽を考える際には、大事な確認事項です。
「お金がない・足りない」という表現はかなり印象論的な表現です。実際どれくらいの金額を「足りない」と感じているかによって、その感覚の妥当性(感覚が浮世離れせず現実的なものかどうか)が変わってくるからです。
たとえば、お金が足りている状態を「世帯年収800万円」と考えているのか、「世帯年収400万円」と考えているのかで、両者の「足りない」という感覚自体の妥当性が大きく異なります。さすがに前者に対しては「そんな高望みをしていたら、日本のほとんどの人が結婚できないよ」と多くの人が思うと思います。
■結婚に最低限必要な世帯年収はいくらか
そこで、未婚者と既婚者で、それぞれがいったいいくらくらいを「お金が足りない」状態だと思っているのか、データで比較したいと思います。「結婚生活に最低限必要な世帯年収」について20~40代の男女に質問した意識調査の回答結果を使います【図表2】。この図表は、同一テーマについての調査の継続性や調査の母数規模から、信頼性が高いと思われる民間研究所の調査結果(回答者数3595人)になります。
まずは既婚者の回答ですが、約4人に1人、24%が最低必要世帯年収を「400万~500万円」と回答しています。一方の未婚者も、「400万~500万円」が最も多い回答で、割合も既婚者とあまり変わりません。
次に既婚者で多かったのは「300万~400万円」でした。既婚者の21%、約5人に1人がこの数字を挙げています。
ところが、未婚者の回答の第2位は「500万~600万円」です。つまり、5人に1人の未婚者が、既婚者の約5割の男女より高めの最低世帯年収が必要であると回答しています。
■未婚者の8人に1人は700万~1000万円を求める
さらに既婚者と未婚者の回答データを見比べると、既婚者では「200万~300万円」を選んだ男女も1割程度います。しかし、未婚者では5位までにランクインすらしていません。さらに必要最低年収として、未婚者の8人に1人が「700万~1000万円」と回答しています。
この調査では「結婚生活に最低限必要な世帯年収」と質問していますので、「世帯年収が1000万円近くないと、希望する最低限の生活すら送れない」と考える人が未婚男女には10人に1人以上いることになります。このような高額年収を選んだ人は、既婚者では少なくとも5位以内に入る割合ではいませんでした。
■未婚者が思うほど結婚にお金はかからない
データからは、最低世帯年収に「400万円以上」を選んだ人は、未婚者では66.1%、既婚者では48.6%となります。「未婚者は既婚者よりも結婚生活に求める世帯年収がそもそも高い男女が多い」ということがはっきりとわかります。
実際に結婚生活を送っている既婚者に比べて、未婚者は「結婚に必要な最低限のお金」を多く見積もりがちな人が多いようです。言い換えると、既婚者の回答から考えて、リアルな結婚生活には未婚者が思うほどのお金はかからないようだということも、このデータからは見えてきます。
■「お金がないから結婚できない」のではなく……
「結婚生活に本当に必要なお金よりも、多くのお金を必要と考えている割合が高い」ことが未婚男女の特徴の一つといえます。そうした過大な生活費の見積もりが前提にあるため、結婚相手に求める年収、もしくは自分が稼がねばならないと考える年収も必然的に高く見積もることになります。結婚生活に関する、既婚者の実態を超える金銭的要求によって、結婚を非現実化させてしまっている未婚者の一面が示唆されるデータです。
以上からは、次のデータ解釈が可能であると思います。
① 現実的にお金が足りないというよりも、足りないと思い込んで結婚相手が見つかりにくい、もしくは、まだまだ自分は稼がないと結婚できないと思い込んで結婚に踏み切れない未婚男女が少なくないのではないか。
② お金がかかる結婚生活を志向するために、結婚相手探しに難航している、もしくは、結婚に踏み切れない未婚男女が少なくないのではないか。
「未婚者は既婚者に比べ、結婚生活に必要な世帯年収を過大にとらえる、要求する傾向が強い」ということが指摘できると思います。
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東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年、日本生命保険相互会社入社。99年から同社シンクタンクに出向。専門分野は少子化対策・少子化に関する社会の諸問題。厚生労働省育児休業法関連調査等を経て結婚・出産。1児の母。不妊治療・長期の介護も経験。学際的な研究をモットーとし、くらしに必要な「正確な知識」を広めるための執筆・講演活動の傍ら、内閣府少子化対策関連有識者委員、地方自治体・法人会等の少子化対策・結婚支援データ活用アドバイザー等を務める。
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(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員 天野 馨南子 写真=iStock.com)
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