"気軽に相談できない"組織の生産性が低いワケ
プレジデントオンライン / 2019年9月24日 6時15分
※本稿は、倉貫義人『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』の一部を再編集したものです。
■コストゼロ! 「クマる」問題解決法とは?
「ちょっとクマってほしい」
これは私たちのチームでよく聞くセリフです。システム開発の仕事をしていると、技術的な問題で思いがけずハマってしまうことも珍しくありません。
ハマった原因は解決してみると、ちょっとした見落としであったり、しょうもない打ち間違いだったりするのですが、1人で仕事をしているとハマってしまって無駄に長く時間を使ってしまうことがあるのです。こういったことは、おそらくシステム開発以外の仕事でもあると思います。
このようなとき、誰かに相談していたら、なんのアドバイスももらっていないのに自己解決できた、という経験はないでしょうか。1つひとつ相手に説明をしているうちに、自分の中で考えが整理できたり、ハマった原因が見つかったりして解決してしまうのです。
■話すだけで問題が解決するテディベア効果
コンピュータの業界ではこういったことが昔からよくあったようで、とある大学のヘルプデスクにはテディベアのぬいぐるみが置いてあって、問題に困った学生にはいったんぬいぐるみに向かって説明させたという話があります。
つまり、相手は誰であってもいいのです。こんな風に自分勝手に話しているうちに自己解決することを「テディベア効果」と呼びます。
このクマのエピソードから私たちは、原因不明の問題にハマったときに「ちょっとクマってほしい」と言って仲間に話しかけるようになりました。相手はクマになったつもりであいづちを打って聞いてあげます。そうすると、大体のことは自己解決することができます。「クマってもらう」、これもザッソウの1つです。
■相談は雑なくらいがちょうどいい
ザッソウという言葉には、「雑談と相談の組み合わせ」以外に、「雑に相談する」という意味もあります。
あなたがマネージャだとして、部下やメンバーから相談を受けるとき、どういった状態で相談を受けたいでしょうか。
仕事の進め方で悩んでいるのに、粘りに粘って締め切りギリギリに相談にこられると困ってしまいます。「もっとサクッと相談してくれたら解決したのに……」と言いたくなるのもわかります。
考え抜いてからの相談も、報告みたいな感じになってアドバイスがしにくいものです。品質や出来栄えに妥協はしたくないので、ちゃぶ台返しをすることもありますが、それも心苦しいものです。
一通り考えてみたのであれば、完璧を待ってから相談にくるよりも、雑な感じで相談にくるくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
また、声をかけるときに「ザッソウいいですか?」と言ってもらうことで、心の準備ができますし、「ザッソウでもいいなら」と心理的な負担も少なくなります。
■「一度で完璧に」より「何度も軽く」伝える
ホウレンソウに期待することは効率的なコミュニケーションです。情報伝達のコストを下げ、的確に伝えることが大事だと教わってきました。
しかし、多くの人と人とのコミュニケーションを見てきましたが、一度のホウレンソウで完璧に意図や意思が伝わっていることなどほとんどありません。
同じだけの知識があって、同じ経験をして、同じように考える人同士でもない限り、言葉にして伝えたところで100%伝わることなどありえないのです。
私自身、本を執筆するようになって感じるのは、どれだけ思いを込めて書いた本であっても、多くの人に真意までは伝わらないものだな、ということでした。考えていることを口頭だろうと文章だろうと言葉にした時点で、いくばくかの情報の減衰や歪曲があるのです。
そのため大前提として、人と人とのコミュニケーションにおいて、「一度で伝わる」「完璧に伝わる」という考えは捨ててしまった方がいいでしょう。
一度で伝わる完璧なコミュニケーションを目指すよりも、ザッソウを使って何度も軽く伝える方がうまくいく可能性が高いのです。
■壁打ち役がいれば、「悩む」が「考える」に変わる
仕事をしていれば難しい問題に直面することは日常茶飯事です。
私に関していえば、今は経営者をしていますから、経営にまつわることで悩み、考えることがあります。管理職をしていた頃は部下の管理について、プログラマだった頃は技術について、若いうちはキャリアについて悩むこともありました。
難しい問題にぶちあたったとき、人は「悩む」と「考える」のどちらかをしています。では、両者の違いは一体なんなのでしょうか。
「悩む」は、前に進まず同じ場所で思考が止まっている状態。「考える」は、前に進むためにどうすればいいかを思案している状態、と聞いたことがあります。
その定義によれば、いくら悩んだところで問題が解決することはありません。問題と対峙(たいじ)したときは、「どうすればいいか」に意識を向けるのです。そうすれば「悩み」ではなく「考える」ことになります。
とはいえ、1人でいると前に進む決断をするのはなかなか難しいものです。
そんなときもザッソウです。決めあぐねていたことを仲間に相談しているうちに、前に進むしかなくなって、考えるようになったりします。
よく「壁打ち役」といったりしますが、1人でウンウンと考えるよりも誰かと話しながらの方が、思考が進むことがあるはずです。壁打ち役の仕事がザッソウになるのです。
■仕事を依頼するよりも、問題の相談をする
部下やパートナーに仕事を頼むとき、どんな風に依頼しているでしょうか。仕事の頼み方次第で、人のやる気は大きく変わるものです。
![](https://president.jp/mwimgs/5/a/200/img_5ad107410ad37d7f41f07d31da90e2b6199014.jpg)
「プレゼン資料をつくってほしい」と依頼するのと、「来週までにプレゼン資料を用意しないといけないんだけど、ちょっと手が回らなくて困っているんだ」と相談するのとで、どちらが前向きに取り組んでくれるでしょうか。きっと後者のはずです。
誰かに決められた仕事を言われたからやるのでは、どうしても自分の仕事と思うことができません。自分事として捉えられない仕事では、生産性も品質も期待できないでしょう。
それよりも、人間は頼られると応えたくなるものですし、困っている人は助けたくなるものです。関係性ができていることが前提ですが、困っていることを相談すると、なんとかできないかと一緒に考えようとしてくれます。
そのうちに相談を受けている人の方から、一肌脱いで手伝おうかと提案してくれることさえあります。そうしてやってもらう仕事は、自分事になっているので良い成果を出すことができます。
■相談から入ることでパフォーマンスが上がる
また、依頼ではなく相談から入ることで、相手の知見を得て、より良い解決策が見つかることもあります。
たとえば、デザイナーにポスターを制作してもらったとします。その修正依頼で「ここは目立たせたいから、大きな文字にしてほしい」と依頼をするのか、「ここの部分があまり目立っていないんだけど、どうしたらいいだろう?」と相談するのか、の違いです。
後者のように相談をすれば、「文字が目立たない」という問題を解決するために、文字の大きさを変える以外の提案を、自分だったら思いつかないプロの視点でしてくれるかもしれません。
このように相談から入って仕事をお願いすると、決まった依頼をただしてもらうだけよりも大きなパフォーマンスを発揮してもらうことができます。ザッソウで仕事のパフォーマンスが変わるのです。
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ソニックガーデン代表取締役
大学院を修了後、大手システム会社でエンジニアとしてキャリアを積みつつ「アジャイル開発」を日本に広げる活動を続ける。自ら立ち上げた社内ベンチャーを、2011年にMBOし、ソニックガーデンを創業。月額定額&成果契約という「納品のない受託開発」を展開し、注目を集める。新しいワークスタイルにも取り組み、リモートワークを実践し、そのノウハウも発信し続けている。著書に『管理ゼロで成果はあがる 「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう』(技術評論社)、『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』(ともに日本実業出版社)がある。
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(ソニックガーデン代表取締役 倉貫 義人 写真=iStock.com)
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