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週刊ポストの「嫌韓ヘイト」はどこが問題なのか

プレジデントオンライン / 2019年9月10日 18時15分

『週刊ポスト』2019年9月13日号の表紙

■「僕は今後小学館の仕事はしないことにしました」

「韓国なんて要らない」

『週刊ポスト』(9/13号)が、こうタイトルを付けた巻頭特集が激しい批判を浴びている。

武田砂鉄は、<「週刊ポスト」広告。これでいいのか、と疑問視する人は、編集部にいないのだろうか>とツイート。

柳美里も<日本で暮らす韓国・朝鮮籍の子どもたち、日本国籍を有しているが朝鮮半島にルーツを持つ人たちが、この新聞広告を目にして何を感じるか、想像してみなかったのだろうか? 想像出来ても、少数だから売れ行きには響かないと考えたのか? 売れれば、いいのか、何をしても。>と書いた。

内田樹は小学館に対して断筆宣言した。

<この雑誌に自分の名前を掲げて文章を寄せた人は、この雑誌が目指す未来の実現に賛同しているとみなされることを覚悟した方がいいです。というわけで僕は今後小学館の仕事はしないことにしました。幻冬舎に続いて二つ目。こんな日本では、これから先「仕事をしない出版社」がどんどん増えると思いますけど、いいんです。俗情に阿らないと財政的に立ち行かないという出版社なんかとは縁が切れても。>

東京新聞と毎日新聞は9月4日付の社説で批判した。

「この特集を受け、ネット上に韓国への過激な書き込みが広がっている。ポスト誌は謝罪談話を出したが、真の謝罪とするためには、当該号の回収も検討すべきだ」(東京新聞)

「日韓対立の時流に乗れば、何を書いても許されると考えたのだろうか」(毎日新聞)

■「謝罪になってない」「回収しろ」という声も

昨秋、自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が同性カップルを念頭に「生産性がない」などと主張した文章を掲載して激しい批判を浴び、廃刊に追い込まれた『新潮45』(新潮社)の二の舞かと思われるほどの騒ぎに、恐れをなしたのだろう。ポストは早速、こういう文書を出した。

<週刊ポスト9月13日号掲載の特集『韓国なんて要らない!』は、混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります。(『週刊ポスト』編集部)>

これに対しても、「謝罪になってない」「回収しろ」という声が上がっている。

テレビでも『モーニングショー』(テレビ朝日系)などが、この問題を取り上げていたから、騒ぎを知っている人は多いと思うが、記事を読んでいない人に向けて簡単にポストの特集内容を紹介したい。

■日本の優越性をいたずらに強調するだけのお粗末さ

特集は2つに分かれている。第1特集の1本目は、「軍事:GSOMIA破棄でソウルが占領される」。たしかに北朝鮮との軍事境界線からソウルまでの距離は、最短距離だと30km前後しかない。だが、ここに出されている例は1950年の朝鮮戦争の時のものである。こんな古い事例を出してきてソウルが危ないとやるのは、担当編集者のお頭の構造が単純すぎるからだ。

2本目は「経済:貿易規制でサムスン、LGは大打撃」。次は、お互いが輸出規制をやっているが、損するのは韓国で、日本の工場を潤すというのだが、現在のようなグローバル経済では、二国間だけで有利不利が決まるわけではない。

3本目は「スポーツ」で、韓国が東京五輪をボイコットすれば、日本のメダルが増えるというものだが、論評以前の内容である。4本目は「観光」で、韓国人旅行者が減っているが、中国の観光客が増えているし、元々韓国人はカネを落とさないから日本は困らないと、子どもが虚勢を張っているとしか思えないもの。このような幼稚な論法で、日本の優越性をいたずらに強調するだけのお粗末な特集である。

第2特集が<怒りを抑えられない「韓国人という病理」>で、韓国人の10人に1人は「憤怒調節障害」で、治療が必要という内容。要はすぐカッとなる民族だから気をつけろ、これが「韓国人という病理」だとしているのである。

一応、「韓国人の誰もがそうした言動を表に出すわけではないことは断っておくが」としながらも、「歪な社会構造に苦しめられる韓国国民の不幸があり、結果として抑えられない怒りの矛先が日本に向けられている可能性がある」と、現在の反日は韓国が抱えている社会構造にあり、そのはけ口として、日本へ怒りが向けられているとしている。

■ポストは『月刊Hanada』の記事をパクっているだけ

たしかに、このタイトルと内容は、嫌韓ヘイトに近いものがある。だが、この根拠となっているデータは、15年に韓国の「大韓神経精神医学会」が発表したレポートだとあるから、ポストが捏造したものではない。

さらにいえば、『月刊Hanada』(4月号)に、ポストでもコメントを出している嫌韓ライター・室谷克実が「韓国成人の半分は憤怒調節障害」だと既に書いている。何のことはない、この記事のほとんど丸写しなのである。

売らんがために、本家より過激にいこうと、杉田議員の差別的な一文を掲載した『新潮45』と動機は同じだろう。ただし、ポストは本家の記事をそのままパクっているだけで、編集者としていうなら、ポストの編集力は最低である。

「小学館がこんなヘイト特集をやる雑誌を出すのはおかしい」という批判もあるようだ。しかし、小学館はつい最近まで『SAPIO』という雑誌を出し、「日本人よ、気をつけろ北朝鮮と韓国はグルだ!」などという、『月刊Hanada』や『月刊WiLL』と似た論調の記事をやっていたことを忘れてはいけない。小学館は岩波書店ではないのだ。

■それなら講談社に対しても執筆拒否すべきだ

40万部を超えるベストセラーになったケント・ギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(+α新書)を出した講談社も、「講談社ともあろうものがなぜ」と批判されている。

だが、かつて私も在籍していた講談社という出版社は、戦時中、陸軍や海軍と組んで膨大な戦争協力雑誌を出して大儲けした出版社である。

付け加えれば、「我が大君(おほきみ)に召されたる 命榮(は)えある朝ぼらけ」で始まる軍歌「出征兵士を送る歌」は、大日本雄辯會講談社(だいにっぽんゆうべんかいこうだんしゃ)(当時の社名)が陸軍省と提携していた九大雑誌で読者から公募したものである。

小学館に執筆拒否するという筆者たちは、戦時中の反省も十分にしていない講談社に対しても執筆拒否すべきだと、私は思うのだが。

今一つ、ポスト批判の中で気になることがある。9月5日付の朝日新聞が、ポストの問題で広告を載せた新聞の責任を問う声も上がっているとして、朝日の広報部が、「出版物の広告については、表現の自由を最大限尊重しながら審査・掲載しています」と答え、広告のあり方を今後考えていくとしている。

■ポスト批判をきっかけに、新聞が「事前検閲」を強める恐れ

私は週刊現代の編集長時代、新聞は“事前検閲”していると猛抗議をしたことが何度かある。

新聞広告は、発売の数日前に出さなくてはいけない。それを見た朝日新聞が、性表現、自社の都合の悪いことを書かれた記事(これは他社も同じ)、皇室に関する記事では、「表現を直せ」「直さないならそこだけ白地で出す」といわれたことが何度かある。

今回、ポスト批判をきっかけに、新聞が“事前検閲”を強め、思想信条についての雑誌タイトルにもクレームを付けてくるかもしれない。要注意である。

ポストは次の号(9/20・27)で、「韓国の『反日』を膨らませた日本の『親韓政治家』たち」という巻頭特集をやってきた。

その中で、先の「お詫び」も掲載している。内容は、河野一郎、岸信介、佐藤栄作など、親韓といわれた政治家たちは、「その場限りの利権や贖罪のための友好」(ポスト)だったため、政治家同士による真の友好関係が成り立っていなかったとし、「安倍首相と文大統領の双方が彼我の外交政策を振り返り、両国の関係を見直すことに気づいてこそ、新たな外交が始まる」(同)と、至極まっとうな内容である。

■各局のワイドショーでは嫌韓暴言が乱発されている

嫌韓ムードを週刊誌や一部の雑誌が煽っているという面はたしかにあるが、ポスト、新潮、文春を全部合わせても、読者数は100万に届かない。

影響力でいえば、テレビが圧倒的である。そのテレビのワイドショーでも嫌韓発言が相次いでいる。

韓国へ行った日本女性が、韓国の男に乱暴されている映像を見て、「日本男子も韓国女性を暴行しなけりゃ」と『ゴゴスマ』(CBCテレビ)で発言した武田邦彦中部大学特任教授の発言は、人間として恥ずべきであるが、各局のワイドショーではそれに近い嫌韓暴言がバカなコメンテーターたちから度々飛び出しているのである。

そんな中で、いまや『報道ステーション』よりも、テレ朝の報道の「顔」になったと持て囃されている『モーニングショー』(以下、『モーニング』)でも同様のことをやっている。

世間ではテレ朝の社員でありながら、割合、ズバズバとモノをいうと、玉川徹の評価が高いようだが、私は懐疑的だ。

■「タマネギ男」の疑惑を1週間以上も繰り返している

私は、毎朝、飯を8時過ぎに食べるので、フジの『とくダネ!』とテレ朝の『モーニング』を交互に見ることが多い。

9月5日の『とくダネ!』は香港の民主派女性幹部・周庭(22)をインタビューしていたが、チャンネルを『モーニング』に回して、思わず「まだやってんのかよ」と声が出た。

「タマネギ男」こと、前・大統領府民情首席秘書官の曺国(チョ・グク、54)の疑惑をまたやっているのだ。

この原稿を書いている時点で、1週間以上連続してやっていた。

写真=EPA/時事通信フォト
2019年8月22日、韓国の文在寅大統領から法相に指名されたチョ・グク、前民情首席秘書官(中央)。このあと9月9日に正式に任命された(韓国・ソウル) - 写真=EPA/時事通信フォト

日韓関係が戦後最悪といわれる中で、チョやその娘たちの不正入学疑惑や、蓄財疑惑をこれだけやる意味は何だろう。番組のCP(チーフプロデューサー)ならこういうだろう。「視聴率がいいんですよ」と。

ワイドショーは「ナッツ姫騒動」や朴槿恵前大統領と友人の崔順実の収賄事件の時も、連日、面白おかしく取り上げていた。

■ムダに国民感情を煽っているのは誰なのか

今回のチョ・スキャンダルも、だから韓国という国は度し難いという論調である。これを見ている視聴者が韓国好きになるはずはない。反韓とはいわないまでも、嫌韓人口を増やしていることは間違いない。

9月5日(木曜日)は、チョの話題に続いて、ポストの嫌韓記事を取り上げ、玉川徹が司会を始めた。

タイトルは「緊急特集 嫌韓感情とメディアの関係とは」。コメンテーターたちと玉川が、「週刊誌を売るためにやっている」「あの企画は小学館の上のほうからやれといわれたそうだ」「韓国を叩くことが愛国心」と口々にいった後、玉川がこう締めた。

「メディアに関わっている人間は、ムダに国民感情を煽ってはいけないと、僕は思う」

オイオイ、それって天ツバじゃないのか。

チョ・スキャンダルをやるのはいい。だが、1週間以上、毎日1時間もやるのは、嫌韓ムードを煽っているのではないのか。私はポストと五十歩百歩だと思うのだが、玉川に聞いてみたいものである。

■国民は「いい加減にしてくれ」と怒り心頭

北方領土は戦争で取り戻せと発言して顰蹙を買った丸山穂高という衆院議員(大阪19区)が、今度は竹島を戦争で取り返すしかないという問題発言をした。

「やりたきゃ、お前が竹槍を持って戦争してこいや」

私はそう思うが、怖いのは、そうした「ホンネ」に同調する層がわずかだが存在することである。そのわずかな人間たちが、SNSで「いいね」を安売りし、拡散していくのだ。

メディアやSNSに煽られた結果が、日本経済新聞の世論調査にあらわれている。8月30日~9月1日の世論調査によると、韓国向けの半導体材料の輸出管理を強化したことは「支持」が67%で「支持しない」が19%だった。韓国との関係について「日本が譲歩するぐらいなら改善を急ぐ必要はない」と答えた人も67%に上った。

私は、これは安倍首相に対する国民の批判の声ではないかと考えているのだが。トランプ米大統領の靴でもなめるがごとき土下座外交、ロシアのプーチンには騙され続け、中国の習近平からは三等国扱いされている安倍首相に、国民は「いい加減にしてくれ」と怒り心頭なのだ。

そこに、参議院選目当てに韓国強硬策を安倍が打ち出し、安倍首相御用達のメディアが煽ったものだから、欲求不満のはけ口として今回のような韓国バッシングが起きたのである。

■日韓紛争は、トップ同士が話し合わないうちは解決しない

現在、メディアの多くは、権力の暴走をチェックする役割を果たさず、権力側のリークする情報を裏も取らず垂れ流すことだけに熱心だ。

7割近くが韓国への強硬策を支持しているというのは、その“成果”である。

『週刊文春』(9/12号)も、「文在寅の自爆が始まった」、『週刊新潮』(同)も「韓国大統領の『玉ねぎ男』大臣任命強行で検察が法曹を逮捕する日」という特集をやっている。

だが、他国のことにかまけている場合ではない。米中の経済戦争の影響で日本株は乱高下し、円高が進んでいる。

こんな中で10月には消費税が10%に増税されるというのに、安倍首相は国会を開かず、外遊と称して逃げ回っている。

景気後退、年金問題、消費の落ち込みについて、安倍首相は説明責任を果たそうともしない。自民党には、そんなトップに物申す人間もいない。このお粗末な政治状況を放置しておいて、韓国を難じるこの国のメディアは、どういう神経をしているのだろう。

民主化運動を闘ってきた文大統領と、軍事独裁政権時の朴正煕から、1965年の日韓国交樹立を裏で主導したと勲章を授与された岸信介を祖父に持つ安倍首相では、水と油であろう。

だが、嫌な相手だから会わないというのでは国のトップとしては失格である。徴用工問題に端を発した今回の日韓紛争は、トップ同士が話し合わないうちは解決しない。それを後押しするのがメディアの役目であるはずだ。

戦後最悪といわれる日韓関係の中で、両国のメディアの力量も試されている。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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