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女子大生が1人でも安心して眠れた「成田の夜」

プレジデントオンライン / 2019年9月10日 19時15分

画像提供=小関 涼々

台風15号の影響で、千葉県の成田国際空港は「陸の孤島」となり、9月9日の夜は1万7000人近くが取り残された。プレジデントオンライン編集部でインターンをしている21歳の大学生も、そのひとりだった。空港で一夜を過ごすことになった彼女は「1人だったが、不安はなかった」と振り返る——。

■22時ごろに「上海」から一人で帰国したが…

9月9日22時ごろ、成田空港第一ターミナルに到着した。中国・上海での2泊3日の旅行を終え、一人で帰国したところだった。上海を発つ前に、日本にいる家族から「成田が陸の孤島になっている。今日は空港から帰れないかもしれない」という連絡を受けていた。

飛行機を降り、荷物を受け取る。特に混乱した様子はない。もう電車が復旧したのだろうかと思いつつ到着ロビーに出ると、そこは人であふれかえっていた。地面に座り込む人、旅行会社のカウンターでなにかを尋ねる人、電話を掛ける人。外国人観光客、家族連れ、サラリーマンなど大勢の人でごったがえしている。

空港から出る方法はあるかとサービスカウンターの人に尋ねると、電車が一部動いているらしいが詳細はわからないので、地下1階の鉄道の乗り口まで行って自分で確認してほしいとのこと。鉄道乗り場の標識を頼りに地下に降りようとしたが、人がたまっていてどこに階段があるのかすら確認できない。

■コンビニの店員は延々と続く列を、手際よくさばいていた

人混みを避けて通路の奥に進むと、比較的人が少なくなり、エスカレーターで降りることができた。地下1階は、鉄道に乗ろうとする人でごったがえしていた。乗り場の入り口で足止めされているらしく、駅員がどこにいるかもわからない。

画像提供=小関 涼々

隅の方には、地面に座ってカップラーメンを食べている女性2人組や、缶チューハイを片手に楽しそうにしゃべっている南米系のカップル、アイスを食べる欧米系の男性たち。この階にはコンビニがあり、そこで食料を調達したらしい。

コンビニには長い列ができていて、皆カップ麺や飲み物を抱えている。たくさんの食べ物をかごに入れ、家族に電話してこれで足りるだろうかと確認している人もいる。

中に入ると、棚にはほとんど商品が残っていない。おにぎりや弁当類は一切なく、ホットスナックのケースには使用済みのトングだけが残っている。棚の奥の方にあった飲み物とお菓子を手にとり列に並ぶと、前に並んでいた女性は日本酒の一升瓶をかごに入れているのが目に入った。店員は延々続く長い列に疲れているようだったが、手際よく客をさばいている。店員に会計をしてもらい、コンビニを出た。

画像提供=小関 涼々
空港内のコンビニには、ほとんど商品が残っていなかった - 画像提供=小関 涼々
画像提供=小関 涼々
サンドイッチやおにぎり類は売り切れていた - 画像提供=小関 涼々

■泣く女性、パソコンを開く人、腕立て伏せを始める人…

とりあえず鉄道を待つ人の列に並んだ。後ろの女性2人組はレンタカーを借りて帰ろうかと話し合っている。館内アナウンスが、電車が来ても乗り切れない可能性があること、地下1階から5階までを利用客に解放していることを伝えている。しばらくたっても列が進まないので、いったん上の階に上ってみることにした。

エスカレーターは止まっていて、どれが上りなのかもわからない。エスカレーターを下る人をよけつつ、スーツケースを持ち上げて上の階を目指す。2階まで上ると、壁際は地面に寝る人や座り込む人で埋まっている。通路の真ん中に、銀色の四角くて大きい缶が20個くらい置かれていた。「水とクラッカーをどうぞ」と書かれた紙が貼られていたが、中はすでに空っぽだった。水の入ったペットボトルだけが乱雑に置かれている。

見回すと、パソコンで作業する人、出口付近をうろうろする人がいる。地面に座って泣いている女性がいるかと思えば友達とはしゃぐ人、腕立て伏せを始める人もいる。壁際に空いているところを見つけ、スーツケースの上に座りスマホを開く。充電が切れそうになっている。あいにく持っていた充電コードは壊れていて充電できないので、この後に備えてスマホをしまった。

■「水」と書かれた段ボールを人だかりが取り囲んだ

アナウンスが流れ、今日の電車・バスはすべて終了したことが告げられた。翌朝すぐに電車に乗れるよう鉄道乗り場の近くで眠ろうと考え、寝る場所を探しに地下1階へ行った。鉄道の入り口はシャッターが閉められ、明日の朝4時半に開けられるとアナウンスされていた。

乗り換え検索アプリで調べてみると、乗ろうと思っていた京成本線の始発は、通常通りであれば5時17分だ。シャッターの前にもたくさんの人がいて、疲れ切ってぐったりと階段に座っている人がいる。私はシャッターから離れ、エスカレーター脇にスペースを確保できた。

残していた荷物を取りに2階へ戻ると、通路の真ん中に人だかりができている。近づいて近くの人に尋ねると、空港職員が利用客に寝袋を配るのを待っているとのこと。まもなく大きい台車を押した空港職員が現れた。「水」と書かれた段ボールと四角い銀色の缶が積まれている。台車を追うように人だかりが動き、取り囲んだ。

混乱を避けるためか空港職員はなかなか箱を開けようとしない。館内放送で、空港で夜を明かす人のために空港内の数カ所で水、クラッカー、寝袋を配布するというアナウンスが流れた。なかなか配られそうにないので私は荷物を回収して地下に戻った。

■「空港の職員さんは本当にえらいね」

地下1階のエスカレーター脇にはたくさんの人がいる。寝袋を2つ抱えた女性が夫のもとに戻ってきた。「寝袋をもらおうとする人が大勢いて大混乱だったが、なんとかゲットできた」と、楽しそうに話している。

ふと下を見ると、コンセントがあり、スマホの充電コードがささっている。そばにいた男性に「少し借りてもいいですか?」と聞くと、快くOKしてくれた。彼は仕事で上海から帰国したところで足止めを食らったらしい。

その男性が、近くにいた日本人女性、外国人の男性、そして私の分の寝袋を取りにいくと申し出てくれた。外国人の男性は音楽を聞き自分の世界に入っている。男性の帰りを待つ間、女性と話をした。彼女は会社の休みを使ってイタリアを旅行していたという。夕方ごろに成田空港に着いてしまい、ホテルを探したもののすでに満室で、仕方なくここで過ごすことにしたらしい。

しばらくすると男性が4つの寝袋を持って戻ってきた。男性にお礼を言うと、「空港の職員さんはきちんと対応して本当にえらいね」と言ってまたどこかへ行ってしまった。寝袋に入り、夜1時ごろに眠りについた。

■「1人で一夜を過ごしたが、不安はなかった」

翌朝4時過ぎ、周りがさわがしくなり目が覚めた。4時半に鉄道の入り口のシャッターが開くということで、人が移動し始めていたのだ。寝袋を片付け列に並ぶ。

4時半になり、ゆっくりとシャッターが開けられた。シャッターをくぐるようにして人々が鉄道の乗り場に向かっていく。私も後ろの人に押されるようにして乗り場に向かった。まだ人はあまりおらず、列の2番目だった。

同じ列にいた男性が前に並んでいた外国人のカップルに英語で話しかけ、目的地への行き方を教えたりホームに流れる放送を翻訳して伝えたりしている。となりの列の女性は会社に電話し、10時ごろには出社すると話していた。

電車が到着し、帰路につく。

成田空港で1人で一夜を過ごしたわけだが、不安はなかった。声を荒らげることなく丁寧に対応する空港職員、外国の地で空港に閉じ込められたというのに冷静な外国人観光客、互いに声をかけ合う利用客。おおむね皆この状況を受け入れ、ある種の一体感があったように感じる。

さまざまな国からさまざまな理由で成田空港にやってきて偶然ここに居合わせた人々は、次の目的地に向かっていった。

(プレジデントオンライン編集部 取材協力=小関 涼々)

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