橋下徹「トランプさんの悪役キャラは演出だ」
プレジデントオンライン / 2019年9月17日 11時15分
※本稿は橋下徹『トランプに学ぶ現状打破の鉄則』(プレジデント社)の「CASE1」から一部を抜粋したものです。
■成功している事業家に「バカ」はいない
トランプについては、学者やコメンテーターなどいろいろな「自称インテリ」が、大統領就任以来ずっと「バカだ」「あいつはむちゃくちゃだ」と批判している。でも、僕はトランプを評価している。トランプのおっちゃんの言動には「現状打破の鉄則」が詰まっているんだ。
僕自身をトランプと並べるつもりは毛頭ないけど、僕が政治家時代にやってきたこととトランプが今やっていることには共通点も多い。僕やトランプが「破壊者」として求められた時代の状況も似ている。だから、一見むちゃくちゃな彼の行動が、膠着した現状を打破するためにどんな考えから導き出されているか、僕は自称インテリよりも理解していると自負している。
まず、トランプはバカじゃない。僕はアメリカに行って、実際にトランプタワーも見てきた。あのド派手なビルの趣味がいいとは思わないけど、浮き沈みはあっても不動産業であれだけ成功するのはすごい。誰にでもできることじゃないよ。そして、成功している事業家に「バカ」はいない。
彼の自伝を読む限り、ものすごいハードワーカーで勉強家でもあるようだ。そして、後述するけど、トランプの発言、態度振る舞いは、実践的交渉術として非常に戦略的でもある。
■安倍首相「トランプ氏はゴルフでも礼儀正しかった」
それに、トランプはむちゃくちゃな「礼儀知らず」でもないらしい。そもそも、トランプと実際に会ってある程度しゃべったことがある「自称インテリ」って、ほとんどいないんじゃないかな。会ったこともないのに、アメリカのメディアのバイアスのかかった報道を見て、「あーだこーだ」と偉そうに言ってるだけ。
僕は、安倍晋三首相から「トランプ氏はゴルフでも礼儀正しかった」と直接聞いたし、安倍さんが大統領選直後にトランプタワーを訪れたとき、警備上の安全性を無視してまで安倍さんを1階まで見送ったトランプの姿を映像で見ている。彼が「政治家」というより「ビジネスパーソン」だから、客を丁寧に送り出すことが習慣になっているのかもしれないけれど、ここまでする大統領はなかなかいないよ。
大前提として、トランプが醸し出すあの「悪役感」は間違いなく彼の演出だ。悪役キャラで通すことには、大きく2つのメリットがある。
1つめは、人に強いインパクトを与え、自分のメッセージを世間に広く浸透させられること。
政治家は、無名よりも有名であるべし。自分のメッセージをより多くの人に伝え、より多くの人に支持されてナンボの世界だ。いくら「いいこと」を言っていても、誰も聞いてくれなかったら、それを実現しようがない。だから、自分の政策を実現するために、多くの支持を受けられるよう、ある程度の「演出」をするのは当然だ。ただし、自分の今の地位を守るために、保身の意味でイメージづくりをするのは言語道断だけどね。
小池百合子さんが都知事選のときに打ち出した、「都議会冒頭解散」というメッセージもそうだし、その後大騒ぎした築地市場の豊洲移転延期の件やオリンピック会場の再検討の件も、狙っているのは「インパクト」。
「善人」として強いインパクトを与えられれば、そりゃもちろんそのほうがいいけど、善人イメージをつくるには時間がかかるし、何より難しい。トランプはテレビに出演していたこともあるから、その経験からイメージづくりについて学んでいる部分も大きいかもしれないね。
僕のテレビに出ていた経験からすると、芸能人でも毒舌の「悪役演出」をしている人は結構多い。でも、テレビに出ていないときの顔は、みんなとても知的で、礼儀知らずでもなんでもない。本当に悪い奴だったら、テレビ業界になんか残っていられないよ。
2つめは、実際に会ったときのギャップによって「交渉力」が上がること。
ガンガン言う「悪人キャラ」の人が、実際に会ったときに愛嬌のあるところを見せると、それだけで多くの人はほだされてしまう。「実はいい人なんだ!」ってね。現状を打破するための交渉の基本は、「脅し」「利益・譲歩」「お願い」。
最初に悪人キャラを強烈に出すと、そのあとちょっと「善人」な部分を見せるだけで、相手は結構安心するし、ホッとする。それだけで相手は利益を得たように感じてしまうんだ。これを「仮装の利益」という。
こちらはなんの持ち出しをしなくても、相手が勝手に利益を感じてくれるんだから、やらない手はない。
僕も若い頃は茶髪にジーパンで、無理して(笑)頑張っていたけど、それもある種の演出だ。茶髪なんて、よく考えたらどうってことないのに、当時は、弁護士が茶髪にするだけでちょっとした話題になったんだ。あの頃は、その出で立ちで少し敬語を使っただけで「礼儀正しいんですね」と評価されたり、「よく笑うんですね」と喜ばれたりもしたね(笑)。
■あえて大統領と閣僚がバラバラの意見を述べる理由
トランプも、パーティなんかで会うと、一緒に写真を撮ってくれたり、サインをしてくれたり、ものすごく愛想がいいらしい。一国の大統領にそんなことされたら、「実はいい人なんだ!」って有権者がほだされちゃうのは当然だよね。
トランプは、2016年11月に安倍首相がトランプタワーを訪問したときにもそれをやった。それまで日本をバッシングしまくっていたのに、安倍さんと会ったらそんなことはまったく言わないんだ。見事だよね。
そういうところで交渉相手と強い人間関係をガシッとつくるから、何かあったときにお互いに譲歩する土台ができる。これは、理想論ばかりだったオバマ前大統領に足りなかった部分だ。
トランプは、世界各国の弱い部分=急所を見つけ出して、ツイッターなどでそこを突いてくる。でも、直接会ったときには、そんなことおくびにも出さず、旧くからの友人のように振る舞う。そうすると、それだけで相手は勝手に「利益」を得たと感じてくれる(仮装の利益)んだから、すごい交渉力だよ。日本も中国も、トランプのこの手にすっかり乗せられてしまっているね。
トランプの交渉術としては、次のようなものもある。
まず、トランプと閣僚や側近たちの発言が、いちいち一致していないんだ。これを「トランプは政治の素人だから、組織内の調整や政治的な調整もせずに思い付きで言い放っているにすぎない」と見る人もいる。だけど、僕はそうじゃないと思う。トランプは根っからのビジネスマンだから、ポーカーをするように世界を攪乱しているんだろう。
たとえば、トランプが不法移民阻止のため、メキシコとの国境に「メキシコの費用負担で壁を築く!」と言えば、閣僚や側近たちは「そんなことはしない!」と言う。また、トランプが「イスラエルのエルサレムに大使館を移す」と言ったら、「いや、そんなむちゃなことはさせない」と閣僚や側近たちから反論が出た。こんな例は山ほどあって、両者の発言は見事にバラバラだ。
でも、これが対外的には威力を発揮する。トランプと閣僚や側近たちの意見が一致していないということは、結局どちらに落ち着くのかが、相手にはわからないからだ。たとえば「国境の壁」についても、アメリカは「建設しない」「建設する」、どちらのカードも持っているということになる。そうすると、メキシコも画一的な対策を練ることができない。よく考えているなと思うよ。
■善人に見える政治家もほとんどはただの「善人キャラ」だ
そもそも、むちゃくちゃな奴だと相手に思われていたほうが、何かと便利だということもある。文春の異性スキャンダル報道を見ればわかるけど、何かあったとき、もともと「いい人だ」と思われてた人のほうがダメージは大きい。少し古い話になるけど、乙武さんやベッキーさんがいい例だ。逆に、芸人さんや歌舞伎役者さんは、もともと「そういうことするだろうな」と思われがちだから、多少驚かれたりはしても、批判はそれほど出ない。
もちろん、政治家は、基本的には善人じゃないと票や支持率が増えないから、トランプみたいなことができる人はほとんどいない。でも、トランプははじめから悪役キャラで票を集めて、あのヒラリーに勝って、アメリカ大統領になった。インパクトでも交渉力でも、これほど強い人はいない。
ちなみに、僕がこれまで会ってきた政治家で、本物の善人なんかほとんどいないよ。「命をかけて日本を守る!」なんて感傷的なセリフを言う人は多いけど、ほとんどはただの「善人キャラ」なんだよね。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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