LINEが「出会い系掲示板」を作った戦略上の背景
プレジデントオンライン / 2019年9月17日 6時15分
■「友だち」でなくてもグループが作れる新機能
8月19日にLINEがスタートした新コミュニケーション機能「OpenChat」は、大きな混乱とともにスタートした。スタートと同時に「出会い系」「アダルト」などの未成年が利用すべきでないチャットルームが作られ、いきなり無秩序な状態になってしまったのだ。
ネットでのコミュニケーションサービスにおいて、未成年の保護は重要な課題。各社とも、未成年がトラブルに巻き込まれないよう、さまざまな施策をとってきた。だが、そうした対策には積極的だったはずのLINEが、いきなり、20年前に逆戻りしたような無秩序なサービスを作ってしまった。
LINEはなぜこのようなサービスを作ったのか? そして、どこに誤算があったかを考えてみたい。
LINEの「OpenChat」とは、LINEが持つ「グループトーク」機能を拡張したようなものだ。グループトークでは、LINEでの友だち同士がグループを作り、多人数で会話を楽しむことができる。
それに対してOpenChatは「オープン」という言葉が示すように、友だち同士でなくても、自分の素性を明かさなくても会話ができるチャットルーム(最大5000人まで参加可能)を、自由に作ることができる機能である。
自分の素性を明かさずに自由にチャットルームを作れるということは、そこに参加するのは「不特定多数でもいい」ということになる。誰もが検索した上で参加できるチャットルームを作ることもできるし、SNSなどを介して「誘う」こともできる。
■ユニークなものがある一方、性犯罪につながるやりとりも
結果どうなったか?
まさに「オープンなチャット」になったため、あらゆる話題のチャットルームが出来上がった。ひたすら「セミ」のまねをするチャットルームや、存在しない学校のクラスと見立てて「クラスの会話」を模して楽しむチャットルームなど、ユニークなものも生まれた。もちろん、ゲームやアイドルなど、好きなものについての話題を共有するものもある。
だが、同時に「未成年が利用するには不適切なチャットルーム」も多数生まれた。援助交際の情報を交換するチャットルームや、アダルトな写真などを貼り付け合うチャットルームがそれに当たる。
LINEのチャットが、まるで少し前のインターネット上の大規模掲示板のように、なんでもありで無秩序な場になったのだ。
もちろん、LINEも対策は講じている。不適切なメッセージの自動削除や、未成年のチャットルームへの参加制限など、今も対策は続いている状況だ。
だが、である。
「オープンにチャットができる場」を作ることで、そこが無秩序になることは容易に予想ができたはずだ。なのにLINEの対策は後手後手に回っている。
■利用者は「複数のアイデンティティー」を使い分けるように
そもそも、LINEはなぜこのようなサービスを開始することになったのか? それは、LINEというコミュニケーション手段が多様化したからに他ならない。
OpenChatは、6月28日にLINEが開催した年次プレスイベント「LINE CONFERENCE 2019」で発表された。
LINEがそこで説明したOpenChatの導入理由は「LINEが親しい人との間だけのツールではなくなったから」だった。
例えば会社の出退勤連絡、マンションの管理組合の連絡、PTA活動のコミュニケーションなどがそれに当たる。LINEは「利用者自身」が誰かを明かして使うコミュニケーションツールだった。本人が誰かが分かっているから安心だった部分があるが、LINEが広がり、世の中での使われ方が変化していくと、ひとつのアイデンティティーだけでは使いにくい場面が出てくる。
上級執行役員LINEプラットフォーム企画統括の稲垣あゆみ氏は、OpenChat発表の場で、「複数のアイデンティティー」が必要な場として「保育園のLINEグループ」を挙げた。
LINEは個人のアカウントなので、彼女は娘さんの保育園のLINEグループに、自分の名前で登録している。だが、参加している園児の親同士の間では、「園児の名前」は覚えていても、親の名前は必ずしも覚えていない。その場でのアイデンティティーは、あくまで「○○ちゃんのママ」であり「○○ちゃんのパパ」だからだ。
■“匿名掲示板”化するのを予想した人は少ないはず
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/d/670/img_bd9e57076683e4a496d4a3b7194a46dc2652980.jpg)
そのためLINEは、LINEアカウントに紐(ひも)付いていながらも、チャットルームごとに自分の本名に紐付くものだけでない、親しい間柄だけでない、別のアイデンティティーを持つことができる場を必要としていた。これは、Twitterで若者が複数のアカウントを所属するコミュニティーごとに使い分けているやり方に近い。
その上で、チャットルームを作った「管理者」が、入れる人や過去のトークをさかのぼれることの可否を決められるようにもした。特定の議題について話し合う「場」としてのコントロールをしやすくするためだ。
この発表の段階で、LINEのOpenChatが「匿名性の掲示板」のように使われると予想した来場者は少ないはずだ。狙いはあくまで、「LINEを軸にして複数コミュニティーへの帰属とアイデンティティーの使い分け」をすることだ、とされていたからだ。
■「未成年が利用すべきでない場所」としてもいいのでは
LINEとしても、「匿名性の掲示板」的なコミュニティーになることは想定済みだったようだ。だが、現実にはそうはうまくいかなかった。想定以上に野放図な利用を促してしまった、というのは想定外だったのかもしれない。
取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏は、OpenChat開始後に、Twitterで次のように発言している。
「オープンチャット、ネット原始を思い起こさせるコミュニティーと受け取ってもらえてますね。若いコたちからすれば新鮮な体験かも。ニックネームだからこその気軽さ。トークだからこそのレスポンス。一方、その世界を守るためには一定のルールが必要です。下記の運営方針で適切に対応していきます」
今の30代以降ならば、「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)に代表される「匿名掲示板」の世界を知っている。だが、人々のコミュニケーションの中心がSNSになった現在、掲示板全盛期の自由闊達(かったつ)さを体験したことのない若者がいても不思議はない。
一方で、LINEはやはり、コミュニケーションプラットフォームとして大きな責任を持つ企業だ。LINE上でのコミュニケーションの悪用対策が続けられてきたのと同様に、OpenChatも悪用対策が必要だ。そのことは彼らもよく分かっているだろう。
一方で、年齢確認や年齢認証は、もっと厳しくてもいいのではないか。OpenChat自体を「未成年が利用すべきでない場所」と位置づけてもいいのではないか。
こうした状況の中で、どのようなバランスのサービスにしていくかが問題だ。筆者としてはやはり、「未成年層に利用をオープンにする」よりも、それなりの規制を設けた方がいい、という立場だ。LINEはこれから、OpenChatという場をどのように扱っていこうと考えているのだろうか。
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ジャーナリスト
1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。
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(ジャーナリスト 西田 宗千佳)
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