あのシャンプーハットが50年ぶりに加えた機能
プレジデントオンライン / 2019年9月25日 17時15分
■変えてきたのは「キャラ」と「色」だけだった
9月24日、ピップが新しい「シャンプーハット」を発売した。シャンプーハットはピップが開発した商品だが、1969年の発売開始以来、形状に変更を加えるのは初めてだ。
この形状は「開発担当者が『トタン屋根を流れ落ちる雨』から思いついた」(ピップ広報部)という。発売から20年間は意匠で守られていたが、意匠が切れると各社が参入。「なぜか商標を取得していなかった」ということで、各社が同じ名称を使ったことから、結果的にシャンプーハットという商品名を誰もが知るようになった。
形状は発売当初から変わっていない。定期的にパッケージと本体にあしらうキャラクターと色を変えるだけで、50年の歴史を積み重ねてきた。「子供の顔に水がかからないようにする」というニーズには、それだけ根強いものがあるということだろう。
松浦由治社長は、「シャンプーハットはエレキバンよりも古く、ピップのブランドを代表する商品」と話す。
「シャンプーハットは現存する商品のなかでは最も歴史が古い。日本では今でも年間100万人弱の子供が生まれており、少子化といっても安定的な市場がある。リニューアルに取り組む価値があると思った」(松浦社長)
■知っているけど使わない家庭が増えていた
しかし、ここ数年は、商品の存在を知っていながらあえて使わない家庭も増え始めている。ピップがシャンプーハットの商品認知率を調査したところ、2017年の認知率は75%、使用経験率は23%だった。抽出条件は異なるものの、2010年の認知率は90%、使用経験率は28%。スコアが徐々に減少していることがわかる。
※2010年は20~50代既婚、0~8歳の子供がいる男女9699人、2017年は20~40代既婚、7カ月~3歳の子供の母親2745人に調査。
これらのデータ収集に役立ったのが、マーケティングを商品開発に活用する取り組みだ。ピップの親会社であるフジモトHDでも、昨年から「消費者起点のマーケティングカンパニーを目指す」という方針を掲げている。
■オリジナル商品も仲介商品もゴールは同じ
ピップにはシャンプーハットやピップエレキバンなどの自社商品があるとはいえ、主軸は取引先の商品を小売店に仲介する卸売業だ。そんななか、なぜ消費者を意識したマーケティング手法を導入したのだろうか。松浦社長はこう語る。
「弊社のオリジナル商品も、卸売業者として仲介した商品も、最終到達点は同じ。店頭やインターネットを通して消費者に届く。商品を単品で販売するべきか、カテゴリーとして届けるべきか、どのようなアプローチが響くのかをわれわれが考えなければ、購買にはつながらず、消費者に喜んでいただけない。そのため、卸売りとして扱う商品にもデータを活用したマーケティングの手法を取り入れるという高度な挑戦に踏み切った」(松浦社長)
同社では現在、自社製品と他社製品の垣根を越えて店頭で商品を展開し、小売店の売り上げに貢献する提案を進めている。例えばシャンプーハットの場合は、卸売りの商品として扱っている他社開発のタオルやシャンプーと組み合わせているそうだ。メーカーにはできない、卸売業社ならではの提案である。
■給湯室にマネキンを持ち込んで実験を繰り返した
リニューアル担当者、商品開発事業本部の相良裕子氏が発売50周年に向けたシャンプーハットの改良を任されたのは、2017年11月のことだった。50周年となる2019年まで、約1年。当初は子供が遊べるようシャンプーハットから音や光が出るなど、現行品に装飾を加える方向で進めていたが、値段が3〜4倍に上がってしまう。当時販売されていたシャンプーハットの定価は550円。3倍となれば1700円近くなる。そこで2017年12月に調査を行い、シャンプーハットを使用しない家庭に理由を聞いた。
すると浮かび上がったのは、「早く水に慣れさせたい」という親心。子育て関連のサイトには「泣いて嫌がったとしても、水嫌いにならないように頭からお湯をかけるべき」という意見も出ていた。
そこで相良氏が考案したのが、「水嫌いを卒業する」というコンセプトだ。ハット部分の幅を調整するなど、さまざまな形状を試し、最終的に「シャンプーハットに穴を開ける」という奇策にたどり着いた。穴の位置やサイズを調整して作った試作品は、約200枚。自宅に持ち帰ってわが子にかぶせ、社内ではマネキンの目元にカメラを設置して、最適な形状を研究した。時には会社の給湯室を占領し、水浸しにしたこともあるという。
1年の開発期間を経て、2019年春には保育園でモニター調査を行った。約8割が「気に入った」と回答。「穴から水が落ちているのを子供が楽しそうに見ていた」「子供が気に入っているので返したくない」など、商品を高く評価するコメントが多数寄せられた。
■エレキバンに続くオリジナル商品を作りたい
人口減少が続く現在の日本において、卸売業界を取り巻く環境は今後厳しさを増す。現状維持はできても拡大は難しい。そんな状況に立ち向かうため、同社は今まで以上に開発に力を入れるという。一つは自社のオリジナル商品、もう一つはメーカーとのコラボレーション商品だ。松浦社長はこれからの展開についてこう語った。
「新商品を開発して販売する方向に少しずつ変えていかなければならないと思っている。シャンプーハットやエレキバンに続く、ピップのブランドを代表するようなオリジナル商品を開発し、さらに他社とのコラボレーションではスピーディーな商品開発を目指す。双方を強化するなかで重視していきたいのは、消費者起点のマーケティング。お客さまのニーズや困りごとを収集し、社員の想いとともに商品開発につなげていくことが大事。それが弊社の生きていく道だと思っている」(松浦社長)
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ライター
愛知県出身。椙山女学園大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の取材を行う。2016年に独立し、2018年に初の自著『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』を光文社より出版。5刷2万7000部を達成した。現在は2作目を執筆しながら、日経ウーマンオンラインなどで女性活躍、働き方、教育、生活情報を中心に執筆。全国各地の中学・高校・大学や教育講座で講演も行っている。
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(ライター 華井 由利奈)
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