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オロナミンCが8%でリポビタンDが10%のナゾ

プレジデントオンライン / 2019年9月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

10月1日からの消費増税に合わせて導入される「軽減税率」。税理士の芹澤光春氏は、「区分の基準にはさまざまなグレーゾーンがあり、とてもわかりづらい。2%のために、消費者も事業者も負担を強いられることになる」という——。

■「食べられるもの=食品」ではない

消費税率10%への引き上げは過去2回延期されてきましたが、ついに今年10月1日から実施されます。今回の増税では、税率が10%に引き上げられるのに加えて、飲食料品と新聞の譲渡に8%の軽減税率が導入される点が特徴です。ちなみに、10%の税率を「標準税率」といいます。

標準税率と軽減税率の複数税率制の下では、何が軽減税率の対象で、何が軽減税率の対象にはならないのかという区分が重要になります。しかし、特に飲食料品の取引においてその区分が困難なものがあり、混乱が予測されています。

そこで、税率を区分することが困難な、食品販売の際の「グレーゾーン」に属する事例を取り上げて解説することにいたします。

税率区分の基準としては、まず、「消費税法にいう飲食料品に該当するのか」があります。口に入るものでも、消費税法にいう飲食料品にすべてが該当するとは限りません。

飲食料品が8%、それ以外が10%としますと、おまけつきのお菓子など「食品とそれ以外が一体となった商品」はどちらの税率を適用すればいいのかという論点もあります。

また、「食べ物を取り扱っている」という点では同じでも、外食は軽減税率の対象から除かれているので、「外食に該当するか」も重要な判断基準です。

それぞれ、具体的なケースとともにみていきましょう。

■「医薬部外品」は飲食料品ではない

軽減税率の対象の一つは、飲食料品です。しかし、食べられるものが軽減税率の対象といっただけでは、基準があいまいです。例えば虫や野生のキノコなどについて、好んで食べる人もいれば、食べられない人もいることでしょう。そこで消費税法は、軽減税率の対象となる飲食料品を、「食品表示法」という法律で食品とされるものに限定することにしました。

食品表示法とは、販売用の食品について、原産地や賞味期限、保存方法等を表示するように定めている法律です。したがって、食品表示法が適用されるものを軽減税率の対象とすることによって、食品と食品以外の基準を明確にしようしたわけです。

軽減税率が適用されるかどうかのグレーゾーンにあるものを例で挙げてみます。健康食品や、トクホと呼ばれる特定保健用食品は、食品表示法の規定では食品に該当しますので、軽減税率の対象になります。しかし、医薬品や医薬部外品は、食品表示法上の食品には該当しませんので、軽減税率の対象にはなりません。

したがって、清涼飲料水であるオロナミンCは軽減税率の対象で「税率8%」ですが、医薬部外品であるリポビタンDは軽減税率の対象ではないので「税率10%」となります。

■同じものでも販売の目的によって税率が変わる

軽減税率の対象となる飲食料品は、人の食用または飲用のものに限られています。例えばお塩の場合、食塩や食卓塩として販売されているものは、人の食用ですので軽減税率の対象ですが、ボイラーソルトなど、工業用の塩は軽減税率の対象にはなりません。

同様にお米の販売も、すべてが軽減税率の対象になるわけではありません。お米のうち、食用として販売しているものや、せんべいなどの食品の材料として販売されるものは軽減税率の対象ですが、家畜の飼料や、食用ではないのりの材料として販売される場合、あるいは栽培用の種もみとして販売される場合には、軽減税率は適用されません。

注意が必要なのは、日本酒の材料として販売されるお米です。酒類は軽減税率の対象から除かれていますが、お酒の原料として販売されるお米は酒類ではないので除外されません。人の食用(飲用)に用いられるものとして軽減税率が適用されます。

■おまけ付き食品の税率は食品部分の割合で決まる

食品には軽減税率8%が適用され、食品以外には10%の税率が適用になるといった場合、「では、おまけ付きのお菓子のように、食品と食品以外が一体となった商品は、どちらの税率が適用されるのですか」という疑問が生ずることでしょう。

おまけ付きのお菓子や、紅茶とティーカップの詰め合わせなどのように、食品と食品以外のものが一体となった商品を「一体資産」といいます。一体資産は、原則として10%の税率が適用されますが、①商品の価格が税抜き1万円以下で、②食品の価額が全体の3分の2以上である場合には、特別に全体が8%の軽減税率の対象になります。

したがって、おまけ付きのお菓子等の場合、商品に含まれる食品の割合によって、このお菓子は10%、このお菓子は軽減税率8%と、適用される税率が異なることになります。

このため「ビックリマンチョコ」と「プロ野球チップス」でも税率が変わります。ビックリマンチョコは食品の価額の割合が3分の2以上であるため「税率8%」、これに対しプロ野球チップスはおまけの部分の比率が高いため「税率10%」が適用されます。

■ひっくり返した空き箱が「飲食設備」とされる場合も

軽減税率の対象からは、外食が除かれており、レストランや牛丼店等の飲食店で食事をした場合には、外食として軽減税率ではなく10%の税率が適用されます。しかし、牛丼店等の持ち帰り販売、いわゆるテークアウトは、食品を販売しているだけですので、外食には該当せず、軽減税率が適用されます。10月1日からは、ハンバーガーショップなどで店内飲食をすると外食として10%、持ち帰りの場合は食品の販売として軽減税率8%が適用されることになります。

では、外食とは何かですが、消費税法は外食を「飲食設備のあるところで食事を飲食させること」としています。したがって、テーブルや椅子、カウンター等の飲食設備がないお店の場合には、食品の販売はすべて軽減税率でいいのですが、飲食設備がある場合には、持ち帰るのか、その飲食設備で食べるのかを顧客に確認しないと、税率が判断できないことになります。

ここで注意すべきは、飲食設備について、その規模や目的を問わないとされていることです。例えば椅子だけ、机だけ、あるいはカウンターだけといった場合でも飲食設備に該当しますし、ビールの空き箱をひっくり返して椅子として使っているような場合でも、飲食設備に該当する場合があることでしょう。

グレーゾーンの事例として、屋台のたこ焼き店やクレープ店等が挙げられます。これらのお店にテーブルや椅子等の飲食設備がなければ、たこ焼きやクレープの販売は、すべて軽減税率の対象になるのですが、飲食設備がある場合には、持ち帰りか、その飲食設備で食べるのかを確認した上で税率を判断することになります。近くに簡単な椅子等を置いてある屋台の場合などは、注意が必要です。

■税率はあくまで「販売時の顧客の意思」で決まる

外食と持ち帰り販売のグレーゾーンにあるのがコンビニやスーパーのイートインスペースです。コンビニやスーパーのイートインスペースは立派な飲食設備ですので、イートインスペースで食べる場合には外食として10%、持ち帰る場合は軽減税率8%が適用されることになります。

しかし、ただでさえレジに行列ができやすいコンビニやスーパーで、一つひとつの商品について、「これは持ち帰りですか、店内で食べますか」と聞くことは無理です。そこで、このような店舗の場合は、例えば、「イートインスペースをご利用の場合はお申し出ください」といった貼り紙をして確認するといった方法も認められます。

では、持ち帰りだと言って8%で購入したお客さんが、気が変わってイートインスペースで食べたらどうなるのでしょうか。追いかけていって差額の消費税を請求するのでしょうか。いえいえ、そんな必要はありません。税率の判定をするのは、販売時点ですので、販売時に持ち帰りとして軽減税率が適用になったものは、あとで店内飲食していたとしても、税率を変更する必要はありません。

■先生が食べる給食は軽減税率の対象外

食品を単純に販売する場合は軽減税率8%の対象で、レストランや食堂などで食事を提供する場合は軽減税率の対象ではないというのが、10月1日からの新しい消費税の基準ですが、この基準に従うと、学校給食や有料老人ホーム等で提供される食事も、本来は10%の税率が課されることになります。しかしながら、学校給食や有料老人ホームで提供される食事については、特別に軽減税率が適用されると消費税法は定めています。

ここで注意が必要なのは、学校の先生や学校で働く職員さんたちが給食を食べる場合です。先生や学校の職員さんも生徒さんたちと同じように給食を食べることがありますが、これらの食事は軽減税率の対象ではありません。

なぜならば、学校給食とは、学校において児童または生徒に提供されるものを指す用語でして、同じものでも、先生や職員さんが食べる場合には、学校給食ではないからです。同様に、学生食堂や社員食堂で提供される食事も給食ではありませんので、軽減税率の対象にはなりません。

熊王 征秀 、石井 幸子、芹澤 光春、橋詰 悠一、渡辺 章『消費税率引上げ・軽減税率・インボイス〈業種別〉対応ハンドブック〔改訂版〕』(日本法令)

以上のように、軽減税率の対象になるかならないかに関してはさまざまなグレーゾーンがあります。皆さんの印象としては、「なぜ、それで税率が変わるのかわからない」というところでしょう。

ケンタッキーフライドチキンやマクドナルド、牛丼の松屋、すき屋では、顧客と軽減税率の対象になるか・ならないかについてのトラブルを避けるために、本体価格を調整して、店内飲食も持ち帰り販売も税込み価格を統一するそうです。これは経営方針としては良いと思いますが、もともとの軽減税率の目的である「食べ物だけでも低い税率を」という観点からは意味がないと思います。

なぜ、価格を統一しようという企業があるかというと、軽減税率と標準税率の差がわずか2%しかないからです。軽減税率が適用になるかならないかの微妙な判断を強いられる事業者の皆さんにとっては、なぜ2%のためにこんなに苦労をしなくてはならないのかと思われることでしょう。

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芹澤 光春 税理士
1968年生まれ。一橋大学法学部卒業。芹澤光春税理士事務所所長。第34回日税研究賞入選。第10回「税に関する論文」納税協会特別賞受賞。著書に『消費税 重要論点の実務解説』(大蔵財務協会)、共著に『消費税率引上げ・軽減税率・インボイス〈業種別〉対応ハンドブック〔改訂版〕』(日本法令)ほかがある。

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(税理士 芹澤 光春)

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