災害でも会社に向かう日本人の異常な忠誠心
プレジデントオンライン / 2019年9月18日 11時15分
■ニューヨークでは大雪の日は在宅勤務が当たり前
関東地方に上陸し、停電や断水など深い爪痕を残した台風15号。日本からの報道で伝えられる惨状を見るにつけ、ただただ心を痛めている。一方、それとは異なった側面から、懸念を感じざるを得ない映像をも目にした。首都圏の鉄道各社による計画運休を受け、会社に向かうために運転開始を待つ通勤客が長い行列をつくっていた姿だ。
米国で暮らしてみて、驚いたことは数知れずある。そのうちのひとつは、大雪やハリケーンなど自然災害の到来があらかじめ予測されている際、オフィスや学校がクローズになることだ。私が暮らす東海岸・ニュージャージー州は、ニューヨーク(NY)・マンハッタン西側を流れるハドソン川を渡ってすぐのところにある。青森とほぼ同じ北緯40度で、厳しい寒さが続く冬は、50センチをゆうに超える大雪に何度か見舞われる。
前日までの天気予報で、ウインターストーム警報・注意報が出されると、テレビ局は雪関連のニュースを主体とする放送に切り替え、在NY総領事館は現地に住む日本人向けに、メールなどで注意するよう促す。警報・注意報の有無にかかわらず、相当な積雪、暴風雪が予想される場合、会社や学校は前日ないしは当日早朝に自宅待機を命じ、勤労者はパソコンなどを使った在宅勤務に切り替える。
■わざわざオフィスに行く必要がないから
背景には、当然ながら鉄道やバスの運休のほか、道路の大混乱で自動車通勤の人でも出社できなくなるという物理的な事情がある。無理やり社員に出社を強いたところで、仮に事故でもあった際の訴訟リスクを防ぐという面もあろう。そして、最も大きい理由は、自宅勤務を含めた柔軟な働き方が浸透しているため、わざわざオフィスに出向く必要がないということだ。
すべてとは限らないが、長時間労働とは無縁で、1日の就業時間を満たせば、即オフィスを後にするのが米国人の基本的な労働スタイル。管理職も非管理職も同様のマインドを持ち、大規模な自然災害が起きるという時に、あえて出社するという考え自体が始めから頭の中に存在していないということに行きつく。
余談だが、大雪時に避けられないのは、自宅前・横の道路に積もった雪かきだ。これを怠り、仮に通行人がケガでもした場合、訴えてくることもあり得るので注意が必要。訴訟大国の一面を垣間見ることができる。
■電車が運休なのに会社に行こうとする人々
昨年ぐらいから、主に台風の災害が予想される時、日本の鉄道各社で計画運休に踏み切る流れが広がってきている。無理やり運行しても、ダイヤが大混乱するのは目に見えており、運休によって事業者・利用者双方の安全性は保たれる。反面、鉄道会社側は運休に伴う「企業活動や通勤、通学客への影響」を気にしており、「影響人員○万人」などと公表している。
運休で影響が出るということは、あらかじめ運休が分かっていても会社に行こうとする人が多いということだ。言い換えれば、運休が分かっていても、時間通りに行かなければいけない人が多い、ということになろうか。この点、子どもの学校関連で知り合った米国人知人に尋ねてみると「カルチャーの違いが大きいんだね」と一言で済まされてしまった。
■大雪のマンハッタンで日本人駐在員だけ出社
カルチャーの違いとして、どんな点が挙げられるだろうか。なぜ、日本人は大型台風が来ると分かっていても、出社を余儀なくされるのだろうか。または、自ら出社するのだろうか。
世界経済の中心地・マンハッタンには、名だたる日系企業が多数進出し、日本からの駐在員が日々働いている。東京や大阪の本社同様、米国の現地法人が、大雪やハリケーン時に出社を求められるかと言えば、「郷に入っては郷に従え」のごとく、柔軟に対応しているとのこと。金融やメーカー、メディアなどでもオフィスをクローズするほか、自宅勤務や災害時に備えたバックアップオフィスへの出勤が容認されている。
とはいえ、日本人駐在員は染み付いた習性からか、大雪時でも何とかオフィスに向かう人も目立つという。現地採用の米国人社員は基本的に、自宅勤務を選択。オフィスに出勤したところ、ほぼ日本人駐在員だったという笑えない話もあるぐらいだ。
■会社命令がないと、職場に向かってしまう習性
翻って、国内の日本企業に跋扈する風潮として、
②長時間労働=会社に長く残る姿勢が評価される
③台風の中でも会社に通うのは忠誠心の表れ
――といったことが指摘される。これらを全てひっくるめると、横並びで、他人と違うことはしづらい上、評価されないどころか、マイナス査定となりかねない。従って、会社命令でもない限り、台風でも大雪でも職場に向かわざるを得ないという結論にたどり着く。
来年の東京五輪・パラリンピック開催中の混雑を緩和するため、国や東京都、一部の有力企業が時差出勤や自宅勤務の積極活用に向けて、動き出していると聞く。世紀の祭典に向けた取り組み自体は結構な話だが、これからの台風シーズン、大雪の季節に突入していく中、来夏のイベントよりも、目前の事態に向け、一刻も早く柔軟な働き方を導入することが先ではなかろうか。
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米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。6歳の長女、4歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。
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(米国在住・駐夫 コロンビア大大学院客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎 写真=iStock.com)
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