"マウンティング男"の嫉妬をうまくかわす方法
プレジデントオンライン / 2019年9月18日 6時15分
■勝つことで自信が保てるつらい習性
男性同士のマウンティングは、仕事がらみの話題で勃発することが多い傾向にあります。一歩会社の外に出れば通用しない話題なのに、なぜそんなに狭い範囲で勝敗をつけたがるのか。それは、男性の多くが小さい頃から企業社会の立派な一員になるべく育てられてきているからです。
男性は、進学校から難関大学、一流企業へと歩むことがステータスとされ、立派な男性像の一つにもなっています。この学歴社会的な風潮は1990年代で終わったとも言われますが、企業の採用には相変わらず学歴フィルターが存在していて、大学教員をしていると「まだまだ学歴社会は終わっていないな」と実感させられます。
競争原理が支配する男社会では、男性は受験や採用、出世レースなどさまざまな場面で常に勝ち続けなければなりません。そのため、多くの男の子は「勝てる子」になることを目標に育てられます。それが男らしさであり、強さの証明であると教えられるわけですね。このように煽(あお)られ続けた人は、自然と競争意識が強くなり、やがて自分の価値を他者に勝つことでしか確認できなくなっていきます。
■なぜ学歴や職位を競うのか
他者と比べなくても自分に自信が持てればいいのですが、こうした男性はそうはいきません。自信を保つには何が何でも相手に勝つ、つまり相手より自分のほうが上だと実感する必要があります。ここから起きるのがマウンティングであり、立派な企業の立派な一員になれと育てられてきた経緯から、特に学歴や職位などがよく競われます。
彼らは、実力が足りなければ見栄を張ってでも相手に勝とうとします。男性の見栄の張り合いは、はたから見るとおかしいかもしれません。でも、自分の価値を確認するためなので本人たちは必死。優秀で勝ち続けてきた人ほど「負けたら死ぬ」ぐらいの気持ちで臨んでいるのです。
これは、家庭だけではなく社会がそう煽った結果でもあります。マウンティングは確かに見苦しいですが、背景を知れば、そうならざるを得なかった男性たちのつらさが見えてくるのではないでしょうか。
■マウンティングはポイントカード自慢
男同士のマウンティングは、ポイントカードを例にするとわかりやすいと思います。男性は皆1枚ずつポイントカードを持っていて、貯めたポイントを競い合っているのです。彼らのルールでは、出身校や勤務先が一流であればあるほど、また社内での地位が高ければ高いほど、ポイントも高くなります。そして、ポイントが貯まるほど自信も膨らんでいきます。
昭和上司によく見られる“自信家すぎる人”は、つまるところ「オレはポイントをいっぱい持ってる」と思っている人。これが「オレは他の人よりスゴイ」という自信につながり、上から目線を生んでしまうのです。男同士のマウンティングは、いわばポイントカードの自慢合戦と言えるでしょう。
■定年後の悲劇
しかし、残念ながらこのポイントカードは企業社会の中でしか通用しません。家庭や地域でポイント自慢をしても、それはヤマダ電機のカードをヨドバシカメラで使おうとするようなもの。この事実に気づいていない男性は意外と多く、定年退職後に地域の集まりで現役時代の地位を自慢し、煙たがられてしまったりします。
相手に勝つという一つの価値観しか持てずに現役時代を終えると、その後が大変です。長年の間に出来上がった価値観は、そう簡単には変えられません。できれば現役時代から家庭や地域と密接に関わり、企業社会とは別のポイントカードがあり、それぞれのポイントのため方があることを知っておいてほしいものです。
競争を煽られた結果とはいえ、他者と比較することでしか自分の価値を確認できないなんて、とても幸福な状態とは言えません。男同士のマウンティングが起きる原因は、元をたどれば「競争社会の勝者=男らしい」という考え方。私たちは、こうした考え方や育て方を今すぐにでも改めるべきだと思います。
■結婚相手にしてはいけない男
意外かもしれませんが、男同士でマウンティングをするような男性は、女性に対してはあまりマウンティングしない傾向があります。なぜなら、彼らは女性を競争相手とは考えず、相手が妻であれ部下であれ、自分のキャリアを支える人として見ているからです。小さい頃から男と競争するように教えられ、母親がそれを支えてきたからかもしれません。
彼らは、「女性=自分がこれからも勝っていくために支えてくれる存在」だと思い込んでいます。そのため、女性のキャリアを意にかけません。働く女性はこんな人と結婚したら大変です。いくらエリートでも年収が高くても、読者の皆さんはこんな男を夫に選ばないようにしてください。
■部下がマウンティング男だったら
では、彼らが女性上司を持ったらどうなるのでしょう。本人としては、プライドが許さず非常につらい思いをします。自分はひどい目に遭っていると感じて怒りをため込み、あら探しや嫌がらせに走る場合もあります。中には「女性活躍のおかげで昇進しただけで、ただのお飾りだ」などと言う人もいるかもしれません。
もし部下にこういう男性がいても、彼らのペースに巻き込まれないでほしいと思います。男性以上に頑張って認められようと思う女性もいるかもしれませんが、会社に実力を認められた結果としてそのポジションを任されているわけですから、自分のペースを崩さないようにしてください。
彼らの独自ルールに合わせる必要はないのです。力むことなく淡々と接して、ハラスメントがあれば社内窓口に相談を。女性上司に向かって「お飾り」などと言うのはハラスメントですから、真に受けて悩んだり、じっと我慢したりすべきではありません。
■競争社会を改善していくことが重要
そう言う人たちは「競争を煽られてずっと頑張ってきたのに割を食った」と感じています。女性や年下に負けたと思うと、いてもたってもいられず、鬱憤(うっぷん)を晴らす方法を必死に探します。その結果、本当に割を食うのは女性や年下の上司たち。このサイクルはいつまで続くのでしょうか。
現実的には、今も「競争社会の勝者=男らしい」という考え方や育て方が続いており、企業の学歴フィルターも健在です。男同士のマウンティングも女性上司へのハラスメントも、完全になくすにはまだ時間がかかるでしょう。今後は一人ひとりが男らしさへの意識を改め、競争社会を改善していく必要があると思います。
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大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村 洋子 写真=iStock.com)
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