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橋下徹「トランプ氏が"会うといいヤツ"な理由」

プレジデントオンライン / 2019年9月20日 11時15分

首脳会談を前に握手するトランプ米大統領と習近平中国国家主席=大阪府大阪市、2019年6月29日撮影 - 写真=AFP/時事通信フォト

2017年1月の就任以来、アメリカのみならず全世界を引っ掻き回しているのが、アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏。その態度振る舞いにより全世界のインテリからは猛批判を浴びるが、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長を会談の場に引っ張り出すなどの成果もあり、国内の支持率は上昇気味だ。大阪府知事や大阪市長として数々の改革にチャレンジし成功を収めてきた橋下徹氏は、「膠着した現状を打破する」という一点で、トランプ大統領のやり方には学ぶべきことが多いという。そのポイントはどこか。3回にわたり紹介する。第3回のテーマは「交渉術」だ。

※本稿は橋下徹『トランプに学ぶ現状打破の鉄則』(プレジデント社)の「CASE7」から一部を抜粋したものです。

■僕だってトランプ氏が交渉相手だったら面倒だ

トランプのことを嫌いな人は、世界中にたくさんいると思う。でも、好き嫌いを脇におけば、トランプの政治的態度振る舞いは、実践的な交渉をする者にとって役立つことが非常に多い。観念の世界に生きる者ではなく、現実の世界に生きる者には大いに役立つと思う。

たとえばビジネスを進める上では、相手の好き嫌いはある意味どうでもいいことだ。成果がすべて。その視点から見ると、トランプの交渉術には現状を打破し、成果を出すノウハウが詰まっている。ゆえに、トランプの好き嫌いは別として、そのノウハウはしっかりと学ぶべきだろう。

激しい利害得失がうごめく現実の交渉の場では、トランプ的態度振る舞いが効果を発揮することが多い。

僕も政治家になる前の弁護士業務において、激しい交渉を数え切れないほどやってきたけど、正直「トランプが交渉相手だったら面倒だな」と感じるよ。交渉人にとっては、相手から「面倒だな」と思われるのが最高の栄誉で、逆に「楽だな」と思われた時点で失格なんだよね。

そういう意味でトランプは、ビジネスの世界では交渉人としてピカイチ。それも超Aクラスだと思う。まぁ、そんなことを僕が言わなくても、普通のビジネスマンなら、誰でもそう感じるだろうけどね。反対に、観念の世界で生きる学者たちには、トランプの能力のすごさはまったくわからないだろう。

■外国政府関係者がトランプホテルに泊まったら

破産というある意味すごい経験を2度しながらも、現在、ニューヨークなどで不動産事業を営み、自分の名前を冠した高層ビルを建てて、あのニューヨークで一等地中の一等地に立つ高層ビルの最上階を自宅にしている。ゴルフ場付きの自分の別荘では、安倍晋三首相とゴルフを堪能して日米首脳会談。世界には、「トランプ」の名を冠した不動産が存在する。

そういや、大統領選挙のときには、「TRUMP」という文字が大きくペイントされた大型ジェット機を自分で用意して、全米を飛び回っていたよね。彼は、このように普通の人じゃできないことを、「現実に」ちゃんとやっているんだよ。

2017年、ワシントンに行ったとき、僕はどんなものかとトランプホテルに泊まったんだ。かつての中央郵便局をリノベーションしたホテルで、趣味に合うかどうかは人それぞれだけど、それでもワシントンでは最大規模の立派なホテルだ。半端なく地価が高いワシントンの中心地にあって、巨大な吹き抜け空間を贅沢に使ったホテルだった。

このホテル、「外国の政府関係者が宿泊した場合には、彼ら彼女らが払った宿泊料はすべてその外国人の属する国の駐米大使館に寄付する」という仕組みになっているらしい。

以前、ちょっと問題になったけど、アメリカ大統領は「外国政府に支配されたらダメだ」という理由で、外国政府関係者からお金をもらうことはできない。このようなルールはだいたいどこの国にもあるんだけど、大統領が経営するホテルに外国政府関係者が泊まった場合にどうするのか。

明確なルールがないなかで、トランプはその宿泊料を、その外国人が属する国の駐米大使館に寄付することにしたらしい。タダでは泊まらせないけど、自分は利益を得ない。よく考えているよね。

ちなみに僕は日本維新の会の国会議員団とワシントンに行ったから、僕らが支払った宿泊費は、駐米日本大使館にすべて寄付されたらしい。

トランプのおっちゃんは、ぐちゃぐちゃ文句ばっかり言っている自称インテリなんかよりも、はるかに世の中の役に立つことをやっているよ。

■脅しながらもギリギリのところで人間関係を維持

交渉相手との個人的な人間関係を緊密にすることに関しても、トランプのやり方は神業だと思う。これは人間としてのキャラクターがものすごく影響してくるところだけど、このキャラクターづくりもある種の計算が必要だ。トランプはその点、しっかり計算しているよ。

彼の特徴は、個人的な関係が必要だと感じた相手に対しては、特に直接対面したとき、徹底して相手を持ち上げるということにある。ここまで言うかよ! というくらいに持ち上げるよね。

彼の手法が神業的なのは、激しく喧嘩をした相手にも、コロッと態度を変えて、喧嘩の激しさに比例して丁寧に敬意を表するところだ。もちろん、本心はどうかわからないけど、表面的にはそのような態度振る舞いを徹底的に行っている。

彼のこのような態度振る舞いは、彼と対面することもない第三者にとっては、不誠実で異常な精神の持ち主であるように映るかもしれない。特に自称インテリたちにとってはね。

でも、自称インテリたちはそんな心配をしなくてもいい。あんたたちは、トランプと直接交渉するチャンスもなければ、会うチャンスだってないんだから。

もちろん、真のプライベートな友人関係を形成する場合だったら、トランプのような態度振る舞いは逆効果かもしれない。でも、トランプが今形成している人間関係は、国益と国益が激しくぶつかり合う国際政治における、国家指導者間の人間関係だ。プライベートな友人関係とはまったく違う。

そんな関係だから、時には激しく対立し、喧嘩状態になることもあるだろう。特に、国家間の交渉時、相手にプレッシャーをかけながら交渉するのがトランプの常套手段。相手の弱みを的確に突くやり方なんだ。

通常、国家の指導者間では、儀礼的な態度振る舞いが主軸になる。まさに国家の指導者にふさわしいとされる、お坊ちゃん、お嬢ちゃん的な態度振る舞い。ポリティカル・コレクトネスに包まれた、綺麗な態度振る舞い。自称インテリたちが好むやつだね。

でもそれは、ほとんどが形式的・挨拶的な態度振る舞いであって、相手に対して失礼にならないことを第一に考えているだけ。それでは、現状を打破し、国家間の課題・事態を自分に有利に動かすことにはつながらない。

しかし、国家間の交渉に限らず、現状を打破し、交渉によって事態を自分に有利に運ぼうと思えば、相手を「脅す」か、相手に「利益を与える/譲歩する」か「お願いする」しかない。

トランプのように、「脅し」を多用する交渉手法でもっとも重要なのは、脅しながらもギリギリのところで交渉相手との人間関係は維持していくということだ。

これはとんでもない高度なテクニックで、普通はこんなことできないよ。相手を脅せば、普通は人間関係が決裂する。そこで、なお力で押し込んでいくのは素人の交渉人だ。脅しながらも決裂しないようにするのがプロの交渉人。

■国家指導者と喧嘩をしても戦争にはならない交渉術

また、国家の指導者間の関係では、最後には戦争になり得る危険性がある。そうならないよう、最後にはきちんと交渉でまとめたいと思っているのであれば、たとえ交渉の途中で相手と激しい喧嘩をしても、決定的な人間関係の決裂にはつながらないような態度振る舞いが必要になる。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

そこでトランプは、自分の部下や政府組織には、相手ととことん喧嘩をさせる。場合によってはトランプ自身も、ツイッターなどで相手にプレッシャーをかける。しかし、そうかと思えば、歯の浮くようなお世辞も平気で言う。そして直接会った相手には、丁寧な態度にとどまらず、とことん相手を評価し、持ち上げ、信頼するような態度をとる。

特に、その国家指導者との個人的な信頼関係が最後はモノをいうような非民主主義国家の指導者に対しては、歯の浮くようなお世辞を連発するんだ。

他方、どれだけ国家指導者間で口喧嘩になったとしても、国と国との関係が最終的に決裂することはなく、ましてや戦争になることも絶対にない民主主義国家の指導者に対しては、厳しい対応を取り、そのまま放っておくこともある。

よく考えてるよ。

さっきも言ったけど、このトランプ的態度振る舞いは、真のプライベートな友人関係を形成するためのものではない。激しく交渉することを前提に、ギリギリのところで決定的な決裂を避けるための態度振る舞いだ。

結局のところ、トランプの根っこはビジネスマンなんだ。だから、政治の世界においても、ビジネス上の付き合いと、プライベートな付き合いは別だと割り切っているんだろう。

トランプは中国に対して、これだけ激しい貿易戦争を仕掛けているのに、表では「習近平主席は友人だ」と言うことを憚らない。だから、これだけ無茶をやられている習近平も、「トランプは友人だ」と言わざるを得ない状況になっている。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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