本を1冊ずつ読む人がアイデアを出せないワケ
プレジデントオンライン / 2019年9月23日 6時15分
※本稿は、成毛眞『一流になりたければ2駅前で降りなさい』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■本は10冊同時に読んで脳内でミックスさせる
私の本を何冊か読んでくれている人は、私が「本は10冊同時に読む」主義であることをよく知っていると思う。知らない人のために説明すると、集中・速読がよしとされがちな読書の世界でも、そこにとらわれる必要はないということであり、むしろ散漫でいいし、遅読だっていいということだ。
なぜ散漫がいいかというと、それが自分の脳の中でミックスされるからだ。
『海と陸をつなぐ進化論 気候変動と微生物がもたらした驚きの共進化』
『ロードアイランド・スクール・オブ・デザインに学ぶクリティカル・メイキングの授業 アート思考+デザイン思考が導く、批判的ものづくり』
『生命科学クライシス 新薬開発の危ない現場』
『世にも危険な医療の世界史』
『へんちくりん江戸挿絵本』
『ウイリアム・ウイリス伝 薩摩に英国医学をもたらした男』
『掃除で心は磨けるのか』
『わたしが「軽さ」を取り戻すまで "シャルリ・エブド"を生き残って』
『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』
たとえばこれは、私の主宰する書評サイトHONZでの、ある日の「おすすめ本レビュー」の新しい方から数えた10冊である。レビュアーが偏ったせいでいささか選書に偏りがあるが、それでも、社会系、サイエンス系、歴史物などルールなくばらけていて、サイエンスものとひとことで言っても、ジャンルは別である。
■思わぬアイデアが降ってくる本の並べ方
こんな風にバラバラな本を読んでいるとどんなことが起こるか。アマゾンの検索窓にバラバラな単語を並べ、虫眼鏡マークを押した時のような、ビックリ仰天せざるを得ない何かに出会うこともある。もちろん出会わないこともあるが、しかし、やってみなくては絶対に出会えない。
他の誰かには出会えない、自分だけが出会える何かに遭遇する可能性を増やすため、10冊同時に読むのである。
さらに未知との遭遇に貪欲になりたければ、読んだ本、これから読む本の保管方法にも工夫をすべきだ。
私は本棚にはルールを設ける主義で、そのことは『本棚にもルールがある』(文庫版のタイトルは『ズバ抜けて頭がいい人の「本棚」は何が違うのか』)にも書いているが、これについてもまたここで簡単に説明すると、要するに、本は科学や歴史、美術や人物伝、経営や料理など、ジャンルごとにまとめて並べるべきだということである。
■異なるジャンルを混ぜると化学反応が生まれる
それぞれのジャンルからすでに読み終えた本を1冊ずつ取り出して並べると、あたかも10冊同時に読んでいるかのような感覚が味わえるのだ。そこに、今読んでいる本を加えると、それは今の自分の興味の対象と、過去の自分の興味の対象のマッシュアップとなり、過去にその本を読んだ時には、今その本を読んでいるだけでは起こりえない、化学反応の可能性が生まれるのだ。まったく別ジャンルだと思っていたものに、共通項を見出せるかもしれないのである。
これは、1冊の本を集中して読み、読み終えたら見向きもしない人には決して得られない、アイデアの生み出し方である。
私がこれを繰り返し主張しているのは、何度言ってもやらない人はやらなくて、それでいて「アイデアが出ない」と言っているからだ。
なので、テレビも録画し、同じ番組を続けて見るのではなく、1回の放送分を見終わったら別の番組にスイッチする、最近録画した番組の後に、だいぶ前に録った別の番組を見るのが一番良い。与えられた順番で見ていては、他人と同じ感想しか抱けない。
ただし、念のため言い添えると、小説やドラマは別である。
これは一つの話を順序立てて理解していくしかない。複数の話を、順序を入れ替えても理解できる人がいるなら、この本を読んでいる場合ではない。その特異な才能を磨き、活かすべきである。
■キーワードをどこか一ヶ所にまとめる習慣を
ここで、優秀なる読者諸氏は気付いているだろう。
そんなに混ぜるのが良いならば、本と本、テレビとテレビだけでなく、本とテレビ、ネット、人との会話、街で見かけた看板、耳に入ってきた言葉などなどを、媒体やスタイルをまたいでつなぎ合わせるべきではないかと。
その通りだ。
ただし、今のところ人間は、テレビをBGVがわりに流しながら本を読むことはできるが、テレビを見ながら本を読み、かつ人と話し、街を歩くことはできない。できる天才中の天才がいるのならば、一刻も早くこの本を置き、そのマルチな才能を発揮して活躍するべきなのは言うまでもない。
では、天才中の天才ではない人はどうしたらいいかというと、読んだ本、見たテレビ、聞いた話などから、これはというキーワードをどこか一ヶ所にまとめておくことだろう。大事なのは、まとめるというより、とにかく一ヶ所に集めることである。リアル寄り道にはデカい鞄が必要なように、知的寄り道にはとにかく何でも詰め込める、言葉の容器が必要なのだ。
私の場合は一つのワードのファイルに、書き殴るようにしてキーワードをため込んでいる。入力した情報は整理しない。丁寧な説明も加えない。
なので、後で見返したら「なんのこっちゃ」となることもある。
しかしそれでいいのだ。なにせ、これは寄り道である。成果をすぐに求めてはいけない。なんのこっちゃと思いつつ、ひたすらそこに言葉をため込んで、可能性を醸成する。
街中ではっとキーワードに出会っても、今はスマホがあるからメモができる。この時私はワードファイルは開かずに、自分宛にメールを送るようにしている。そしてパソコンで作業をする時に、いそいそとメールからファイルにコピペする。思いついた時と、コピペする時、二度、その言葉に触れることで、本を読み返すような効果が期待できるからだ。
そのファイルを眺めていて、あるいは眺めていない時でも、キーワード以上の何かが頭の中にひらめいたら、それをフェイスブックに書くこともある。
■フェイスブックは公開ネタ帳として使え
私にとってのフェイスブックは交流ツールではなく、まず、仕事相手との連絡ツールであり、それから、アイデアのマーケティングツールである。思いついたことを書いてみて、その反応を見る。そして反応が良ければ、近い話題をまとめて提供してもみる。
するとコメント欄に新しいアイデアのタネが集まることもあり、そうこうしているうちに出版社から声がかかり、1冊の本として出版と相成ることもある。
もちろんならないこともあるが、しかし、百発百中とはいかないことは承知の上。自分の中に蓄積するだけでは絶対に起こらない化学反応が起きることがあるのである。
だから、他人が興味を持たないようなこと、非効率だとバカにするようなことでもあえてして、意味がないと思われそうなアウトプットもし、その結果、ちゃっかり実利をいただけるのだ。
このようにフェイスブックを使っていない人は、とてつもない機会損失をしている。
■雑学は生き残るための武器になる
つまるところ、思考の寄り道とはオリジナルの発想の源泉であり、雑学を身につけるプロセスでもある。
この雑学こそが、何か一つの道を極めるわけではない、寄り道派が生き残るための武器になる。
『東大王』というクイズ番組があるが、あの番組に出演している東大生は、東大に入るための受験勉強という道を極めただけでなく、雑学についても網羅しようとしていて、本当に頭が良いとはこういう人たちだなと思う。
なお、東大に入るだけなら誰でもできる。システマティックに受験勉強をこなしていれば入れるので、これは、メジャーリーグで活躍したりノーベル賞を受賞したりするのに比べると、はるかにたやすい。そして東大生になったとして、それだけでは努力に見合ったリターンは得られない。東大王たちはそれに気付いているのだろう。
受験勉強だけをしてきた東大生と東大王は、持っている雑学の量が違うのだが、その結果、視野の広さも異なる。
私なら、タダの東大生と話すより、東大王と話したい。いろいろな話を聞けそうだからだ。ほとんどの人がそう思うだろう。
ここから東大生という要素を取り除いても同じことだ。
■雑学があると多くの人と会話でき、さらに雑学が増える
タダの人と雑学がある人とでは、雑学のある人と話す方が楽しいし、刺激になるし、勉強にもなる。
また、タダの阪神タイガースファンと私との間では、おそらく会話が成立しないが、雑学もある阪神タイガースファンとの間では、その雑学という共通項で話ができる。
雑学があるからより多くの人と会話ができ、たくさんの人と話すから、さらに雑学が身につくのだ。
では、一人で雑学を身につける場合にはどうしたらいいか。
その方法の一つが、ここまで書いてきたような思考の寄り道だ。ランダムな本の組み合わせや、過去の興味と今の興味のすり合わせは擬似的な対話である。
だから、ただ検索したり本を読んだりするのでは得られないものが、そこに見出せるのだ。
先に挙げた行為は、一見ただの暇つぶしで無駄な行為に思える。しかし、その積み重ねが雑学を吸収しやすい体質をつくる。一度、そのサイクルが回りはじめれば、雑学は加速度的に身についていく。それが、何か一つを極めることを選ばない人にとっての生存戦略だ。
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書評サイト HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大商学部卒。マイクロソフト社長を経て投資コンサルティング会社インスパイアを創業。書評家としても活躍。著書に『黄金のアウトプット術 インプットした情報を「お金」に変える』『定年まで待つな!』『amazon』など。
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(書評サイト HONZ代表 成毛 眞)
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